素裸すはだか)” の例文
今度は鬼女、般若の面のかわりに、そのおかめの面を被せい、うし刻参ときまいり装束しょうぞくぎ、素裸すはだかにして、踊らせろ。陰を陽に翻すのじゃ。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この素裸すはだかなクーリーの体格を眺めたとき、余はふと漢楚軍談かんそぐんだんを思い出した。昔韓信かんしんに股をくぐらした豪傑はきっとこんな連中に違いない。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
心からいう言葉だった。弁円のあれほどな意気込みをくじいたものもその親鸞の素裸すはだかな態度にほかならない。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
天下泰平と書いてある——のが、一番大きな繪馬で、其の他には、櫻の咲いた下で短册たんざくに字を書かうとしてゐる鎧武者よろひむしやの繪や、素裸すはだかの人間が井戸の水を浴びてゐる上へ
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
男女二人をこの原までおびき出して来て、泣いてこばむのをむりやりに、一糸もつけぬ素裸すはだかいてしまったものか、これから剥こうとするものかして、揉み合っているところです。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
すべての工藝を直観の鏡の前に素裸すはだかにせしめる時、この最後の審判によって天国を保証される者は、あの富貴なる者、智慧に高ぶる者、技巧をてらう者、それらの者ではあり得ない。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
うち見るところ、あたかも両手両足を断ち斬られた素裸すはだかの美女の首付きの胴体である。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
素裸すはだかのまま、浜へテングサを拾いに来ていたが、いい加減に拾って帰りがけに、炎天の下の焼け砂の上を、開け放された別荘の裏木戸の前まで来ると、キョロキョロと中をのぞきながら
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
枳園だけは病家へかなくてはならぬ職業なので、衣類も一通ひととおり持っていたが、家族は身に着けたものしか持っていなかった。枳園の妻かつの事を、五百いおがあれでは素裸すはだかといってもいといった位である。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
とヒラリと素裸すはだかになって、寝衣ねまきに着かえてしまって
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「うむ、四十九番は石福海。五十番は太刀川時夫。ははあ、そうか。あいつは日本人だったのか。ふふん、うまく逃げたつもりらしいが、なあに今にみろ。素裸すはだかにひきむいて、あらしの大海原へおっぽりだしてやるから」
太平洋魔城 (新字新仮名) / 海野十三(著)
御遠慮があってはならぬ——が、お身に合いそうな着替きがえはなしじゃ。……これは、一つ、亭主が素裸すはだか相成あいなりましょう。それならばお心安い。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
余と安倍君とは先生に導びかれて、敷物も何も足に触れない素裸すはだかのままの高い階子段はしごだんを薄暗がりにがたがた云わせながらのぼって、階上の右手にある書斎に入った。
ケーベル先生 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それは単なる理論が抽象する原理ではなく、直観が示してくれる素裸すはだかな啓示による。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
ふだんが、礼儀がたいだけに、酒の折は、ひどく素裸すはだかな人間性を互いに見せ合う。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
素裸すはだかで、肉体をたっぷり漬っているのだから、まず誰もがするように、「いい体格ですねえ」とか、「たいしたかっぷくですねえ」とか、まず、感歎の声を放つのが例であるべきのに
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
壁にりたる素裸すはだか若者わかものひとり
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
出水でみづあぶない、と人々ひと/″\此方こなたきしからばゝつたが、強情がうじやうにものともしないで、下駄げたぐとつゑとほし、おびいて素裸すはだかで、ざぶ/\とわたりかける。
怪力 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
便所へ行く必要があって、障子しょうじの外へ出たら、九人組はおど草臥くたびれて、素裸すはだかのまま縁側に胡坐あぐらをかいていた。余は邪魔になるしりすねの間をまたいで用を足して来た。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
爾時そのときであつた。あの四谷見附よつやみつけやぐらは、まどをはめたやうな兩眼りやうがんみひらいて、てんちうする、素裸すはだかかたちへんじた。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
顱卷はちまきをはづして、こゝで、生白なましろ素裸すはだかになつて、はひつておよがないばかりに、あし爪先つまさきまで綺麗きれいいた。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かなぐり脱いだ法衣ころもを投げると、素裸すはだかの坊主が、馬に、ひたと添ひ、紺碧こんぺきなるいわおそばだがけを、翡翠ひすい階子はしごを乗るやうに、貴女きじょは馬上にひらりと飛ぶと、天か、地か
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
が、いずれも葉を振るって、素裸すはだか山神さんじんのごとき装いだったことは言うまでもない。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)