くど)” の例文
それがくどくもいう通り、暮も正月もお構いなしに、毎日続くんだから奇妙でしょう。どう考えてもこりゃあ尋常の武士じゃありませんぜ
半七捕物帳:04 湯屋の二階 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「当分のうちみんなに黙っていてくれ、と猪之はくどく云いました」と云って藤吉はぬるくなった茶を啜った、「すると半月ばかりして」
「どうだね、お喜乃さん。くどいたようだが、決して、悪いこたあすすめねえから、とにかく四、五日お屋敷へ、勤めてみちゃあどうだい」
治郎吉格子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この辺のことはくどく述べる必要はあるまい。池の畔の四阿あずまやの前に確かに皇帝が立っていたという、例の間違いの続きなのである。
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
『ハテ、奈何して嘘なもんかなア。』と言ひは言つたが、松太郎、余りくどく訊かれるので何がなしに二の足を踏みたくなつた。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
その過程を煩わしくくどく記述してある書物というものを、どうして迂遠うえん悪丁寧わるていねいとより以外のものに思いされようぞ。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
偉い他人でも其の真心には及びませんよ、——くどいと思ふだろが、お前の嫁の顔見ぬうちは、わしは死にたくも死なれないよ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
所詮彼は一個の情熱的詠歎家であり、その作品中のみならず、その感想等に於て、詩人らしき幼稚さと善人らしきくどさを、やや勇敢に振撒いてゐる。
美人「其の様にくどくお問いなさると私は怒りますよ、塔に少しも関係の無い者と申せば夫で好いでは有りませんか」
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
「ジエームスは無趣味な男だね、いつも速記者に書かすのだつて。道理で小説がしちくどいと思つた。」
こんな話を、豊世もくどくはしなかった。彼女は夫から巻煙草を貰って、一緒にむつまじそうに吸った。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
園「有難うございますが、そんなに恩にかけると折角の御親切も水の泡になりますから、あんまくどく仰しゃると、その位なら世話をして下さらんければいゝにと済まないが思いますよ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
老いたる男 何の、そのやうな事がおぢやるものか。くどい女子ぢや。な。この世の中に天狗、人食人などはおぢやらぬわい。ありや、南蛮の坊主共ぢや。日もはや暮れる。早う行ておぢやれ。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
浅井はこの前から気のついていた、ついこのごろ買ったばかりの細君の指環や、ちょいちょい着の糸織りの小袖などの、箪笥に見えないことなどを言い出したが、くどくも言い立てなかった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
助役は𢌞はりくどいことを言つて、指の先きでまたクル/\と煙管を弄んだ。
太政官 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
それは少しくくどいが、十分あまりどうぞ御聴きを願いたいと思う。明治三十三年にご承知の通り、我々の同志たる政党は、到頭とうとう我々のみになって、自由党というものが消滅してしまったのである。
〔憲政本党〕総理退任の辞 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
どこまでくどいことを言やがるんだろう!
三郎さぶろうさまと申のなり此頃このごろたまひしは和女そなた丁度ちやうど不在るすときよ一あしちがひに御歸宅ごきたくゆゑらぬのは道理どうりひかけてお八重やへかほさしのぞき此願このねがかなはゞ生涯しやうがい大恩だいおんぞかしくどうははぬこゝろこれよとはすうれしきいろはあらはれたり
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
くどいね。早く縄をつておれ。』
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
「おくどう厶ります」
老中の眼鏡 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
くどいわ!」
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
そこでまた昂軒はゆらりと頭を左右にゆすった、「くどいようだが、それが誤りであり間違いだということを、こんど初めて知った」
ひとごろし (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
なぜならば仰天ぎょうてんして迎えに出た和尚おしょうも左右の者までが、余りに何の設備もない小寺に過ぎないことをくどく言い訳するからだった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そのお指図も父上からお勧め申されたのではござりますまいか。わたくし決してくどうは申しませぬ。何事もお前さまのお心に問うて御覧ごろうじませ。」
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
男の何かしら廻りくどい所作の道具に使われて、命を失いかけている小雄さお鹿を、その男と共に、無駄なことの犠牲になった悲運のものと思うだけだった。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
いや、くどい男だ。……こないだ路考が言葉尻を濁したが、わしの察するところでは、年に一度、十年がけの手紙というのを欝陶うっとうしがって、無情すげないことを言ってやったものと見える。
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
