権柄けんぺい)” の例文
旧字:權柄
みち子は柚木の権柄けんぺいずくにたちまち反抗心を起して「人が親切に持って来てやったのを、そんなに威張るのなら、もうやらないわよ」
老妓抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そこで、いくらかの抗弁はこころみたものの、相手は、役職も上だし、禁門のおう師範とあっては、役人づら権柄けんぺいも歯が立たなかった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
コチトラは敗軍の将だから、当節の殿様の権柄けんぺいについては不案内だが、文明開化の御時世とはいえ、無理が通れば道理がひッこむ。
我州民ノ自カラ法令ヲ議定スベキ権ヲ奪却シテ、国王ノ徒党ヨリ我輩ヲ制スルノ権柄けんぺいヲ執ルトテ、之ヲ一般ニ布告セントスル為メナリ。
警視庁けいしちょう技師ぎしが、ふいに牛舎ぎゅうしゃ検分けんぶんにきた。いきなり牛舎のまえに車にのりこんできて、すこぶる権柄けんぺいに主人はいるかとどなった。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
陽気な声を無理に圧迫して陰欝いんうつにしたのがこの遠吠である。躁狂そうきょうな響を権柄けんぺいずくで沈痛ならしめているのがこの遠吠である。自由でない。
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
右のごとく、国民は政府と約束して政令の権柄けんぺいを政府に任せたる者なれば、かりそめにもこの約束をたがえて法にそむくべからず。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
次の日の朝、いつものように部屋借の二階で寝ころがっていると、階下の塀の外で、おいおい、と権柄けんぺいに呼ぶものがある。
顎十郎捕物帳:03 都鳥 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
右のように説明されてみると、あながち役人が権柄けんぺいのためや、物好きに抜かせてみようというわけではなく、当然のお役目のために要求するのだ。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
などと、少し権柄けんぺいずくになって居るのは五十前後の用人らしい男、あとは二人の折助で、店先には死骸を運んで行く駕籠かごが用意してある様子です。
むら気で無分別で権柄けんぺいがましい、いささか智慧ちえの足りない連中で、グーロフは恋がめだすにつれて相手の美しさがかえって鼻についていやでならず
絵がまだまとまっていないからと断わったのに、どうしても見ると云い張った権柄けんぺいずくにはらが立ったのかもしれない。
扇野 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それから、本家ほんけ附人つけびととして、彼がいんに持っている権柄けんぺいを憎んだ。最後に、彼の「家」を中心とする忠義を憎んだ。
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
都合よいのをり取り見取りで。アトは要らぬと玄関払いじゃ。ならば私立はどうかと見ますと。これは何しろ商売本位じゃ。みんな金ずく権柄けんぺいずくめの。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
この紳士は権柄けんぺいずくにおためごかしを兼ねて、且つ色男なんだから極めて計らいにくいのであります。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
五代の法王はその権柄けんぺいを受けて、その時からいよいよ教政一致ということにしたのです。ですから教政一致になったのはまだチベットでは三百年経たぬ位の事なんです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
勿論、主人持ちの小僧や、年寄りの巾着きんちゃくなぞは狙わない。彼女が狙ったのは、浅黄裏あさぎうらの、権柄けんぺいなくせにきょろきょろまなこの勤番侍や、乙に気取った町人のふところだった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
むりでもそれに違いない、と権柄けんぺいずくで自説をつらぬいて、こそこそと山をりはじめる。
千鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
死人をねぶれ、といわれや、ねぶります。料理つくって食え、といわれても、いわれたとおりします。役人の命令なんて、誰がきくもんか。権柄けんぺいずくなら、いやなこってす。……なあ、新公
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
厩橋市中取締を役目としているのであるけれど、雀右衛門という男は、この頃の政府の役人のように権柄けんぺいづくで賄賂を人民から捲き上げるのを常習としていた。そして酒の上が甚だよくない。
純情狸 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
老師! 老師! オースチン老師! 権柄けんぺいずくで物を云ったは、このそれがしのあやまちでござる。取消すほどにお許しくだされい。がそれにしても只今の言葉、ちと手頼たよりないではござらぬかな。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「そうお。」夫人の笑顔が、急に権柄けんぺいずくな常の顔に変った。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
みち子は柚木の権柄けんぺいずくにたちまち反抗心を起して「人が親切に持って来てやったのを、そんなに威張るのなら、もうやらないわよ」
老妓抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
いずれは白洲にでも曳きだされて、権柄けんぺいな言いがかりやらしもとにも耐えなければなるまいかと、腹もきめていた兼好なのだ。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あらいやだ、さあ云えだなんて、そんな権柄けんぺいずくで誰が云うもんですか」と細帯を巻き付けたままどっかと腰をえる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そう権柄けんぺいにおっしゃるものじゃございません、せっかく、こうして危ない思いをして、人目を忍んでお願いに上ったんじゃございませんか、そこは
