三囲みめぐり)” の例文
旧字:三圍
平次は三囲みめぐりの前に来た時、堤の下を覗きました。そこにつないだ一そうの屋根船の中には、上を下への大騒動が始まっているのです。
向島は桜というよりもむしろ雪とか月とかで優れて面白く、三囲みめぐり雁木がんぎに船をつないで、秋の紅葉を探勝することは特によろこばれていた。
亡び行く江戸趣味 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
佐倉屋の四人が三囲みめぐりから舟に乗り、両国橋の下をくぐって、矢の倉河岸の近くまで来たとき、佐倉屋が、ちょっと、と言ってともへ立った。
顎十郎捕物帳:14 蕃拉布 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
三囲みめぐりから白鬚しらひげ、遠くは木母寺もくぼじまで肩摩轂撃けんまこくげき、土手際にはよしず張りの茶店、くわいの串ざしや、きぬかつぎを売り物に赤前垂が客を呼ぶ。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
一匹のけものと一人の女、走る走る東北へ! 三囲みめぐりから牛御前うしごぜん長命寺ちょうみょうじから須崎すざきたんぼ! 一面の野面のづら、諸所に林、人家乏しく、耕地も乏しい。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
三囲みめぐり祠あり。中流より望みてその華表とりいの上半のみ見ゆるに、初めてこれを見る人もすいしてその三囲祠たるを知るべし。
水の東京 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
第二図三囲みめぐりの堤を見れば時雨しぐれを催す空合そらあいに行く人の影まれに、待乳山まつちやま(下巻第三図)には寺男一人落葉おちばを掃く処、鳥居際とりいぎわなる一樹の紅葉こうように風雅の客二人ににん
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
川向うは三囲みめぐりの土手、枕橋まくらばしから向島はちょうど墨絵の夕べである。宵闇をって、チラチラ飛んでゆく駕のも見えだしたが、まだ空も明るく川も明るかった。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三囲みめぐりサマ、牛の御前、白ヒゲ、百花園と昔から風雅な土地であるが、出水が玉にキズの土地でもあった。
堤に出て、少し行って、だらだら坂をくだると、三囲みめぐり神社の境内けいだいだった。山野夫人は坂の降り口の所で、又注意深く左右を見廻してから、神社の中へ入って行った。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
三囲みめぐり稲荷いなり堤上より拝し、腹まだ治まらねば団子かじる気もなく、ようやく百花園への道札見付けて堤を右へ下り、小溝に沿うてまがりくねりの道を行く半町ばかり。
半日ある記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
三囲みめぐり堤下どてしたを歩いていると、一軒の農家の前に十七、八の若い娘が白い手拭てぬぐいをかぶって、今書いたばかりの「久松るす」という女文字の紙札を軒に貼っているのを見た。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
三囲みめぐり華表とりいを圧して巍然ぎぜんそびえたコンクリートの建物である、——六月の曇った空のいろを浮べた隅田川のものういながれが、一層その眺めを荒廃したものにみせていた……
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
吾妻橋あづまばしをぬけ小梅を右にみて、三囲みめぐりの少し上までのぼると、笛の客が桟橋を教えて、舟は着いた。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
向島むこうじまの百花園に行った帰途かえるさ三囲みめぐりのあたりから土手へさっと雲がかかって、大川が白くなったので、仲見世前まで腕車くるまで来て、あれから電車に乗ろうとしたが、いつもの雑沓ざっとう
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
待乳山まっちやまを背にして今戸橋いまどばしのたもと、竹屋の渡しを、山谷堀さんやぼりをへだてたとなりにして、墨堤ぼくてい言問ことといを、三囲みめぐり神社の鳥居の頭を、向岸に見わたす広い一構ひとかまえが、評判の旗亭きてい有明楼であった。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
やり切れないこの気持でいるのにわたしはちょうど向島の三囲みめぐり稲荷に献額けんがくする現代江戸派の俳諧の揮毫きごうを頼まれて、これを書き上げるのに式日まで四五日の期日をあましているだけだ。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
魔除けのサンヅ縄をおのれと木とのめぐりに三囲みめぐり引きめぐらし、鉄砲をたてに抱へてまどろみたりしに、夜深く物音のするに心付けば、大なる僧形の者赤き衣を羽のやうに羽ばたきして
遠野物語 (新字旧仮名) / 柳田国男(著)
