針線はりがね)” の例文
ほかの事は見様みよう見真似で行くが、肝心の管を巻くのと、栓に針線はりがねを植えるのとが大事の呼吸もので、亭主の熟練でなくてはだめだとの事。
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
「ときどきおそろしい電気でんきとおると、わたし顔色かおいろさおになるのだ。みんなこの傷口きずぐち針線はりがねでつつかれたあとさ。」といいました。
電信柱と妙な男 (新字新仮名) / 小川未明(著)
細い針線はりがねの棒に脱脂綿を巻き着け、ヨヂウムのやうな薬液を浸して、そろ/\と鼻の奥へ突つ込む。
青春物語:02 青春物語 (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
降りる時、ひゅうという音がして、頭の上の針線はりがねが鳴ったのに気がついて、空を見たら、この猛烈な自然の力の狂う間に、いつもより明らかな日がのそりと出ていた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
けてながめうとおもはなを、つとのまゝへやかせていて、待搆まちかまへたつくなひのかれなんぢや! つんぼの、をうしの、明盲人あきめくらの、鮫膚さめはだこしたぬ、針線はりがねのやうな縮毛ちゞれつけ人膚ひとはだ留木とめきかをりかはりに
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それを細い針線はりがねの先の輪になったものでひっかけて抜出せばモー安心さ。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
この石だ、それを針線はりがねのように、偃松が幾箇処も縫っている。
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
部屋のなかを見廻すと真中まんなかに大きな長いかしテーブルが置いてある。其上には何だか込み入つた、ふと針線はりがねだらけの器械が乗つかつて、其わきに大きな硝子がらすはちに水が入れてある。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
その栓から糸のような黄銅しんちゅう針線はりがねが管の突先とっさきまでさしこんであって、管へ墨汁すみしるを入れて字なり何なり書くと、その針線の工合で墨が細く切れずに出る、というだけの物だ。
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
全身の筋肉を針線はりがねのように緊張させ、べての部分に運動神経を働かせていました。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
まだ突立つったったままで、誰も人の立たぬ店のさみしい灯先ひさきに、長煙草ながぎせるを、と横に取って細いぼろ切れを引掛ひっかけて、のろのろと取ったり引いたり、脂通やにどおしの針線はりがねに黒くうねってからむのが、かかる折から
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
また大きな黒い太い烟突に目が止るのだが、烟突を四方から針線はりがねで引張ってある。その針線も烟突が新しく出来始めの頃に張ったもので、糸のように痩せてこれすら中には一筋二筋切れ離れていた。
暗い空 (新字新仮名) / 小川未明(著)
旗振はたふりの着るヘル地の織目は、ほこりがいっぱい溜って、黄色にぼけている。古本屋から洋服が出て来る。鳥打帽が寄席よせの前に立っている。今晩の語り物が塗板に白くかいてある。空は針線はりがねだらけである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
咄喊とっかんはこのよくせきをせんじ詰めて、煮詰めて、缶詰かんづめにした声である。死ぬか生きるか娑婆しゃばか地獄かと云うきわどい針線はりがねの上に立ってぶるいをするとき自然と横膈膜おうかくまくの底からき上がる至誠の声である。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
りるとき、ひゆうといふおとがして、あたまうへ針線はりがねつたのにいて、そらたら、この猛烈まうれつ自然しぜんちからくるあひだに、何時いつもよりあきらかながのそりとてゐた。かぜ洋袴ずぼんまたつめたくしてぎた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)