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
昌平橋の角井憲庵かどいけんあん——その頃蘭法で聞えた名医のところへ、半ば権柄けんぺいずくでつれ込んだのは、その日の夕方でした。
権柄けんぺいに任せて粗暴放埓な振舞いをし、時には訳もなく手を挙げて打つようなことすらあった。
湖畔 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
無理な出世のむくいよなんどと。白い眼をされ舌さし出され。うしろ指をばさるるらさ。御門構えの估券こけんにかかわる。そこで情実、権柄けんぺいずくだの。縁故辿たどった手数をつくして。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
花前はときどきあたまを動かすだけで一ごんもものをいわない。技師先生心中しんちゅう非常に激高げっこう、なお二言三言、いっそう権柄けんぺい命令めいれいしたけれど、花前のことだから冷然れいぜんとして相手あいてにならない。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
只栄華権柄けんぺいの慾望を満足させるために、心にもなく日本一の勢力者、時の公方くぼうの枕席のちりを払うことの、いかに妄虚もうきょに満たされたものであるかがはっきりと感じられて、もう一日も
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
入っちゃあならない、真暗だ、天窓あたまが石のような可恐おそろしい猿が居る、それが主だというじゃあないか。この国中さばいてる知事の嬢さんが欲しくっても、金でも権柄けんぺいずくでもかなわないというだろう。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
母親はふだんから、世が世ならば、こんな素町人の家の娘をうちの息子になぞ権柄けんぺいずくで貰わせられることなぞありはしない。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
権柄けんぺいずくで物を言い付ける習慣が付いているので、うっかり心付けをしておかなかったのが、ガラッ八ごときにしてやられる、重大な失策になったのです。
といって、畏れというのは、サーベルや、鉄砲でおどかすことではない。権柄けんぺいずくで人民を圧制することでもない。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
親爺の論理は何時聞いても昔し風に甚だ義理堅いものであったが、その代り今度はさ程権柄けんぺいずくでもなかった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と、路地の口から往来の左右を、いわゆる“こわらしき者”といわれる権柄けんぺい叱咜しったで、群集を、押しひらいた。
もとは、麹町平河町の御用聞で、先年同心の株を買い、以来、むかしのことを忘れたように権柄けんぺいに肩で風を切る役人面。いよう、と言えば、さがるはずの首が、おう、と逆に空へ向くやつ。
その権柄けんぺいや無情なしもとが、身の皮に肉に骨髄こつずいに、どういう味がするものか、路傍の犬が人の手の小石を見るときのように、さんざん知って来ているからであった。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
乗るものは無理にも窮屈な箱の中に押し込もうとする、降りるものは権柄けんぺいずくで上からしかかって来る。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
門番の足軽は権柄けんぺいを作ったり、また粗略そりゃくにも扱わないように見せたりして、一人がくるわの中へ入って行きました。その間、お君は門番の控所で待たせられていました。
ガラッ八は妙に権柄けんぺいずくです。それに応えて出て来たのは、先刻さっき平次の家へ来たお茂与、——よくもこう素知らぬ顔が出来たものだと思うほど、美しく取りすましております。
○女に向って機嫌きげんを取るような男も嫌いなら、見下げて権柄けんぺいづくな男も嫌い。
現代若き女性気質集 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「だから奴らには、金力か腕か、どッちかでなけりゃあ応対もできません。弱い土地の、素直な土民と見るほど、権柄けんぺいを振り廻すのが、いまの役人ですからね」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いつもならば権柄けんぺいずくで命令されても、このお角さんだけは米友にとって苦手にがてであって、どうともすることはできないのだが、今日はいやに生やさしく頼まれるだけ
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
けれども表向おもてむき夫の権利を認めるだけに、腹の中には何時も不平があった。事々ことごとについて出て来る権柄けんぺいずくな夫の態度は、彼女に取って決して心持の好いものではなかった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「親分、町人は弱いものでございます。金と権柄けんぺいと、いやがらせと、おどかしと、攻手せめてはいくらでもあります。同じ町内に住んで三千石の殿様ににらまれちゃ、動きがとれません」
阿難 ——何という権柄けんぺいずくの言葉だ。
阿難と呪術師の娘 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
権柄けんぺいにこういいましたが、二官の体はゆるぎもせず、依然として、四、五間の距離を持堪もちこたえている。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
健三の言葉は勢い権柄けんぺいずくであった。きずつけられた細君の顔には不満の色がありありと見えた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)