伴侶はんりょ)” の例文
昔の旅の伴侶はんりょの顔を見れば、いつでも、愉快な情景や、面白い冒険や、すばらしい冗談などの尽きぬ思い出がきでてくるものだ。
駅馬車 (新字新仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
なんであなたほどのかたが、妻におもねり、機嫌ばかり取っているような、そんな男を男と見ましょうか、伴侶はんりょとして選みましょうか。
平塚明子(らいてう) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
それは曾祖父の友でもあったが、また同じく、祖父の終生の伴侶はんりょでもあった。一家の悲喜哀楽の一世紀が、それから立ちのぼっていた。
左大臣はおろか、帝のきさきと云ってもよい程の容貌と品威に恵まれた人が、相手もあろうに無能力者の老翁の伴侶はんりょとなったのである。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
でも生涯の伴侶はんりょにするものではない。おまえはいいにしろ、周囲に不和と不慮のいざこざが絶えぬ。たとえば秦明しんめいの家族があえない死を
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そういう時の彼の胸にはよく「愛と智慧ちえとに満ちたアッソシエ」の言葉が浮んで来る。「アッソシエ」とは生涯の伴侶はんりょという意味に当る。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
また一方では小学教員をたっとい神聖なものにして、少年少女の無邪気な伴侶はんりょとして一生を送るほうが理想的な生活だとも思った。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
誰か一人ひとり亭主と定めた男を持ち、生活の伴侶はんりょにして置きたいという心持にもなるのであろう——まずこんなように解釈するよりほかにその道がない。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
『おれも良き夫であったが——』と悲しみの底で彼はしみじみつぶやきました。『久美子もおれの良き伴侶はんりょだった』
Sの背中 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
ことに徒然つれづれなる旅宿の伴侶はんりょとして、遠い国元から取り寄せる品としては、これほど手軽なものはまず他にはなかったので、いわゆる座頭の京登りのごときも
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ただそれは浮世絵の如き、みやこびた繊細な文化を語るのではない。素朴な確実な郷土の風格を保有する。優美な姿はなくとも、ことごとくが便りになる篤実な伴侶はんりょである。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「君だって何かなくては困るよ。いつも若ければいいが、年を取れば取るほど生活の伴侶はんりょは必要だよ。」
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
これは伝道の助手としてのみでなく、イエスの伴侶はんりょとして、イエスの愛の特別の対象として、またイエスを身近くいたわり慰むべき者として選み出されたものでしょう。
俊寛 清盛はなぜ特別にわしをにくむのだ。わしから二人の伴侶はんりょ無慈悲むじひうばい去ろうとするのだ。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
この一呼吸に一年と半年に及ぶながい月日をつぶしてしまった。そして幾人かの伴侶はんりょを見うしなった。そういう困憊こんぱいもこれでおしまいであろう——昨夜はそうも考えた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
身よりのない二人こそ終生の最もいい伴侶はんりょだというような、真面目まじめくさった考も持っていた。
九月一日 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
私は今更ながらいい伴侶はんりょと共に発足する自分であることを知りました。気持もかなり調和的になっていたのでこの友の行為から私自身を責め過ぎることはありませんでした。
橡の花 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
長年のあいだ彼のただ一人の伴侶はんりょであり——この世における最後にして唯一の血縁である——深く愛している妹の、長いあいだの重病を、——またはっきり迫っている死を
彼は一寸ちょっとした好奇心をそそられながら、しばらくの伴侶はんりょたるべき人の出て来るのを、待っていた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
生母はのちに清樹院といわれた側室で、この人が貞良の生涯よき伴侶はんりょとなったのである。生れた子は亀千代と名づけられたが、成長して父の跡を継いだ越後守貞意は彼である。
菊千代抄 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
しかし彼が持っている円滑で自在な魂は、かならずしも、人生の伴侶はんりょとして特に自分を指名する切実性を持つ魂とは受取れなくなった。美人で才能ある女なら誰でもよさそうだった。
明暗 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
彼を彼自身のように知っているものは何処どこにもいない。陽の照る時には、彼の忠実な伴侶はんりょはその影であるだろう。空が曇り果てる時には、そして夜には、伴侶たるべき彼の影もない。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
初めて文明男子の伴侶はんりょとして対等なる文明婦人の資格を作ることが出来ようと思う。
婦人と思想 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
それは自分の糟糠そうこうの妻の如き好伴侶はんりょで、そいつと二人きりでびしく遊びたわむれているというのも、自分の生きている姿勢の一つだったかも知れないし、また、俗に、すねに傷持つ身
人間失格 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ある西洋人がからすを飼って耕作の伴侶はんりょにしていた気持ちも少しわかって来た。
