軽佻けいちょう)” の例文
旧字:輕佻
かかる天下柔弱軽佻けいちょうの気風を一変して、国勢の衰えを回復し諸外国の覬覦きゆを絶たねばならないとの意見を持つものがあるようになった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
軽佻けいちょう至極なことである、この人にうとまれ、捨てられてしまった時は、どんなに深い傷手いたでを心に受けることであろうなどと煩悶をしている様子も
源氏物語:53 浮舟 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「ほ。この忠顕ただあきの世話を、お辺は、さまで心にめいじていてくれたか。いや珍重ちんちょうあたいする。近ごろは信義もすたれ、軽佻けいちょうな奴らばかりが多い中でよ」
しかし軽佻けいちょうさの下に隠れてる良識と実際の温情との素質によって、彼女はこの無茶な若者が冒してる危険を見てとった。
就中なかんずく本草ほんぞうくわしいということは人が皆認めていた。阿部伊勢守正弘はこれを知らぬではない。しかしその才学のある枳園の軽佻けいちょうを忌む心がすこぶかたかった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
しかし君から軽佻けいちょうの疑を受けた余にも、真面目な「土」を読む眼はあるのである。だから此序を書くのである。
若い時は気が荒く、ややもすれば人を凌辱りょうじょく軽佻けいちょうと思われるくらいでしたが、剣の筋は天性で、二十歳の頃はすでに免許に達していたということであります。
生来の勝気から自己の感情はかなり内に抑えていたようで、物腰はおだやかで軽佻けいちょうな風は見られなかった。
智恵子の半生 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
あまり重大でもない事柄について彼が早口に述べ立てるおりの軽佻けいちょうさと重々しさとの混じた調子によって
彼らほどよく眠る者はなく、彼らほど公然と軽佻けいちょうで怠惰なるものはなく、彼らほど忘却のふうを多く有するものはない。けれどもそれを当てにしてはならない。
しかし、その人たちは、近代の華麗な軽佻けいちょうな歪められ過ぎたバッハを聞き馴らされ、バッハの粉黛ふんたいを施した一面だけを見ていたことを反省しなければならない。
が、二葉亭はかえってこれを恥じて、「あんな軽佻けいちょう真似まねをするんじゃなかったっけ、」と悔いていた。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
枕山は年いまだ四十に至らざるにはやくも時人と相容あいいれざるに至ったことを悲しみ、それと共に後進の青年らがみだりに時事を論ずるを聞いてその軽佻けいちょう浮薄なるをののしったのである。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
旧式な賢母良妻主義に人間の活動を束縛する不自然な母性中心説を加味してこの上人口の増殖を奨励するような軽佻けいちょうな流行を見ないようにしたいものである。(一九一六年二月)
母性偏重を排す (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
不遜ふそんなり、教養なし、思想不鮮明なり、俗の野心つよし、にせものなり、誇張多し、精神軽佻けいちょう浮薄なり、自己陶酔に過ぎず、衒気げんき、おっちょこちょい、気障きざなり、ほら吹きなり
風の便り (新字新仮名) / 太宰治(著)
児島の歌も、軽佻けいちょうでないが、旅人の歌もしんみりしていて、決して軽佻なものではない。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
その身嗜みだしなみのために、絶えざる考慮こうりょはらったにちがいない、女性の身体からだが、ゆでだこか何かのように、鉤にるされて、公衆の面前、しかも何等なんらの同情もなく、軽佻けいちょうな好奇心ばかりで
死者を嗤う (新字新仮名) / 菊池寛(著)
いたずらに軽佻けいちょう浮華なる物質的文明の完成にのみ焦り、国家の生命の何者であるかを忘れ、一も偉大なる精神的感化力をば、彼等に与うるの道を知らざる為である事は疑いをれない。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
ここに三画伯の扮装いでたちを記したのをて、衒奇げんき、表異、いささかたりとも軽佻けいちょう諷刺ふうしの意をぐうしたりとせらるる読者は、あの、紫の顱巻はちまきで、一つ印籠何とかの助六の気障きざさ加減は論外として
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いわくこの頃の若い者は才智にまかせて、軽佻けいちょうの風をよろこび、古人の質実剛健なる流儀を、ないがしろにするのはなげかわしいことだ云々と、これと全然同じ事を四千年後の先輩もまだ言っているのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
指したのを見ると、門の蔦は、子供の手の届く高さの横一文字の線にむしり取られて、髪のおかつぱさんの短い前髪のやうにそろつてゐた。流行を追うて刈り過ぎた理髪のやうに軽佻けいちょう滑稽こっけいにも見えた。
蔦の門 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
上層の驚かないのと、彼等の驚かないのとは、質はちがうが、いずれにしても、京都のもっている爛熟らんじゅく懶惰らんだ軽佻けいちょうの空気はすこしもあらたまらない。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
