見分みわけ)” の例文
津田はこの子供に対するような、笑談じょうだんとも訓戒とも見分みわけのつかない言葉を、苦笑しながら聞いた後で、ようやく室外にのがた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
尤も東破風だけで西破風はつい見分みわけが付かなかったが、雲取山から写した辻本君の写真から推して、西破風も見えるに相違ないという断定だけは付けられる。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
汽車がくると、どれが叔父だか一寸ちょっと見分みわけがつかない位の人々が、汽車の窓から首を出していた。逸早いちはやく見つけた叔母は、窓にしがみついて、叔父とはなししていた。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
ところどころ草の生えた空地あきちがあるのと、家並やなみが低いのとで、どの道も見分みわけのつかぬほど同じように見え、行先はどこへ続くのやら、何となく物淋しい気がする。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
乃公は可笑おかしかった。盲腸炎が分るくせに蛇と鰻の見分みわけが付かないなんて随分鈍馬とんまな野郎である。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
この方は御料地の係のかた先達せんだつてから山林を見分みわけしてお廻はりになつたのですが、ソラ野宿の方が多がしよう、だから到当身体をこはして今手前共で保養して居らつしやるのです。
空知川の岸辺 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
しき見分みわけきませんから、心眼しんがん外題げだいを致しましたが、大坂町おほさかちやう梅喜ばいきまう針医はりいがございましたが、療治れうぢはうごく下手へたで、病人にはりを打ちますと、それがためおなかが痛くなつたり
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
かれひざがしらでばひあるきながら座敷ざしきへあがつて財布さいふふところんでふいとた。かれ風呂敷包ふろしきづゝみつてかへつた。かれ戸口とぐちつたときうちなか眞闇まつくら一寸ちよつともの見分みわけもつかなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
じっと見ると、ただやっぱり白い……が、思いなしか、その中に、どうやら薄墨で影がさして、乱しもやらず、ふっくりびんまとまって、濃い前髪の形らしく見分みわけがつく、と下からまき上がるごとく
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
見分みわけざれば目鼻めはなのある人とは申さずと云ふに武士は大いに笑ひそれは餘り譽過ほめすぎるなりと云つゝ最早もはや酒もやがて三升ばかりのみたる故ほろ/\機嫌きげんになりコレ亭主貴樣は田舍ゐなか似合にあは漢土からの事など引事ひきごとにして云は感心々々かんしん/\はなせる男だイヤ面白し/\と暫時しばしきようにぞ入りたりける
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
草のなかに、黒赤い地が、見えたり隠れたりして、どの筋につながるか見分みわけのつかぬところに変化があって面白い。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
富士と其北に位する烏帽子山との間からは、上信界の大高山(二千七十九米)がちらと覗いているが、更に高い岩菅山が後から重っているので、見分みわけるのが困難である。
望岳都東京 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
以て屑屋一同御呼出し下置れ一々見分みわけ候へ共新藤市之丞の相知申さゞるは誠に是非ぜひなき次第にして能々武運ぶうん盡果つきはてたる身の仕合せなりと無念の涙に伏沈ふしゝづみ居たりしかば越前守殿も氣の毒に思はれなほまた追々おひ/\吟味ぎんみの致し方もあらん然樣さやう存ぜよとて又々傳馬町へぞさげられける扨も斯迄かくまでに市之丞を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
自分はびしい光でやっと見分みわけのつく小桶こおけを使ってざあざあ背中を流した。出がけにまた念のためだから電話をちりんちりん鳴らして見たがさらに通じる気色けしきがないのでやめた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
三人昨日五人とどれどうだか分る者か何でもいゝは金さへ取ば仔細なしだ生首なまくび一ツ渡してやらうと云はわきから一人の非人が夫でもおやくびだと云から向うにも見知みしりあらほかの首では承知しまいと云ば一人の非人さればさ何だと云て相手あひては座頭のばうだから見分みわけが有物か首さへやれいゝ然樣さうして直に下屋敷へ葬むるで有らうからいゝ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)