おのこ)” の例文
船内でも慈悲太郎の部屋でも、一つはそもじをねらった荒くれおのこ、また一つが——この私だったと聞いたら、驚くであろうのう
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
と緒を手首に、可恐おそろしい顔は俯向うつむけに、ぶらりと膝に飜ったが、鉄で鋳たらしいそのおごそかさ。逞ましいおのこの手にもずしりとする。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
所謂いわゆる埋没さるること無き英霊底のおのこである。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
渠がかくのごとくなす時は、二厘三厘思い思いに、そのたなそこに投げ遣るべき金沢市中の通者とおりものとなりおれる僥倖ぎょうこうなるおのこなりき。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一人にてはくことなかれと、優しき姉上のいいたりしを、かで、しのびて来つ。おもしろきながめかな。山の上のかたより一束のたきぎをかつぎたるおのこおりきたれり。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一人にてはくことなかれと、やさしき姉上のいひたりしを、かで、しのびて来つ。おもしろきながめかな。山の上のかたより一束ひとたばたきぎをかつぎたるおのこおりきたれり。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
此奴こやつ、(白拍子)別嬪べっぴんかと思えば、しょうは毛むくじゃらのおのこが、白粉おしろいをつけてねるであった。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
三十五六の屈竟くっきょうおのこ、火水にきたえ上げた鉄造くろがねづくりの体格で、見るからに頼もしいのが、沓脱くつぬぎの上へ脱いだ笠を仰向あおむけにして、両掛の旅荷物、小造こづくりなのを縁にせて、慇懃いんぎん斉眉かしずく風あり。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
青ぺらのつばむしり上げて、引傾ひきかたげていで見せたは、酒気さかけも有るか、赤ら顔のずんぐりした、目の細い、しかし眉の迫った、その癖、小児こどものようなしまりの無い口をした血気ざかりおのこである。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大釜おおがまに湯気を濛々もうもうと、狭いちまたみなぎらせて、たくましいおのこ向顱巻むこうはちまきふみはだかり、青竹の割箸わりばしの逞しいやつを使って、押立おったちながら、二尺に余る大蟹おおがに真赤まっかゆだる処をほかほかと引上げ引上げ
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
棍棒こんぼうを取れる屠犬児いぬころし、籠を担える屑屋、いずれも究竟くっきょうおのこ、隊の左右に翼たり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その十数名の軍夫の中に一にんたくましきおのこあり、とかの看護員に向いおれり。これ百人長なり。海野うんのう。海野は年配三十八九、骨太なる手足飽くまで肥えて、身の丈もまた群を抜けり。
海城発電 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
娘と手を合わせたのに、何となく気がさして、多津吉はそのおのこに声を掛けた。
その十数名の軍夫の中に一人たくましきおのこあり、の看護員に向ひをれり。これ百人長なり。海野うんのといふ。海野は年配ねんぱい三十八、九、骨太ほねぶとなる手足あくまで肥へて、身のたけもまた群を抜けり。
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
対の扮装いでたちそでを連ねて侍女こしもとにん陪乗し、馭者ぎょしゃ台には煙突帽をいただきたる蓄髯ちくぜんおのこあり、晏子あんしの馭者の揚々たるにて主公の威権おもうべし。浅葱あさぎ裏を端折りたる馬丁べっとうにん附随つきしたがい、往来狭しとむちを挙げぬ。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わかい女を真中まんなかに、おのこが二人要こそあれと、総曲輪の方から来かかってあゆみとどめ、あわいを置いて前屈まえかがみになって透かしたが、繻子しゅすの帯をぎゅうと押えて呑込んだという風で、立直って片蔭に忍んだのは
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もじゃもじゃ眉に、きょろりと目を光らした年配のおのこが見えた。