ねずみと猫 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
この銘は、著者のひそかな希願を表明したもので、ジャン・クリストフが著者にとってと同様に読者にとっても、苦難を通じてのよき伴侶はんりょであり案内人であらんことを、祈ったものである。
天武天皇崩御の後位を継ぎ、持統天皇と申し上げたことは前に述べたとおりである。即ち皇后は御生涯にわたって、天武天皇の最もよき伴侶はんりょであり、一切の労苦を偕に忍ばれたのであった。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
この世の伴侶はんりょとして常に自分の影の如く伴って行くことができるのである。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
そして彼女が立ち去った後、彼はふたたび芸術へ立ちもどった、自分の古い伴侶はんりょのもとへ……。おう、星をちりばめた空の平和よ!……
むしろうれいの色すら濃い。血は同じでも、人生の伴侶はんりょを選ぶについては、父娘おやこでも見解の相違のぜひないことが、とたんにはっきり分った。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「まあ、あれならば」とか、「ちょっときれいだ」とか云うくらいな、ほんの一時の心持で一生の伴侶はんりょを定めるなんて、そんな馬鹿ばかなことが出来るものじゃない。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
あの普通のものにかえって豊かな美を示している古作品の前に何の弁解があるか。かえって器を民衆の伴侶はんりょとして作る時に、高い美が生れることを忘れてはいまいか。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
女も彼の日常の伴侶はんりょであり、朝夕の話相手でありうるのだったが、彼の生活に溶けこむこともできない生活条件の下では、かえって重荷を、あんな事件もあった後で
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
夕暮れには、赤い夕焼けの雲を望んで、弥勒の野に静かにおさ伴侶はんりょとしているさびしき、友の心を思うと書いてあった。弥勒野から都を望む心はいっそうせつであった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
よき伴侶はんりょと見きわめ、妹をもらってくれといったのだというふうに、わたしはきいている。
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
江戸絵図はかくて日和下駄蝙蝠傘と共に私の散歩には是非ともなくてはならぬ伴侶はんりょとなった。江戸絵図によって見知らぬ裏町をあゆみ行けば身はおのずからその時代にあるが如き心持となる。
倉地もそういう女を自分の伴侶はんりょとするのをあながち無頓着むとんじゃくには思わぬらしかった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ひさごの盛んに用いられた時代を推測し、許由以来の支那の隠君子等がこまを出したり自分を吸込ませたり終始この単純なる器具を伴侶はんりょとしているには、何か民俗上の理由があるらしいことを
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
幸福にせよ不幸にせよ、生まれた土地とともに暮らしたのだ。それは母であり伴侶はんりょであった。その中に眠り、その上に眠り、それに浸されていた。
否、そんなものであっては、普遍的性質を失います。誰の伴侶はんりょにもなる土瓶であってこそよいのであります。個人の癖などあらわに出たら、使いにくい品となりましょう。
益子の絵土瓶 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
長い人生の行路の途中でたまたま行きったに過ぎないルイズのような女にさえも肌を許すのに、その惑溺わくできの半分をすら、感ずることの出来ない人を生涯の伴侶はんりょにしていると云うのは
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ここまで私の伴侶はんりょであった(恐らくは少数の)読者も、絶望して私から離れてしまうかも知れない。私はその時読者の忍耐の弱さを不満に思うよりも私自身の体験の不十分さを悲しむほかはない。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
氏にも美しくけんなる伴侶はんりょがある。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
すぐに彼らは古来の伴侶はんりょのもとに、土地に、もどってゆく。フランス人をフランスに執着させるものは、フランス人よりもむしろ、その土地なのだ。
「親しさ」、これをこそ工藝の特質と云えないだろうか。日々の伴侶はんりょたるもの、この蕪雑ぶざつな現実の世界に吾々の身に仕え心を慰めようとて生れたるもの、それを工藝と云えないだろうか。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
老年に及んでいとしい人にそむかれた父が、前から好きであった酒を一層たしなむようになり、それを唯一の伴侶はんりょとするに至ったのは是非もないことだけれども、その酔い方がだん/\狂暴に
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
大芸術家の伴侶はんりょであって、その力強い魂から咲き出したように見える、貴族的ないじらしい友とも言えるのだった。
器具とはいうも日々の伴侶はんりょである。私たちの生活を補佐する忠実な友達である。誰もそれらに便たよりつつ一日を送る。その姿には誠実な美があるではないか。謙譲の徳が現れているではないか。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
婦人はこの社会で、法外な異常な地位を占めていた。もはや男子の伴侶はんりょたることだけでは満足しなかった。男子と同等になってさえも満足しなかった。
それは貴賤の別なく、貧富の差なく、凡ての衆生しゅじょう伴侶はんりょである。これに守られずば日々を送ることが出来ぬ。あしたも夕べも品々に囲まれて暮れる。それは私たちの心を柔らげようとの贈物ではないか。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)