栄耀えいよう)” の例文
旧字:榮耀
眼の前の無常を見て夢の中の栄耀えいよういとわねばなりません。とりわけて亡き父上の御遺言が耳の底に止まって心のうちに忘れられません。
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この二箇処へ出入りして道ならぬ栄耀えいようをなす女らを人々皆後指うしろゆびさして、琉球や朝鮮の毒を受けたら最後骨がらみになると言ひはやしき。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
うちのだんなは特別食い栄耀えいようのおかただから、いちばん上等をくれろといってな、値段にかまわず飛びきり一品を買ってきなよ。
苦労をさせたことを忘れないので銀子のことは銀子の好きなようにさせ、娘をあやつって自身の栄耀えいようを図ろうなどの目論見もくろみは少しもなかった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
今は主君と先祖の恩恵にて飽食ほうしょく暖衣だんいし、妻子におごり家人をせめつかい、栄耀えいようにくらし、槍刀はさびもぬぐわず、具足ぐそくは土用干に一度見るばかり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
元来、劉玄徳は、少年早くより貧賤ひんせんにそだち、その青年期には、各地を流浪し、まだ人間の富貴栄耀えいようの味は知りません。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのぬすっとも、これだけの金、うぬが栄耀えいよう栄華に使おうと言うんじゃねえ、何十という人の命が助かるのだ。
斬られの仙太 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
貴様が、自分の栄耀えいように眼がくらんで、子をかまいつけなんだように、わしは、わし自身の芸術たくみの心にのみしたがって、貴様のことなど、意にもかいせんのじゃ。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ひとつには、再び来ないであろう彼らの栄耀えいようの日に、ここで別れたと追想するよすがにしたい気持であった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
自分は贓品買ぞうひんかいの大罪を許して貰って、ぬくぬくと栄耀えいようをつづけている、麹町六丁目の桜屋六兵衛一家。
栄耀えいようなる牧師というものは一つの矛盾である。牧師は貧しき人々に接触していなければならない。
あしたに金光をちりばめし満目まんもくの雪、ゆうべには濁水じょくすいして河海かかいに落滅す。今宵こんしょう銀燭をつらねし栄耀えいようの花、暁には塵芥じんかいとなつて泥土にす。三界は波上のもん、一生は空裡くうりの虹とかや。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
玉垣たまがきをめぐらしたその小高い御陵は、鬱蒼うっそうたる雑木におおいつくされ、昼なお暗い樹間には、いにしえ栄耀えいようを思わすごとく蔦葛つたかずらの美しく紅葉して垂れさがっているのが仰ぎ見られた。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
知事様の奥方男爵夫人と人にいわるる栄耀えいようも物かは、いっそこのつらさにかえて墓守爺はかもりかかともなりて世を楽に過ごして見たしという考えのむらむらとわきたることもありしが
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
そもそも彼がこの家にとつぎしは、惑深まどひふかき娘気の一図に、栄耀えいよう栄華の欲するままなる身分を願ふを旨とするなりければ、始より夫の愛情の如きは、有るも善し、有らざるも更に善しと
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
……妹はこの数年間の嫂の変貌振へんぼうぶりを、——それは戦争のためあらゆる困苦をいられて来た自分と比較して、——戦争によって栄耀えいよう栄華をほしいままにして来たものの姿として
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
木賃宿きちんやど、其れ等に雨雪をしのぐのは、乞食仲間でも威張いばった手合で、其様な栄耀えいようが出来ぬやからは、村の堂宮どうみや、畑の中の肥料こやし小屋、止むなければ北をよけたがけの下、雑木林の落葉の中に
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
今夜からの貴様の役はそんな暢気のんきなものではない、われわれの申付けを守って温和おとなしくしておれば栄耀えいよう栄華な一生が送れる、が、申付けを守らず、ちょっとでも詰らぬ失策をすると縛り首だ
若殿女難記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ますます栄耀えいようの身となったゆえ、もはや、旧悪が暴露するうれいもないと考えているのであろう、一味の奴原やつばらが、われとわれから、そなたの面前に、みにくい顔をさらして見せたも、こりゃ
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
た当年の苦艱くかんかえりみる者なく、そが細君すらもことごとく虚名虚位に恋々れんれんして、昔年せきねん唱えたりし主義も本領も失い果し、一念その身の栄耀えいよう汲々きゅうきゅうとして借金賄賂わいろこれ本職たるの有様となりたれば
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
すべての栄耀えいようは人に具わるもの、そねむなかれ、という呪文を朝晩唱えるようになったからね。しかし、あなたが丈夫になって、ぼくも嬉しいです。世の大人物はあげてぼくを虐待するからね。
街はふるさと (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
まことに綺羅きらを飾って栄耀えいよう真似まねはしているけれども、これらの子女、いずれも好きこのんでこの里へ来ているものはない。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「戦いがやみさえすれば、暮し向きも気楽になり、諸事以前のような栄耀えいようが見られると存じまして。つい……」
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人はかかる言草いいぐさを耳にせばただち栄耀えいようの餅の皮といひつべし。されど芸術を味ひ楽しむ心はもと貧富の別に関せず。深刻の情致じょうちは何事によらずかへつて富者の知らざる処なり。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
危機の最後の決定的瞬間をび起こしてる間に、一方、その致命的なる一郭の外遠くに、幸福栄耀えいようなるパリーの光耀の下に隠れてるその古いみじめなるパリーの底知れぬ洞窟どうくつの深みに
「そういうのを栄耀えいようの餅の皮と云うのじゃあございませんか」
野分 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
いや先生、ご胸中はお察しいたしますが、いかに世が末になっても、罪なき者が罰せられて、悪人や奸吏がほしいままに、栄耀えいようまっとうすることはありません。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大名とか殿様という奴等は、自分の権力や栄耀えいようを肩に着て、いつも若い女のみさおを弄び、いい加減の時分にそれを突き放してしまうものであると、米友は今や信じきっているのであります。
殊に今宵の玄蕃には、折角立身出世の戸端口とばくちに来て、下手をやっては詰らない、できるだけ逃げて栄耀えいようをするにくはなし、という一つの弱気が先に立っていた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは花の都に栄耀えいよう栄華を極めているに越したことはございますまいけれど、居るには居られず、住むには住まわれないから、よんどころなく、こんな山奥の奥へ落ちて来たものでしょう
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それを旅川が不憫ふびんがって、自分の妻に立て、駿河台の元の屋敷に住むように——いや、それよりもっと栄耀えいようをさせてやろうというんじゃねえか。何をメソメソ泣くことがあるんだ
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
めかけ、てかけを置いて栄耀えいようしようというわけじゃなし、これがまあ本当に宝の持腐れというやつかも知れませんが、金というやつは皮肉なやつで、欲しくないところへは無暗に廻って来るし
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
美禄びろくてのめのめと自己のみ半生の栄耀えいようぬすむような鹿之介幸盛であろうはずはない。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「はたから見れば栄耀えいようの身じゃが、あの通子もかえって妾より苦労であろう……」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「この老猪ろうちょめ、なにをいうか。良民の膏血こうけつをなめ喰って脂ぶとりとなっている惰眠だみんの賊を、栄耀えいようの巣窟から追い出しにきた我が軍勢である。——眼をさまして、く古城を献じてしまえ」
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
将軍家づきの御中﨟として、大奥に仕える身となった通子は、間もなく、天麗の美質を家綱に見出され、その愛妾となり、四代将軍の寵を一身にあつめ、千代田城に時めく栄耀えいようの人となった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)