軽業師かるわざし)” の例文
旧字:輕業師
両方りょうほう軽業師かるわざしのするのをたものは、あたまをかしげました。それほど、この二人ふたりげいは、人間にんげんばなれがしているといってよかったのです。
二人の軽業師 (新字新仮名) / 小川未明(著)
村むらを興行こうぎょうして歩くサーカス団がありました。十人そこそこの軽業師かるわざしと、年をとった黒くまと馬二とうだけの小さな団です。
正坊とクロ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
そのへんに同じように葭簀張よしずばりの小屋を仕つらえた乞食芝居こじきしばい桶抜おけぬ籠抜かごぬけなどの軽業師かるわざしも追々に見物を呼び集めている処であった。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
チャリネの軽業師かるわざしは、十歳に足らぬ幼児に、三丈も高い空中で、鳥の様に撞木とまりぎから撞木へ渡る術を教え込むことが出来るではありませんか。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「おい、姐さん。早速だが少し聞きてえことがあるんだ。あの小屋に出ている春風小柳こりゅうという女の軽業師かるわざし、あいつの亭主は何といったっけね」
半七捕物帳:02 石灯籠 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
インドまた香具売り兼幻師てじなし軽業師かるわざしで歌舞乞食しあるき、その妻女艶美でしばしば貴人に御目留まる賤民乾闥婆と呼ばるるあり。
軽業師かるわざしの足つきで煙突に移ると、五メートルばかり上をのぼる山口と声を合わせて笑い、そのままある快適なリズムにのり鉄梯子てつばしごをのぼりはじめた。
煙突 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
伊沢の門下で枳園楊庵の二人は一双の奇癖家として遇せられていた。声色つかい軽業師かるわざしも、共に十七歳の諸生であった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それとともに何ヶ月振りかで彼女の白い太股についている紫色のあざのようなものを見た。それは軽業師かるわざしにして始めてよくする処の外のなにものでもない。
階段 (新字新仮名) / 海野十三(著)
父親は軽業師かるわざしのようにすばやく、暖炉の上にあった口の欠けたつぼを取り、燃えさしの薪の上に水をぶちまけた。
神、その独子ひとりご、聖霊及び基督の御弟子みでしかしらなる法皇の御許によって、末世の罪人、神の召によって人を喜ばす軽業師かるわざしなるフランシスが善良なアッシジの市民に告げる。
クララの出家 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
乃公おれの着いた日には仏蘭西フランス軽業師かるわざしが此瀑布の上で綱渡りをする所だった。お母さんはあれ狂人きちがいだと言ったが、一向いっこうじるしらしくもない。見た所音なしそうな人である。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
軽業師かるわざしの曲芸にも巧妙はある、文筆の巧妙も軽業師の巧妙もその点ばかりは甲乙がない。しからば何の点が文筆に貴いかというのに精神を以て人を感化する力がなければ文学は社会の贅沢物ぜいたくぶつだ。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
そのくびたまをおどりこえて、目の前へ、軽業師かるわざしのようにモンドリ打ったものを見ると、どうだろう、思いがけない、まッくろな烏猫からすねこ、くびわに銀玉ぎんぎょくくさりをかけ、十をつけているではないか。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その機敏さ、洒脱しゃだつさはさながら軽業師かるわざしのごとく見物人をわした。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
軽業師かるわざしのやうに
軽業師かるわざし
未刊童謡 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
道具方の青年、空中曲芸の軽業師かるわざしなどが四人五人、明智小五郎の指図を受けて、猿のように天井へとけ上って行った。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それからひと月もたったある朝、目をさましてみると、団長とお千代さんと、正坊の三人きりをのこして、ほかの軽業師かるわざしは、みんな小屋をにげ出していました。
正坊とクロ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
二人ふたり軽業師かるわざしは、たがいに相手あいてげいをほめたのであります。そして、二人ふたりは、いずれも一、あってちかづきとなり、げいについてはなってみたいとおもっていました。
二人の軽業師 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そして、二本の腕は、しばらく花瓶のふちを握ってモガモガしていたが、やがて、軽業師かるわざしのように、ヒョイと花瓶のふちへ這いのぼったのは、ああ、なんということだ!
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ドガ及ツールーヅ・ロートレックが当時自然主義の文学の感化を受けその画題を史乗しじょうの人物神仙に求めず、女工軽業師かるわざし洗濯女せんたくおんな等専ら下賤げせんなる巴里パリー市井しせいの生活に求めんとつとめつつあるの時
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
駆け足の音がひっそりした街路に起こって、軽業師かるわざしのように敏捷びんしょうな者が乗り合い馬車の上によじ上ったかと思うまに、息を切らしてるガヴローシュが防寨ぼうさいの中に飛び込んできて、言った。
それを聞くと、少し酔のまわった軽業師かるわざし達は、面白そうに声を出して笑った。男達の鹽辛声しおからごえと、ふとった女共の甲高かんだかい声とが、広いテント張りの中に反響した。
踊る一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
軽業師かるわざしにやれるはなれわざなら、なんで人間にんげん生死せいし瀬戸際せとぎわにできぬというはずがありましょう。
僕はこれからだ (新字新仮名) / 小川未明(著)
栄螺さざえが、そろそろとふたをもちあげるように、いまこの豆潜水艇は、昇降口の蓋を、そろそろともちあげはじめました。学士は、軽業師かるわざし梯子はしごの上へのぼったような恰好かっこうをしています。
豆潜水艇の行方 (新字新仮名) / 海野十三(著)
窓は締がしてなかったけれど、軽業師かるわざしででもなければ、この高い二階の窓から、出入りすることは不可能だ。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「そんなに、こうは、えら軽業師かるわざしかしらん。ひとつ、こっそりといってみよう。」とおもいました。そして、こうがしたように、おつも、そのことをだれにもげずに、西にしみやこかけてゆきました。
二人の軽業師 (新字新仮名) / 小川未明(著)
彼の手は、短い足の不足を補って、軽業師かるわざしの様に自由自在に動いた。丁度猿の木登りといった恰好だった。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そして、立派な泥棒や、軽業師かるわざしなんかに仕立てて下さるんだ。しばらくこの船で働いた上、お前たちはその親分に売られるんだよ。チンピラだってばかにはならねえ。
新宝島 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)