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きふれう
彼は
其の
奉公して
獲た
給料を
自分の
身に
費して
其の
頃では
餘所目には
疑はれる
年頃の卅
近くまで
獨身の
生活を
繼續した。
其間に
彼は
黴毒を
病んだ。
「だがね、うれしいどころか、
反対に
凄くなりやしないか
知ら? 一
等だと二千円——
僕の二年分の
給料以上のお金がいきなり懷に
飛びこんでくる……」
唯だ
給料を
貪つてゐるに
過ぎん……
而して
見れば
不正直の
罪は、
敢て
自分計りぢや
無い、
時勢に
有るのだ、もう二百
年も
晩く
自分が
生れたなら、
全然別の
人間で
有つたかも
知れぬ。
伸一先生は
給料を
月十八
圓しか
受取りません、それで
老母と
妻子、一
家六
人の
家族を
養ふて
居るのです。
家産といふは
家屋敷ばかり、これを
池上權藏の
資産と
比べて
見ると
百分一にも
當らないのです。
然し
俺は
有害な
事に
務めてると
云ふものだ、
自分の
欺いてゐる
人間から
給料を
貪つてゐる、
不正直だ、
然れども
俺其者は
至つて
微々たるもので、
社會の
必然の
惡の一
分子に
過ぎぬ、
總て
町や
此の二つの
外には
別段此れというて
數へる
程他人の
記憶にも
残つて
居なかつた。それでも
彼の
大きな
躰躯と
性來の
器用とは
主人をして
比較的餘計な
給料を
惜ませなかつた。