学校は大きな料理屋の跡らしく、三囲みめぐり神社の少し手前でした。立木が繁って、大きな池があり、池には飛石が並んでいました。子供たちが面白がって渡っては、よく落ちたものでした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
午後になってから、おばあさんが私を近所の三囲みめぐりさまへ連れ出しても、その石碑の多い境内や蓮池はすいけのほとりで他の子供たちが面白そうに遊んでいるのを、私はぼんやりと見守っているきりだった。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
この永機は明治初年の頃に向島の三囲みめぐり社内の其角堂に住み、のち芝円山辺に家を移して没した。没した日は明治三十七年一月十日で、行年八十二歳であった。寺は其角と同じく二本榎上行寺である。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
三囲みめぐりのあたりからもうぶちのめし
下町歳事記 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
三囲みめぐりから、竹屋の渡しを渡って、待乳山まつちやま馬道うまみち、富士神社と来ると、鉛色の空に、十二階のシルエットが浮いている。
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
大川筋では誰も知る竹屋の渡し、三囲みめぐり前から堤下の桟橋、馴れた足取りで船へ乗る蛇の目傘の女客、春雨時分の渡し船は、都鳥の姿とともに一段の風趣を添えた。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
三囲みめぐり堤下どてしたを歩いていると、一軒の農家の前に十七、八の若い娘が白い手拭をかぶって、今書いたばかりの「久松るす」という女文字の紙札を軒に貼っているのを見た。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
三囲みめぐりの土手に立って、ぼんやり腕をんでいた。何となく、不安が胸へ潮のようにさしてくる。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
秋葉に秋葉芸者とて三囲みめぐり土手下の芸者とは別の組合出来たりしは大正改元の頃にやあらん。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
隅田川の三囲みめぐり様のあたりの杭にひっかかっていた大男の水死人があった。
ある山中さんちゅうにて小屋こやを作るいとまなくて、とある大木の下に寄り、魔除まよけのサンズなわをおのれと木のめぐりに三囲みめぐり引きめぐらし、鉄砲をたてかかえてまどろみたりしに、夜深く物音のするに心づけば
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「廻れ! 右の方へ! 三囲みめぐりの方へ!」同心佃三弥が叫んだ。
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
宝井其角が「三囲みめぐり」の発句をんで、夕立を降らせたという伝説が、真面目に信ぜられた時代の人達の心持は、今の人には想像もつかぬものがあった筈です。
こんな話をしているうちに、二人はいつか三囲みめぐりを通りすぎていた。どてはもう葉桜になって、日曜日でも雑沓していないのが、わたし達に取っては却って仕合わせであった。
半七捕物帳:10 広重と河獺 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
三囲みめぐり橋場はしば今戸いまど真崎まっさき山谷堀さんやぼり待乳山まつちやま等の如き名所の風景に対しては、いかなる平凡の画家といへども容易に絶好の山水画を作ることを得べし。いはんや広重においてをや。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
向島三囲みめぐりの土手下に楽焼のかまどを開いたのが明治三十年頃、文人墨客の出入り絶えず、文士では紅葉、思案、麦人なども遊びに来て、縁側の障子四枚はそれらの連中の楽書きでいっぱい
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
そんなことをいううちに、船は三囲みめぐりから竹屋の渡し、水戸様御下屋敷前まで来ておりました。
吾人ごじんは日比谷青山辺に見るが如き鉄鎖とセメントの新公園をここにもまた見るに至るのであろう。三囲みめぐりの堤に架せられべき鉄橋の工事も去年あたりから、大に進捗したようである。
向嶋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
私は向島むかうじま三囲みめぐり白髯しらひげに新しく橋梁の出来る事を決して悲しむ者ではない。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
私は向島の三囲みめぐり白髯しらひげに新しく橋梁の出来る事を決して悲しむ者ではない。
明治五年向島三囲みめぐり稲荷の境内にその門人らの建立こんりゅうせし国芳の碑あり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)