真個ほんと)” の例文
旧字:眞個
演技も真に迫つてゐて観客から見ては、舞台の上の俳優達が何処までが真個ほんとうに涙を流し、どこまでが空涙かわからぬほどであつた。
小熊秀雄全集-15:小説 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
「艶じゃア無い、真個ほんとにサ。如才が無くッてお世辞がよくッて男振も好けれども、唯物喰ものぐいのわりいのが可惜あったらたまきずだッて、オホホホホ」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
幾何いくら叱つても山内さんを見れや然う言ふもんですから困つて了ひますよ。ホホヽヽ。七月児ななつきごだつてのは真個ほんとで御座いませうかね?
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
お客様だと云うから、誰かと思って見ると、千枝子さんの名刺に、真個ほんと喫驚びっくりした。此上もないよろこびのおどろきである。丸髷が美しい。
お酒が少しばかりまわりますと、親切に色々とあたし身上みのうえをお尋ねになりましたので、何もかも真個ほんとの事をスッカリ話しました。
近眼芸妓と迷宮事件 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
が、スミスの真個ほんとの活動は、一九〇三年に開始されて、引き続いて六年間、彼は東奔西走席の暖まる暇もなく女狩りに従事して多忙をきわめた。
浴槽の花嫁 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
たしかにどこかで見たような顔、そんなような気がするだけで、どこの誰か、果して真個ほんとに会ったことのある仁か、与惣次はいっこう思い出せなかった。
少し御手柔おてやはらかに遊ばせ、あれ/\それぢやあ真個ほんとに死んでしまひますわね、母様、もし旦那つてば、御二人で御折檻なさるから仕様しやうが無い、えゝうせうね
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
北村君の文学生活は種々な試みをって見た、準備時代から始まったものではあるが、真個ほんとに自分を出して来るようになったのは、『蓬莱曲』を公けにした頃からであろう。
北村透谷の短き一生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
夫れもその筈、担ぎ挙げる人達が男も女も、真個ほんとに覚醒して見えるのが無いからです。
新らしき婦人の男性観 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
これが真個ほんとの押掛けで、もとより大鎧罩手こて臑当すねあての出で立ちの、射向けのそでに風を切って、長やかなる陣刀のこじりあたり散らして、寄付よりつきの席に居流れたのは、鴻門こうもんの会に樊噲はんかいが駈込んで
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「いや、そりゃ真個ほんとかどうだか、無論分らんが、何んでも日本の男に内通してたというので疑われたらしいんだ。そのうち一つ、俺はあの女の骨も貰って来ようと思っているのさ。」
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
「そして真個ほんとにその家が出来たのかね」と井山は又しょぼしょぼまなこを見張った。
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
腹の中ではお宮の気心をはかりかねて、真個ほんとに嫌われたのだろうかと、消え入るような心地ここちになっていたのが、主婦の物馴れた調子によみがえったような気になって、私は一と足さきに清月にいった。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
俺は真個ほんとうは健康な女が嫌ひであつた。そのひとつの理由として健康な女に限つて色が黒いといふことも挙げることができる。
殴る (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
「お勢、真個ほんとにお前は文三と何にも約束した覚えはないかえ。エ、有るなら有ると言ておしまい、隠立かくしだてをするとかえってお前の為にならないヨ」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
やや、消極的な傾向だが、謙虚に自分を顧みて、私のような生はんじゃくな人間は、真個ほんとに自分の描くような愛の生活に価しないのだと、近頃思う。
『女は皆——の性質を持つてるつて真個ほんとですかつと言つたら、貴方とはこれから口を利かないつて言はれましたよ。』
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ブラドンはただ真個ほんとの彼が出てきたにすぎないのだが、由来、ランカシャアの人は、田舎者の中でも道義感の強い頑固な人たちとなっているので、この
浴槽の花嫁 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
正木先生が何故なにゆえに、かかる光栄ある機会を前にして、行衛不明になられたかという真個ほんとの原因に就ては今日まで、何人なんぴとも考え及んだ者が在るまいと思います。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
一同 (手に手に石をふたツ取り、カチ/\と打鳴うちならして)魔が来た、でん/\。影がさいた、もんもん。(四五たび口々にさみしくはやす)真個ほんとに来た。そりや来た。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
死ぬのにうそ真個ほんとというのも変なものだが、これにはふとした一時の出来心や、見せつけてやろうという意地一方のものや、狂言なぞというのは絶えてありえない。
どうして其様そん悪戯いたづらするんだい。女の児は女の児らしくするもんだぞ。真個ほんとに、どいつもこいつも碌なものはありやあしねえ。自分の子ながら愛想あいそが尽きた。見ろ、まあ、進を。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