白萩 あれくどい衆ぢや。帰りたくば一人で行なしやんせいなあ。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
くどいやうだけど、もう一度いておくがね……。
秘密の代償 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
婆はくどくも「でもお前さんは甚蔵は美人に逢いに行ったと云うたじゃないか。美人とは何所の美人だエ」医学士「本統に呆れて了うなア、何れ思い出させて遣ろう、昔大雨大風の晩に、此の家へ馬車が着いただろう」婆「ウム馬車か」医学士
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
くどいようですが」と老人は云った、「私の経験したことと、ここがちくしょう谷と呼ばれていることを、お忘れにならないで下さい」
ちくしょう谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
くどいようだが、あの書付が、幕吏の手にわたると、迷惑いたす者が幾人も出る。どうか、相違なく、お届けねがいたい」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
又してもくどく申すやうぢやが、一枚一枚鄭重に取りあつかへ。割るは勿論、きずをつけても一大事ぢやぞ。よいか。
番町皿屋敷 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
なおも銀座東側の夜店の並ぶ雑沓ざっとうの人混へ紛れ入って行くのを見て、「少しくどい」と思った。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「お齢のせいか、父上もくどくなられた。さよう、いま申したとおりです」
うすゆき抄 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
余「報酬は幾等でも厭いませんが、真に貴方の力で、相違なく助かりましょうか」先生「くどくお問い成さるに及びません、私の力ならば助けるぐらいは愚かな事、何の様にでも貴方の望む通りに救って上げます、が其の代り驚くほど報酬が高いのです」余「高いとて幾万ぽんどを ...
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
まわりくどいことをするものだ、ばかばかしい、と栄二は思った。おれのしたことが悪いのなら、はっきりけじめをつけて罰するがいい。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
茶なといたさん、朝立ちなれば朝まだきにも城へ来いと、くどいばかり仰せを重ねられた信長公が……なんとてはかく光秀がお嫌いになられたのか。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
くどくもいう通り、ひどく温順い女で、少し粗匆そそうでもすると顔の色を変えて平謝ひらあやまりに謝まった。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
啓司は生意気なという気持から、わざとくどく訊ねます。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
くどいなあ」と弟は云った、「こうしなければおれは勉強ができないんだって、何度も云っているじゃねえか、うっちゃっといてくれよ」
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
くどくも懇願申し奉ること大罪と恐れ入りまするなれど、何とぞ、お心のうちにおとめ置き賜わりまするように
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伴左衞 判つてゐるならくどくは云ふまいが、みんなもよく覺えて置け。(更に聲を勵まして。)うか/\してゐると、わが日本國はほろびるぞ。それを救ふには攘夷のほかは無いのだ。
正雪の二代目 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
しかし段平にはどうしようもない、なにを云っても旦那はてんで受けつけないし、ちょっとくどく云えば「黙れ」とどなられる。
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
城太郎のくどいような質問にも、面倒な顔もせず頻りと、噛んでふくめるように答えてやりながら歩いていた。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
侍どもはその生首を番頭のまえに突きつけて、これを見せたらばくどく説明するにも及ぶまい、われわれは攘夷の旗揚げをするもので、その血祭ちまつりに今夜この異人の首をねたのである。
半七捕物帳:40 異人の首 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
勘定はめるし、酔うとくどく女たちにからむし、ちょっと気にいらないことがあると暴れだすし、これが侍かと思うような人ばかりであった。
滝口 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
良人の唐突とうとつないいつけに対しても、なぜ? とか、何しに? とか云うような問いは、良人から打明けられない限り、くどくは訊かないことが、このならわしであった。
小夜衣の歌の心、もう御承知とござりますればくどうは申しますまい。これほどに手を換え、品を換えて、兼好の御坊にまでも頼みましたる末が、やはり小夜衣の返しとござりましては……。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
追い越して、先に宿を取って、女中などに(内証で)呼び込ませるというのは、なにか理由があるにしても、あまりに廻りくどいやり方である。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
利家は、くどく聞く要もないように、元来、口下手な勝家のことばを取って、あっさりひきうけた。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)