移香うつりが)” の例文
抽斗ひきだしすかして、そつ背負揚しよいあげ引張出ひつぱりだしてると、白粉おしろいやら香水かうすゐやら、をんな移香うつりがはなかよつて、わたしむねめうにワク/\してた。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
如何いかなるくはだてか、内證ないしようはずわざ打明うちあけて饒舌しやべつて、紅筆べにふで戀歌こひうた移香うつりがぷんとする、懷紙ふところがみうや/\しくひろげて人々ひと/″\思入おもひいれ十分じふぶんせびらかした。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
押入の一方には支那鞄、柳行李、更紗さらさ蒲団ふとん夜具の一組を他の一方に入れようとした時、女の移香うつりがが鼻をったので、時雄は変な気になった。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
土手八丁どてはっちょうをぶらりぶらりと行尽ゆきつくして、山谷堀さんやぼり彼方かなたから吹いて来る朝寒あさざむの川風に懐手ふところでしたわが肌の移香うつりがいながらやま宿しゅくの方へと曲ったが
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
玫瑰まいかいの芳烈なるかおりか、ヘリオトロウプの艶に仇めいた移香うつりがかと想像してみると、昔読んだままのあの物語の記憶から、処々しょしょの忘れ難い句が、念頭に浮ぶ。
『新訳源氏物語』初版の序 (新字新仮名) / 上田敏(著)
打披うちひろげたりし油紙を取りて直行の目先へ突付くれば、何を包みし移香うつりがにや、胸悪き一種の腥気せいきありておびただしく鼻をちぬ。直行はなほも逆はでむ無くおもてそむけたるを、狂女は目をみはりつつ雀躍こをどりして
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
人肌のぬくみも去らず、身に染みた移香うつりがをそのまま、梓はやしきに帰って、ずッと通ると、居間の中には女まじりにわやわや人声。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
羽織の紐より帯ネキタイなんぞの結目に気をつけ、甚しきはすぐと男の懐中へ手を入れ移香うつりがをためすが如きに至つては浅間しくもまたいやらしき限りなり。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
ちらちらべに色のが交って、咲いていますが、それにさえ、貴方あなた法衣ころもの袖のさわるのは、と身体からだをすぼめて来ましたが、今も移香うつりががして、はばかり多い。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
美しき人の移香うつりがこめし化粧のにさまよふ。
これに悚然ぞっとしたさまに、一度すぼめた袖を、はらはらと翼のごとくたたいたのは、紫玉が、可厭いとわしき移香うつりがを払うとともに、高貴なる鸚鵡おうむを思い切った、安からぬ胸の波動で
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小児こどもの背中に、その膝についた手の仕切がなかったら、膚へさぞ移香うつりがもするだろうと思うように、ふっくりとなだらかにつまさばいて、こう引廻ひきまわした裾が、小児こどもかばったように
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……貴女様あなたさまはだ移香うつりが、脈のひびきをお釵から伝へ受けたいのでござります。貴方様あなたさま御血脈おけちみゃく、其が禁厭まじないに成りますので、お手に釵の鳥をばお持ち遊ばされて、はい、はい、はい。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
紅筆べにふで戀歌こひか移香うつりがぷんとする懷紙くわいしうや/\しくひろげて、人々ひと/″\思入おもひいれ十分じふぶんせびらかした。
片しぐれ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
……貴女様あなたさまはだ移香うつりが、脈のひびきをお釵から伝え受けたいのでござります。貴方様の御血脈おけちみゃく、それが禁厭になりますので、お手に釵の鳥をばお持ち遊ばされて、はい、はい、はい。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
金の額ぶちのように背負しょって、揚々として大得意のていで、紅閨こうけいのあとを一散歩、ぜいる黒外套が、悠然と、柳を眺め、池をのぞき、火の見を仰いで、移香うつりが惜気おしげなく、えいざましに
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
此に悚然ぞっとしたさまに、一度すぼめた袖を、はら/\と翼の如くたたいたのは、紫玉が、可厭いとわしき移香うつりがを払ふとともに、高貴なる鸚鵡を思ひ切つた、安からぬ胸の波動で、飜々はらはらとふるひながら
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)