あゝいう境遇にいる女性おんなだから、何うせ清浄きれいなものであろう筈も無いのだが、何につけ事物を善く美しゅう、真個ほんとのように思い込み勝ちな自分は、あのお宮が最初からそう思われてならなかった。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
しかし画業の難かしさまた真個ほんとうの意味での妙味は、実はさうした嫌々に線を引くところまできて始めて、仕事の出発があるともいへよう。
マア本田さん聞ておくんなさい、真個ほんとにあの児の銭遣ぜにづかいの荒いのにも困りますよ。此間こないだネ試験の始まる前に来て、一円前借して持ッてッたんですよ。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
真個ほんとに一人の人間が知り得る丈の事を知り、感じ得る丈の事を感じて、其処から力の及ぶ限り何物かを見出して行き度いものだと思わずにはいられない。
私の事 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
『可哀相よ、あの方は。………………………………………………………………………………………。………真個ほんとに私あのお話を聞いてゐて、こはくなつたことよ。』
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「ああ、聞いて見てくんねえ、真個ほんとに肴ッ気が無くッちゃあ、台なし身体からだが弱るッていうんだもの。」
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
だから真個ほんとの悪魔というものは誰の眼にも止まらないで存在しているのだ——
鉄鎚 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
真個ほんと図太づない口の利きやうを為る。だから省吾は嫌ひさ。すこし是方こちらが遠慮して居れば、何処迄いゝ気に成るか知れやしねえ。あゝ必定きつとまた蓮華寺へ寄つて、姉さんに何か言付けて来たんだらう。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
先の出て行った喬之助が真個ほんとの喬之助なら、あとの、はいって来たほうの喬之助は、ベツの喬之助——別の喬之助てのも変だが、つまり、神田帯屋小路の喧嘩屋先生、茨右近にきまっているのだが
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
唯物的であることが、超現実派の作品を描かせなかつたとしたら、それは真個ほんとうの意味のシュルレアリストではないのである。
投書、当選ということは、真個ほんとの芸術家に成ろうとするものにとってよい事か? 或はよくないことか? 岡田三郎氏は、まだ投書家的臭味を持って居る。
真個ほんとですよ。——優美な感情は好かつた。——あんな事をいふつてのは一種の生理的なんですね。』
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
真個ほんとだよ、あられだって、半分は、その海坊主が蹴上けあげて来る、波のしぶきが交ってるんだとさ。」
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これこそ真個ほんとうの油絵で、日本の洋画家は油絵を描くどころか、油絵といふ材料を満足に使ひこなせてゐないのだと痛感したものであつた。
いくら彼方此方の大学で一生懸命に「短篇小説作法」を講義していても、講義し切れないものがあるのだから恐ろしい。真個ほんとにひとのことではないと思う。
お寝間のおとぎもまけにしてと——姉さん、真個ほんとかい、洒落しゃれだぜ洒落だぜ洒落じゃねえ。らっしゃい、お一方ひとかた、お泊でございますよ。へい、お早いお着様つきさまで、難有ありがとう存じます。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
真個ほんとに行って来たよ』
火星の芝居 (新字新仮名) / 石川啄木(著)
俺は真個ほんとうは健康な女が嫌ひであつた。そのひとつの理由として健康な女に限つて色が黒いといふことも挙げることができる。
小熊秀雄全集-15:小説 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
真個ほんとに自分が家をもらう積りに成って居た所へ重三が出て来て目算をがらりと崩して仕舞ったのを恨んで居ると外思えなかったので、非常な不安が湧き立って
お久美さんと其の周囲 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
真個ほんとに、結構な御堂おどうですな、い景色じゃありませんか。」
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其等の欠点に対しての自分は、真個ほんとに何処までも謙譲ではありますけれども、此頃になって、あの作は私の一生の生活を通してかなり大切なものになって来ました。
沁々した愛情と感謝と (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
真個ほんとうにお可笑な方ね、お金が無くなれば、乞食のやうな惨めな気もちになつてしまふのね。
殴る (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
「そうかなあ、……雪女郎って真個ほんとにあるんだってね。」
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
若し出来るなら、真個ほんとに一生彼の妻として終始したいと云う彼女の希望には微塵みじんも嘘はありません。
真個ほんとうにお可笑な方ね、お金が無くなれば、乞食のやうな惨めな気もちになつてしまふのね。
小熊秀雄全集-15:小説 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
ことばとがめをなすってさ、真個ほんとにお人が悪いよ。」
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それは真個ほんとのおしゃれが低い意味での技巧で追つかないと同じで、心のおしゃれも、生々した感受性や、感じたものを細やかにしっとりと味わって身につけてゆく力や
女性の生活態度 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)