あか)” の例文
新字:
彼はぼんやりそのあかりを見つめていると、やがて一台の大きな荷車と、それを牽いている一頭の逞ましい馬がはっきりと見えて来た。
乞食 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
さし上げている白いひじに、あかりの影と黒髪がさやさやとうごいて、二月きさらぎの晩のゆるい風には、どこか梅のかおりがしていた。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
紙をまとめて、机代りの箱の上にのせ、硯にかみの被をし筆を拭くと、左の手でグイと押しやって、そのまんまあかりの真下へ、ゴロンと仰向になった。
栄蔵の死 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
あかりに反いた内匠の顏は、心持少し蒼くは見えますが、決然たる辭色じしよくは、それにも拘らず、寸毫すんがうの搖ぎもありません。
しのぎつゝ親子が涙のかわく間もなくわづかの本資もとで水菓子みづぐわしや一本菓子などならおき小商こあきなひの其のひまにはそゝぎ洗濯せんたく賃仕事ちんしごとこほあぶらあかりを掻立かきたてつゝ漸々やう/\にして取續き女心の一トすぢ神佛かみほとけ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
静かな空気を破ってなまめいた女の声が先ほどから岸で呼んでいた。ぼんやりしたあかりをむそうに提げている百トンあまりの汽船のともの方から、見えない声が不明瞭になにか答えている。
冬の蠅 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
垣根の間から立派なおやしきが見えるよ。さつき赤ん坊のいてゐたおやしきだ。たくさんあかりがついてゐる。随分ひろびろしたお庭だ。もう赤ん坊は欷いてゐない。きつとお乳をんでゐるんだね。
水に沈むロメオとユリヤ (新字旧仮名) / 神西清(著)
長閑のどかにお経を見ているようであったから、正信房がまだあかりも差上げなかったのに、とそっと座敷を窺うと左右の眼のくまから光を放って文の表を照して見て居られたが、その光の明かなること
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
母は小さな仏壇にあかりを入れてやかましく喚いてゐる。
現代詩 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
あかりのみなぎっている賑やかな広間であるにも拘らず、彼は何だか遠く懸離かけはなれた、暗いところへ島流しにでもされたような気持がした。
孤独 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
「——もうやがて夜が明けましょう。範宴どの、またあすの朝お目にかかります」あかりだけをそこにおいて、聖覚法印は、木履ぼくりの音をさせて、ことことと立ち去った。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
曲輪くるわうらかい眼隱めかくし板の透間すきまよりほのかに見ゆる家毎やごとあかしお安は不審いぶかり三次に向ひ爰は何と申所にやまたあのにぎやかのは何所なりととはれて三次は振返ふりかへあれあれがお江戸の吉原さお文さんは那内あのうちに居られるのだしてお富さんの居るお屋敷もたんとははなれて居らぬ故二人に今夜はあはせてあげんといはれてお安は
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
いつの間にか音楽がんであかりが暗くなったので、彼はふと眼をあけると、何だか非常に遠いところから帰って来たような感じがした。
孤独 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
あかりの流れている縁側と、彼の立っている廊下との間を、約九尺ほどの闇が中断していて、そこの暗い壁の露地に、武蔵はなにか好ましからぬ物の気配を感じたのである。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
店舗みせにはみな煌々とあかりがついて、通りかかる女たちも、人も、物も、すべてこの春の黄昏たそがれの幸福な安逸と、生の楽しさとを物語っていた。
孤独 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
武蔵が足を止めてたたずんでいると、あかりのしている彼方あなたの座敷らしい内から
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は今うとうとと眠りかけたが、ふと向うから馬の鈴のが聞えて来た。顔をあげると、あかりが一つちらちらと街道を動いて来るのが見える。
乞食 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
右衛門七が、あかりの下に出して見せたのは、半分に割れた板絵図だった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は後退あとすざりをして、犠牲者の様子を覗きこんだ。小さな懐中電燈のあかりだけでは、シャツの上から刺した創口きずぐちがどんな風か、血が出たかうかも見分けがつかなんだ。
空家 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
声と共に、横窓の小蔀こじとみが、すこし上がって、あかりが外へ流れたが
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女は強いて寂しい微笑を口元に浮かべながらいとまをつげた。そして当てもなく街を歩いているうちに、日はとっぷりと暮れて、店頭みせさきにはあかりがついて、家々の窓が一つずつ明るくなっていった。
小さきもの (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
あかりはいているが、返辞はない。十兵衛は舌打ちならして
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
戸の下の隙間からあかりが洩れていて、室内なかに人の跫音あしおと——やわらかい絨毯でさえも消すことが出来ないほど慌てた跫音あしおとがしたので、彼は聴耳をたてた——やがてその跫音あしおとが止んで、あかりが消えた。
犬舎 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
ジ、ジ、ジ……とあかりの蝋涙ろうるいが泣くように消えかかる。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「……もうあかりが来たか」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)