細字さいじ)” の例文
細字さいじしたためた行燈あんどんをくるりと廻す。綱が禁札、ト捧げたていで、芳原被よしわらかぶりの若いもの。別にかすりの羽織を着たのが、板本を抱えてたたずむ。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
細字さいじにてしたためたる長文の手紙、中には議論文もあり歎願書もあり、ひとたび読みおわりてまた繰返し、再び読みおわりて思案に沈み
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
庄「紙屑買などが来ないと貧乏人は困るなア、おれ細字さいじは書けないが大字だいじなら書けるから少しでも見えるようになればよいのう」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
半紙廿枚ばかりへ隙間なく細字さいじで書いたものの、五分の一ほど眼を通したあと、彼はついにそれを細君の手に渡してしまった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すると中には何やら細字さいじでしたためた文書が一通収められてあって、次のようなことがかいてあったそうである。
榎物語 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
わたくしは大正四年の十二月に、五郎作の長文の手紙がうりに出たと聞いて、大晦日おおみそか築地つきじの弘文堂へ買いに往った。手紙は罫紙けいし十二枚に細字さいじで書いたものである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
紙片かみきれはたして横罫よこけい西洋紙せいやうしで、それひろげてると、四五つうもある。いづれもインキでノート筆記ひつきやうの無造作むざうさ字体じたいで、最初さいしよの一つうが一ばんながく、細字さいじで三頁半ページはんにもわたつてゐる。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
というなあ、無銘の方の小柄こづかには、弦之丞のしるしと聞いた三日月紋の切銘きりめいがあり、もう一腰の新藤五の古いさやには、甲賀世阿弥よあみという細字さいじ沈金彫ちんきんぼりに埋めこんでありました。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
已に覚期かくごをした様であったが、年と共にたまあらたに元気づき、わずかに病床を離るゝと直ぐ例の灌水かんすいをはじめ、例の細字さいじの手紙、著書の巻首かんしゅに入る可き「千代かけて」の歌を十三枚
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
手紙といふのは、半紙一枚に達者な細字さいじで書いたもので、その文句は
なぞも有れば画探ゑさがしも有る、はじめはうには小説をかゝげて、口画くちゑ挿画さしゑも有る、これすべて社員の手からるので、筆耕ひつこう山田やまだわたしとで分担ぶんたんしたのです、山田やまだ細字さいじ上手じやうづに書きました、わたしのははなはきたな
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
私はもとより先生を忘れなかった。原稿紙へ細字さいじで三枚ばかり国へ帰ってから以後の自分というようなものを題目にして書きつづったのを送る事にした。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
細字さいじをもってしたためたる警戒は、此方こなたより「小田原評定云々うんぬん。」と記しやりたる書信を引換ひきかえに、「じゃむこう」の首輪を経て小間使秀の手中に落ちたり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
細字さいじに書き終った甲野さんは、そのあと片仮名かたかなでレオパルジと入れた。日記を右に片寄せる。置き易えた書物を再びもとの座に直して、静かに読み始める。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と両手で控帳の端を取って、斜めに見せると、楷書かいしょ細字さいじしたためたのが、輝くごとく、もそりと出した源助の顔にッと照って見えたのは、朱で濃く、一面の文字もんじである。
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その下あたり、札をかかげて、一人々々役者の名を筆太にこそ記したれ。小親こちかというあり、重子というあり、小松というあり、秋子というあり、細字さいじもてしのぶというあり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今度は抽出ひきだしから一枚、二枚と細字さいじしたためた控を取り出す。中には五六ページまとめて綴じ込んだのもある。大抵は西洋紙である。また西洋字である。甲野さんは一と目見て、すぐ机の上へ重ねる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
東枕ひがしまくらも、西枕にしまくらも、まくらしたまゝ何處どこをさしてくのであらう。汽車案内きしやあんない細字さいじを、しかめづらすかすと、わかつた——遙々はる/″\きやう大阪おほさか神戸かうべとほる……越前ゑちぜんではない、備前國びぜんのくに糸崎いとざきである。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)