蝦蟆がま)” の例文
おおき蝦蟆がまとでもあろう事か、革鞄の吐出した第一幕が、旅行案内ばかりでは桟敷さじきで飲むような気はしない、がけだしそれは僭上せんじょうの沙汰で。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かつて蛇が蝦蟆がまを呑み掛けたところを二足ある奇蛇と誤認したと自筆した(『土耳其紀行トラヴェルス・インツー・ターキー』一七四四年版、一二〇頁)。
秋の大空は鳶色に暮れかかって、蝦蟆がまの這っているような奇怪な形をした黒い雲のかたまりが西の方にたむろしていた。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
アイヌすなわち古えのカイ族に当てるに「蝦夷かい」、すなわち「蝦蟆がまの夷」の義ある文字を用いて平気でおった(支那人は当初蝦蛦と書いた様である)。
「エタ」名義考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
一本歯の下駄げた穿いたまま、小さい三宝さんぼうの上にしゃがんだ男が、たすきがけで身体からだよりも高くり返った刀を抜こうとするところや、大きな蝦蟆がまの上に胡坐あぐらをかいて
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
日頃はみにく蝦蟆がまかなんかのやうに思つてゐた貫兵衞も、今の場合では、たつた一人の救ひの神でした。
蝦蟆がまいて立曇たちくも
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
気どって出かけると、蝦蟆がまの妖術よりも恐ろしいのに出逢って、命からがら逃げて帰るという始末。御存知かも知れませんが、瓦版まで出ましたからね
半七捕物帳:43 柳原堤の女 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
なつのはじめに、よく蝦蟆賣がまうりのこゑく。蝦蟆がまや、蝦蟆がんまい、とぶ。また蝦蟆賣がまうりにかぎりて、十二三、四五ぐらゐなのが、きまつて二人連ふたりづれにてあるくなり。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「なに妙な事があるものか。名目読みょうもくよみと云って昔からある事さ。蚯蚓きゅういん和名わみょうでみみずと云う。あれは目見ずの名目よみで。蝦蟆がまの事をかいると云うのと同じ事さ」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この女王蛇口にフルてふ玉を含み、夜中空に吐き飛ばすと、日のごとく輝くと。これいわゆる蛇の長競べが、海狗オットセイ蝦蟆がま同様、雌を争うて始まるをあやまり誇張したのだ。
それは日本ではとても見られないような巨大な竹の根をくりぬいて、一匹の大きい蝦蟆がまを拵らえたものであるが、そのがまはかなえのような三本足であった。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あかり無しで、どす暗い壁に附着くッついたくだんの形は、蝦蟆がまの口から吹出すもやが、むらむらとそこで蹲踞うずくまったようで、居合わす人数の姿より、羽織の方が人らしい。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あたかも欧米に沙翁学シェキスペリアナを事とする人多く、わずか三十七篇の沙翁の戯曲の一字一言をもゆるがせにせず、飯を忘れ血を吐くまでその結構や由来を研究してやまず。がんが飛べば蝦蟆がまも飛びたがる。
青蛙堂せいあどう小石川こいしかわ切支丹坂きりしたんざか、昼でも木立ちの薄暗いところにある。広東カントン製の大きい竹細工の蝦蟆がまを床の間に飾ってあるので、主人みずから青蛙堂と称している。
こゝまで読んで、私は又あわてた。けてつのの生えた蛞蝓なめくじだと思つた、が、うでない。おおいなる蝦蟆がまが居た。……其のいぼ一つづゝ堂門どうもんくぎかくしの如しと言ふので、おおきさのほども思はれる。
雨ばけ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
仰げば塔の峰の頂上から、蝦蟆がまのような黒雲が這い出している。いよいよ恐れて早々に宿へ逃げ帰った。
秋の修善寺 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
よつてしからぬ二人連ふたりづれを、畜生ちくしやう蝦蟆賣がまうりめ、とふ。たゞし蝦蟆がま赤蛙あかがへるなり。蝦蟆がまや、蝦蟆がんまい。——そのあとから山男やまをとこのやうな小父をぢさんが、やなぎむしらんかあ、やなぎむしらんかあ。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
仰げば塔の峰の頂上から、蝦蟆がまのような黒雲が這い出している。いよいよ恐れて早々に宿に逃げ帰った。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しわす、つごもりの雪の夜に、なさけの宿を参らせた、貧家のふすまむしろの中に、旅僧が小判になっていたのじゃない。魔法妖術ようじゅつをつかうか知らん、お客が蝦蟆がまに変じた形で、ひょこんと床間とこのまに乗っている。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
また、蝦蟆がま九匹を養っている者がある。席ちゅうに土をうずたかく盛りあげて、最も大きい蝦蟆がその上に坐っていると、他の小さい蝦蟆が左右に四匹ずつ向い合って列ぶ。
蝦蟆がますなわち牛矣うしきのこすなわち其人也そのひとなり古釣瓶ふるつるべには、そのえんじゅ枝葉しようをしたゝり、みきを絞り、根にそそいで、大樹たいじゅ津液しずくが、づたふ雨の如く、片濁かたにごりしつつなかば澄んで、ひた/\とたたへて居た。あぶらすなわちこれであつた。
雨ばけ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
一つの竹の根でいろいろのものを彫り出すのですから、ずいぶん面倒なものであろうかと思いやられますが、わたしの持っているなかでは、蝦蟆がま仙人が最も器用に出来ています。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
まへ蝦蟆がまにてやありけむ、くちなはなんいみじおぢける。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
例によって夜食の御馳走になって、それから下座敷の広間に案内されると、床の間には白い躑躅つつじがあっさりと生けてあるばかりで、かの三本足の蝦蟆がま将軍はどこへか影をひそめていた。
火薬庫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
例によって夜食の御馳走になって、それから下座敷の広間に案内されると、床の間には白い躑躅つつじがあっさりと生けてあるばかりで、かの三本足の蝦蟆がま将軍はどこへか影をひそめていた。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いよいよ怪しんで、その邸の人びとにも知らせた上で、試みにかの槐の下を五、六尺ほど掘ってみると、その根はもう枯れていて、その下に畳一枚ほどの大きい蝦蟆がまがうずくまっているのを発見した。
この箱のなかに祭ってあるものは……三本足の青い蝦蟆がまです。
青蛙神 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)