老木おいき)” の例文
親しくも立ちて堪へたり。あなあはれ老木おいき二木ふたき、親しくも並ぶ姿の、寂しくも隣り合ふ木の、頼り無き二木を見れば涙しながる。
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
鳥居の前の老木おいきの櫻に今年はまた枯枝が多くなつたのを見た時、京子もお時も、名古屋山三さんざの引き出した女の生首のことを思ひ出した。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
されど路傍なる梅の老木おいきのみはますます栄えて年々、花咲き、うまき実を結べば、道ゆく旅客たびびとらはちぎりて食い、そのかわきしのんどをうるおしけり。
詩想 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
鼓子花ひるがおさへ草いきれに色褪せて、砂も、石も、きら/\と光を帯びて、松の老木おいきの梢より、糸を乱せる如き薄き煙の立ちのぼるは、木精こだまとか言ふものならむ。
紫陽花 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ならばただすの森あたりの、老木おいきの下闇に致したかった。あすこは夏の月夜には、せせらぎの音が間近く聞えて、の花の白くほのめくのも一段と風情ふぜいを添える所じゃ。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
日本人が昔から不朽なる光榮の象徴とした「松の老木おいき」よりも、唯だ一語 Linden(菩提樹)と云ふ獨逸語は、何程どれほど無限の感想を呼起すかと云ふやうな事から
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
謡曲の文句ではないが、老木おいきも若みどりといったような感じである。『ベデカ』に拠ると、此の老木は一六七二年以後に植え替えられた何代目かの「処女の木」らしい。
処女の木とアブ・サルガ (新字新仮名) / 野上豊一郎(著)
柳の老木おいきが立っていて、しきりに枯れ葉を散らしているのが、月光に針でもこぼれるように見え、それの根もとの草むらの中で、虫が声かぎり鳴いているのが、秋の深夜を浄化してみせた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼方此方かなたこなたにむらむらと立なら老松奇檜ろうしょうきかいは、えだを交じえ葉を折重ねて鬱蒼うっそうとしてみどりも深く、観る者の心までがあおく染りそうなに引替え、桜杏桃李おうきょうとうり雑木ざつぼくは、老木おいき稚木わかぎも押なべて一様に枯葉勝な立姿
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
さての梅には四徳を具すというがうかも知れませぬ、若木を好まんで老木おいきの方を好む、又梅の成熟するをていたり、とか申して女子おなご節操みさおあるを貞女というも同じ意味で、春は花咲き、夏は実を結び
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
俗のことわざにいう「老木おいきはなかす」とは不可能なるか。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
木あり、巨大な枝をさし交してる老木おいきの林があり
展望 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
背丈の高きは冬の老木おいきのむきだしなるがごとし。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
鉢に咲く梅一尺の老木おいきかな 鳴雪めいせつ
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
あわれなり老木おいき若木も山桜
竹柏なぎ老木おいきは、おびれの
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
われらみなかし老木おいきたてにしてその陰にうずくまりぬ。四辺あたりの家々より起こる叫び声、泣き声、おちかたに響く騒然たる物音、げにまれなる強震なり。
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
道臣と千代松とは鳥居の前で丁寧に天滿宮を拜禮して、東の門の方へ、葉の繁つた櫻の老木おいきの蔭に姿を消した。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
さるも老木おいきの春寒しとや、枝も幹もただ日南ひなたに向いて、戸の外にばかり茂りたれば、広からざる小路の中を横ぎりて、枝さきは伸びて、やがて対向むかいなる、二階家の窓にとどかんとす。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
伝通院でんずういん縁日えんにちで、からくりの画看板えかんばんに見る皿屋敷のおきくころし、乳母が読んで居る四谷怪談よつやかいだん絵草紙えぞうしなぞに、古井戸ばかりか、丁度其のそばにある朽ちかけた柳の老木おいきが、深い自然の約束となって
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
神無月合歡ねむ老木おいきのもみぢ葉のすでにわびしく濡れわたるめり
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
そそり立つ骨まばらな老木おいき
展望 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
里内裏さとだいり老木おいきの花もほのめきぬ
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
老木おいきのもとにいて
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
水門すいもん忍返しのびがえしから老木おいきの松が水の上に枝をのばした庭構え、燈影ほかげしずかな料理屋の二階から芸者げいしゃの歌ううたが聞える。月が出る。倉庫の屋根のかげになって、片側は真暗まっくら河岸縁かしぶち新内しんないのながしが通る。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
神無月合歓ねむ老木おいきのもみぢ葉のすでにわびしく濡れわたるめり
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
花多き今年の梅の老木おいきかな
七百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
いらだかの老木おいきにそひて
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
夜目よめながら老木おいきえのき洩る月のしろがねの網に狂ふものあり
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
夜目よめながら老木おいきえのき洩る月のしろがねの網に狂ふものあり
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
この寺の老木おいきの栗のいが栗はまたすがれたりかやの木の前
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ひと鉢を藤は老木おいきの片寄りに房しだれたりむなしき椅子に
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
營庭の老木おいきの櫻過ぎにけりわれは立ちつくす光る眞土まつち
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
営庭の老木おいきの桜過ぎにけりわれは立ちつくす光る真土まつち
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
百日紅さるすべり老木おいきしらけて厠戸かはやどの前なる石もあとなくなりぬ
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
白馬しろつなぐ君がお庭の陽の影は百日紅の老木おいきの若葉
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
とのぐもり老木おいきの楊影落す水面みのもあかりを飛べる絮あり
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
老木おいきの藤の花房までが
海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)