誘惑いうわく)” の例文
不運ふうんにもかれ誘惑いうわくされたどくをんなだともおもへるのであつたが、しかし恋愛れんあい成立せいりつについては、かれくはしいことらなかつた。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
まださう云ふ皮相ひさうの問題ばかりでなく、男女関係の場合などでも、男は何時いつ誘惑いうわくするもの、女は何時も誘惑されるものと、世の中全体は考へ易い。
世の中と女 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
無垢むく若者わかものまへ洪水おほみづのやうにひらけるなかは、どんなにあまおほくの誘惑いうわくや、うつくしい蠱惑こわくちてせることだらう! れるな、にごるな、まよふなと
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
十兩に誘惑いうわくされたわけでもなかつたでせうが、喜三郎とフト斷わりきれない樣子で、平次をかへりみました。
そこへ突然とつぜん一つの誘惑いうわくとしてあらはれたのが、せい発行はつかうの△△債劵さいけんことだつた。
(旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
然し其家が暗くなかつたらあんなにも私を誘惑いうわくするには至らなかつたと思ふ。
檸檬 (旧字旧仮名) / 梶井基次郎(著)
れが段々だん/\いやでない誘惑いうわくつてあまあぢわづかかんずる程度ていどまでちかづいた刹那せつなさい破壞はくわいられたのである。おつぎは以前いぜんかへつて恐怖きようふふか沒却ぼつきやくせねばならなくつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
われはおのれ生涯しやうがいのあまりきよくないこと心得こゝろえてゐる、みちかたはら菩提樹下ぼだいじゆか誘惑いうわくけたことつてゐる。たま/\われにさけませる会友くわいいうたちの、よく承知しようちしてゐるごとく、さういふもの滅多めつた咽喉のどとほらない。
わか女性ぢよせいたいして、じゆん感情かんじやうももつてゐたから、誘惑いうわくふのはあたらないかもれなかつたけれど、色々いろ/\条件でうけんと、同棲生活どうせいせいくわつ結果けつくわからると、かれ本能ほんのう
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
二人ふたり關係くわんけい眞相しんさうが、どんなものであつたかはたれらない。おそらくは彼女自身かのぢよじしんにもわからなかつたことであらう。彼女かのぢよ見事みごと誘惑いうわくあま毒氣どくけめしひたのである。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
その留守るすにまた、或貴族が、彼の(即ち、身分のある男の)妻に横恋慕よこれんぼをした。が、彼れの妻は、その貴族の誘惑いうわくに陥らなかつたばかりでなく、さんざん侮辱を加へさへした。
日本の女 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
一度銀簪の誘惑いうわくに負けて血を見ると、一度常軌じやうきを逸したお才の頭は果てしもなく狂つて、自分より若くて美しい女さへ見れば、銀の簪で眼を突きたいといふ、恐ろしい誘惑に惱まされ始めたのです。