不審いぶかし)” の例文
それかと云つて、自分の恋人の父を、すげなく返す気にもなれなかつた。彼女が躊躇してゐるのを見ると、子爵は不審いぶかしさうに訊いた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
其顏そのかほ不審いぶかしげにあふぎて、姉樣人形ねえさまにんぎやうくださるか、げまするとわづかにうなづ令孃ひめ甚之助じんのすけうれしくたちあがつて、つたつた。
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
不審いぶかしそうに聞く。清吉は何をいわれてもはいはいといって、脚気さえなおればぐ帰るんだといった。兵蔵は
蝋人形 (新字新仮名) / 小川未明(著)
いと不審いぶかし如何なる者の住家すみかならんと思ひながらうゑたるまゝに獨り食事しよくじし終り再び圍爐裡ゐろりはたへ來りてかの男にあつく禮を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
あえて疑うというではないが、まさかと思う心から人にも、確めてもらいたいので、わざと不審いぶかしげにつぶやいた。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「別に大した事もないがね」う云って探偵は鼻から煙草の煙を出しサディの方に不審いぶかしげな顔を向けた。
赤い手 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
女も眼をさまして起上おきあがると見る間に、一人は消えて一人は残り、何におどろいておきたのかときかれ、実は斯々これこれ伍什いちぶしじゅうを語るに、女不審いぶかしげにこのほども或る客と同衾どうきんせしに
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
難有ありがとう」と言ったぎり自分が躊躇もじもじしているので斎藤は不審いぶかしそうに自分を見ていたが、「イヤ失敬」と言って去ってしまった。十歩を隔てて彼は振返って見たに違ない。自分は思わずくびすくめた。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
小屋仲間ちゅうげんは起き出して来て、不審いぶかしげに沢庵のすがたを見ていたが、いつも秀忠将軍の側について、将軍家とも閣老とも、臆面なくことばを交わしている坊さんかと、やがてに落ちた顔つきで
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
不審いぶかしみながらも彦兵衛、嫌応はない、百合を折っては河へ捨てた。
「姉さんは何処どこか悪かったんですか」と三吉は不審いぶかしそうに。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それかと云って、自分の恋人の父を、すげなく返す気にもなれなかった。彼女が躊躇ちゅうちょしているのを見ると、子爵は不審いぶかしそうにいた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
さつし是々御浪人我等は此樣に見苦しき身形みなりゆゑ定めて不審いぶかしき者とおぼされんが必ず御心配なさるに及ばず某は讃州さんしう丸龜まるがめに住居なす後藤半四郎秀國ひでくにとて劔道けんだう指南しなん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
よもや植木屋うゑきや息子むすこにてはあるまじく、さりとて住替すみかはりし風説うはさかねばほかひとはずなし、不審いぶかしさよのそここゝろは其人そのひとゆかしければなり、ようもなき庭歩行にはあるきにありし垣根かきねきは
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
と、言うと乞食は不審いぶかしそうな顔付かおつきをして、立止って二郎の顔をつくづくと眺めて
迷い路 (新字新仮名) / 小川未明(著)
いや、いや、もしその人だとすれば——三年以前に別れてから、片時も想わずにはおらぬ、寝た間も忘れはしないのであるから、幻も、そのおもかげ当然あたりまえで、かえって不審いぶかしくもすごくもないはず
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すると巨大な其男は、不審いぶかしそうに斯う云いました。
人間製造 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ひらかせ見れば手紙一通有り養母も不審いぶかしとは思へ共城富の名宛なあてゆゑひらき見ても宜しかるべしとふう押開おしひらきて見るに
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
いはずつむる目元めもとうとくなりてや不審いぶかしげに誰何どなたさまぞとはるゝもつらしおたか頭巾づきん
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)