生気せいき)” の例文
旧字:生氣
小泉氏はそう考えますと、いくらか気も落ちつき、青ざめきっていた顔にも、なんとなく生気せいきがよみがえってくるように見えました。
妖怪博士 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
風が変って海霧が流れ、雲とも煙ともつかぬ灰色の混濁の間から、雪を頂いた、生気せいきのない陰鬱な島の輪郭がぼんやりとあらわれだしてきた。
海豹島 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
昼間でも、太陽を忘れているような、生気せいきのない膳部番や、料理人や、老いたるお賄頭まかないがしらが、十年一日の如く、昆布こぶ煮出にだじるのにおいの中に住んでいる。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今村の顔には次第に生気せいきがさしてくるようだった。南京町にいって、支那料理屋にはいり、老酒ラオチュウをのみ、よく食べた。それから電車で東京に帰っていった。
やまには、まだところどころにゆきのこっていました。しかし五がつなかばでしたから、木々きぎのこずえは、生気せいきがみなぎって光沢こうたくび、あかるいかんじがしました。
らんの花 (新字新仮名) / 小川未明(著)
この本店はその昔、意気軒昂いきけんこうで名を成した名人寿司として有名なものであったが、キリンも老いてはの例にもれず、ついに充分の生気せいきは消え去ってしまった。
握り寿司の名人 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
しばらく経った。彼は頭を強く振るとのろのろと歩き出した。顔色は依然として悪かったが唇を堅く結び眼付がけわしくなったのが、かえって生気せいきが出たように見えた。
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
年目ねんめった、たった二人ふたり世界せかいほとんど一のうちに生気せいきうしなってしまった菊之丞きくのじょうの、なかばひらかれたからは、いとのようななみだが一すじほほつたわって、まくららしていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
クロはさっきよりは、いくらかおちついていましたが、でも目のいろは、まだとろりとうるんで、生気せいきがありません。ふうふういきをするたびに、鼻さきのわらくずが動きます。
正坊とクロ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
役者になったからって、急におめかしをする必要もないが、こんな生気せいきの無い顔は困る。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
めたりと云うには余りおぼろにて、眠ると評せんには少しく生気せいきあます。起臥きがの二界を同瓶裏どうへいりに盛りて、詩歌しいか彩管さいかんをもって、ひたすらにぜたるがごとき状態を云うのである。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
園を歩く時、大半は種になったコスモスのこずえに咲き残った紅白の花が三つ四つさびしく迎える。畑には最早大麦小麦が寸余に生えて居る。大根漬菜が青々とまだ盛んな生気せいきを見せて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
どこか悪いらしく生気せいきのない顔をしていつも寝転んだり起きたりしていた。
彼はようや生気せいきを取り戻したようであった。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と主張するのが所謂生気せいき説であります。
人工心臓 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
今、宇宙の生気せいき
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
十町ほどむこうに、鉛色なまりいろ泥湿地でいしっちが、水面とおなじくらいの高さでひろがり、その涯は、ひょろりと伸びあがった生気せいきのない樹林じゅりんで区切られている。
呂宋の壺 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
江戸前の寿司というものは、よほど注目にあたいし、魅力に富むものらしい。握りが自慢になるのは、上方かみがた寿司の風情ふぜいのみにし、生気せいきを欠くところに比較してのことである。
握り寿司の名人 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
生気せいきのない衰えた顔付だった。鏡台の抽斗を開けてみた。櫛や簪や毛ピンが沢山はいっていた。次の抽斗には化粧壜が一杯はいっていた。どれもこれも使い古しばかりらしかった。
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
そのうち、だんだん木々きぎ小枝こえだにも、生気せいきのみなぎるのがかんじられ、こおりのように、つめたくはりつめたくろくもが、あわただしく、うごきはじめて、ふゆっていくのがわかりました。
雲のわくころ (新字新仮名) / 小川未明(著)
何を思いついたのか、老人の顔には、にわかに生気せいきがみなぎってきました。
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それに、旗鼓きこ堂々といいたいが、何となく士気も振わない。生気せいきがない。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
でもまあ、なんて生気せいきの無い顔をしたやつばかりなんだろう。学生が五人。女が三人。ひでえ女だ。永遠に、従妹いとこベット一役ひとやくだ。他は皆、生活に疲れた顔をした背広姿の三十前後の人たちである。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
藤田という青年と今一人何とかいった青年は東京中学に通っており、背のひょろ高い、何となく生気せいきのない吉田は国民英学会の夜学に通い、ずんぐりでどもりの奥山は電機学校の午後部に通っていた。
生気せいきのない、くすぼった感じの娘だったが、三池と結婚してから、眼の中にしっとりした情味がつき、人間の面白味が出て、社交馴れた洒脱なマダムになった。
川波 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「おれに故郷くにがあるとなあ。」と、父親ちちおやは、ひとみしろくなって、生気せいきうしなったで、あたりをまわしながら、こたえました。おとうさんには、もう、両親りょうしんもなければ、またかえるべきいえもなかったのでした。
青い草 (新字新仮名) / 小川未明(著)
と、口々に期待して、どっと生気せいきをよみがえらせた。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
池田は機械的にスプーンを動かして、生気せいきのないポタージュを口に運びながら、つぶやいた。
春雪 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)