姦淫かんいんを興味の中心とするような芸術作家の軽佻けいちょうさを、憎みきらっていた。姦淫は彼に嫌忌けんきの情を起こさせるのだった。
尚侍ないしのかみは貴婦人の資格を十分に備えておいでになる、軽佻けいちょうな気などは少しもお見えにならないような方だのに、あんなことのあったのが、私は不思議でならない」
源氏物語:20 朝顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
既に彼らの間には、軽佻けいちょうなる老人に対する沈重なる青年のあらゆる不調和が存していた。ジェロントの快活はウェルテルの憂鬱ゆううつを憤らせいら立たせるものである。
チャイコフスキーの持っている絶望的な美しさには、メンゲルベルクは最も適当したものであろう。ストコフスキーは華か過ぎ、その他の人たちはしばしば軽佻けいちょうで甘過ぎる。
併し声調が流暢りゅうちょう過ぎぬため、却って軽佻けいちょうでなく、質朴の感を起こさせるのである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
うるわしい前面。生活は実質的よりもいっそう外見的であった。その下には、あらゆる国の上流社会に共通である、いやすべからざる軽佻けいちょうさが潜んでいた。
兵部卿の宮がおかくれになって間もなく、今度の右大臣が通い始めたのを、軽佻けいちょうなことのように人は非難したものだけれど、愛情が長く変わらず夫婦にまでなったのは
源氏物語:46 竹河 (新字新仮名) / 紫式部(著)
最も軽佻けいちょうな者でも、一七八九年という年を言うときはおごそかになった。彼らの肉身の父は、中心党で王党で正理党で、あるかまたはあった。しかしそれはどうでもいいことである。
だが、もとより弦之丞は、このにきび侍の軽佻けいちょう浮薄と邪心じゃしんとを以前から見抜いている。ましてや、ここには蜂須賀家の天堂一角や、大阪表でチラチラ噂に聞いたお十夜という悪浪人まで道づれだ。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その精神的純潔や真摯しんしや熱烈な努力などをもってしても、心からねがいながらかつて信者にはなれなかったのに、その軽佻けいちょうな二人の子供は、真面目まじめに信者となったのである。
軽佻けいちょうなところのない少年であったから、よく忍んで、どうかして早く読まねばならぬ本だけは皆読んで、人並みに社会へ出て立身の道を進みたいと一所懸命になったから、四
源氏物語:21 乙女 (新字新仮名) / 紫式部(著)
彼は十八世紀式の人物であって、軽佻けいちょうにして偉大であった。
そしてもちろんランジェー夫人の軽佻けいちょうさは、そういう嫌疑けんぎに豊富な材料を与えるものだった。ジャックリーヌはそれへさらに尾鰭おひれをつけた。彼女は父のほうへ接近したかった。
派手はで愛嬌あいきょうのある顔を性格からあふれる誇りに輝かせて笑うほうの女は、普通の見方をもってすれば確かに美人である。軽佻けいちょうだと思いながらも若い源氏はそれにも関心が持てた。
源氏物語:03 空蝉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「いつものいやな一面を出してお見せになるのだね。あの人のお母さんも軽佻けいちょうなことをなさる方だと思うようになるだろうね。安心していらっしゃいと何度も私は言っておいたのに」
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
アルフレッド・ナタン氏は、パリーで知名な教授であって、ひいでた学者であるとともにいたって交際家で、ユダヤ人仲間によくある学識と軽佻けいちょうさとが不思議に混和してる人物だった。
クリストフは幼年の残酷な軽佻けいちょうさで、父と祖父とにならってこの小商人を軽蔑していた。おかしな玩具おもちゃかなんぞのように彼を面白がっていた。馬鹿げた意地悪さで彼をからかっていた。
自分は飽くまでも薄倖はっこうな女である、父君に自分のことが知られる初めにそれを聞く父君は、もともと愛情の薄い上に、軽佻けいちょうな娘であるとうとましく自分が思われねばならないことであると
源氏物語:24 胡蝶 (新字新仮名) / 紫式部(著)
右大臣が軽佻けいちょうな女房の手引きでしいて結婚を遂げた時にも、自身は単なる受難者であることを、それ以後の態度で明らかにして、親や身内の意志で成立した夫婦の形を作らせたことなどは
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
歓楽的な空気の横溢おういつしているお住居すまいであったから、そんな中に内気なおとなしい人が混じって物思いをしていても軽佻けいちょうに騒ぐ仲間に引かれて、それも同じように朗らかなふうをしていたり
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
悪いことは年のいった女房などに遠慮なく矯正きょうせいさせて使ってください。若い女房などが何を言ってもあなただけはいっしょになって笑うようなことをしないでお置きなさい。軽佻けいちょうに見えることだから
源氏物語:26 常夏 (新字新仮名) / 紫式部(著)
それは普通の家の娘の場合でも軽佻けいちょうに思われることに違いない。
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
今思うとそんな女のやり方は軽佻けいちょうで、わざとらしい。
源氏物語:02 帚木 (新字新仮名) / 紫式部(著)