春信はるのぶ)” の例文
衣類きものより足袋たびく。江戸えどではをんな素足すあしであつた。のしなやかさと、やはらかさと、かたちさを、春信はるのぶ哥麿うたまろ誰々たれ/\にもるがい。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
藤吉とうきちが、あたふたとってしまうと、春信はるのぶ仕方しかたなしにまつろうまえいた下絵したえを、つくえうえ片着かたづけて、かるくしたうちをした。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
これぞ由なきものを見てしまったわい! あんなのは見ない方がよかった! 春信はるのぶの浮世絵から抜け出したその姿をよ、まさに時の不祥! 七里しちりけっぱい!
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
* 浮世絵の哲学は或る頽廃たいはい的なる官能の世界に没落し、それと情死しようとするニヒリスティックなエロチシズムで、歌麿うたまろ春信はるのぶが最もよく代表している。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
春信はるのぶの贋物をかいたという事で評判のよくない人ではあるが、随筆を読んでみると色々面白い事が書いてある。ともかくも「頭の自由な人」ではあったらしい。
断片(Ⅱ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
春信はるのぶ春章しゅんしょう歌麿うたまろ国貞くにさだと、豊満な肉体、丸顔から、すらりとした姿、脚と腕の肉附きから腰の丸味——富士額ふじびたい——触覚からいえば柔らかい慈味じみのしたたる味から
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
日本人はいつでも外国人に率先される。写楽しゃらく歌麿うたまろ国政くにまさ春信はるのぶも外国人が買出してから騒ぎ出した。
「承知致しました。然しよくこれ程お蒐集になりましたね。この春信はるのぶなどは逸品だと思います」
日蔭の街 (新字新仮名) / 松本泰(著)
梅花は予に伊勢物語いせものがたりの歌より春信はるのぶに至る柔媚じうびの情を想起せしむることなきにあらず。然れども梅花を見るごとに、まづ予の心をとらふるものは支那に生じたる文人趣味ぶんじんしゆみなり。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「いつも立寄る湯帰りの、姿も粋な」とは『春色辰巳園しゅんしょくたつみのその』の米八よねはちだけに限ったことではない。「垢抜あかぬけ」した湯上り姿は浮世絵にも多い画面である。春信はるのぶも湯上り姿を描いた。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
やがて小夜子はき口の方に立って、髪をすいた。なだらかながた均齊きんせいの取れた手や足、その片膝かたひざを立てかけて、髪を束ねている図が、春信はるのぶの描く美人の型そのままだと思われた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
自分は春信はるのぶ歌麿うたまろ春章しゆんしやうや其れよりくだつて国貞くにさだ芳年よしとしの絵などを見るにつけ、それ等と今日の清方きよかた夢二ゆめじなどの絵を比較するに、時代の推移は人間の生活と思想とを変化させるのみならず
虫干 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
春信はるのぶ」の
桜さく島:春のかはたれ (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
坊主頭ぼうずあたまへ四つにたたんだ手拭てぬぐいせて、あさ陽差ひざしけながら、高々たかだかしりからげたいでたちの相手あいては、おな春信はるのぶ摺師すりしをしている八五ろうだった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
この一事もやはり春信はるのぶ以前の名匠の絵で最もよく代表されるように思う。この裾の複雑さによって絵のすわりがよくなり安定な感じを与える事はもちろんである。
浮世絵の曲線 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
美術としての価値もとより春信はるのぶ清長きよなが栄之えいしらに比する事あたはざれど、画中男女が衣服の流行、家屋庭園の体裁ていさい吾人ごじん今日こんにちの生活に近きものあるをもって、時として余はただちに自己現在の周囲と比較し
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
外濠線そとぼりせんへ乗って、さっき買った本をいい加減にあけて見ていたら、その中に春信はるのぶ論が出て来て、ワットオと比較した所が面白かったから、いい気になって読んでいると、うっかりしているあいだ
田端日記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その画室がしつなかほどに、煙草盆たばこぼんをはさんで、春信はるのぶとおせんとが対座たいざしていた。おせんのうぶこころは、春信はるのぶ言葉ことばにためらいをせているのであろう。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
試みに豊国の酒樽さかだるを踏み台にして桜の枝につかまった女と、これによく似た春信はるのぶかさをさして風に吹かれる女とを比較してみればすべてが明瞭めいりょうになりはしないか。
浮世絵の曲線 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
同じ江戸風と申しても薗八一中節そのはちいっちゅうぶしなぞやるには『梅暦うめごよみ』の挿絵に見るものよりは少し古風に行きたく春信はるのぶの絵本にあるやうな趣ふさはしきやに存ぜられ候。江戸趣味は万事天明てんめいぶりありがたし/\
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)