りょう)” の例文
十月になるとわたしは川の牧草地にブドウ採りに出かけ、りょうというよりはその美しさと香りの点で珍重すべきふさをしょってきた。
「腑甲斐ねえ奴等だな! こんな稚児ッ小僧ひとりを持てあまして何とするかッ。どけどけ。仕方がねえから俺がりょうってやらあ!」
椀がついて、蓋を取ると鯉汁こいこくである。ああ、昨日のだ。これはしかし、活きたのをりょうられると困ると思って、わざと註文はしなかったものである。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
前には熊谷より前橋へ出ますには本庄宿の手前に御堂坂みどうざかと申す所より榎木戸村えのきどむらから八ちょう川岸がし、それより五りょうと申す所に日光一の関所がございます。
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
これ鳥居清信以来春章文調清長らの似顔絵を模写したるものなれどその色彩とその画風とは甚だ近世的にして古風のおもむき少く懐古のりょうとなすに足らず。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「それどころじゃありませんよ、井戸端で血を洗った奴がありますよ。まぐろをりょうった板みたいについて居ますぜ」
浚って来た女を、平兵衛は井戸へ入れて殺し、燐薬の生気の中に漬けておいては酉の日を待っておりんと二人でりょうって、臀肉を蒲鉾へ入れいれしていた。
すぐ、みんなで山鳥のあつものこしらえて食った。山鳥をりょうる時、青年ははかまながら、台所へ立って、自分で毛を引いて、肉をいて、骨をことこととたたいてくれた。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
若君から般若丸長光はんにゃまるながみつの名刀を拝領はいりょうしたではないか、さ、元気をだして、きょうからそれをりょうとするがいい
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
するとおば上からは、ごりょうのお上着うわぎと、おはかまと、懐剣かいけんとを、お別れのおしるしにおくだしになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
その上にまた絹のいずれの点から見ても、決して働く人々の着物のりょうとするには適しなかったのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
まさかと思って聴き居りましたに、では本当でござりまするか。如何に乱れた世の中とは言いながら、引換えのりょうに人の生首。こりゃ無理難題を言いかけて御影像を
取返し物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「石部には大黒屋という宿がある、あれへ行っておとなしく泊っていな、明日の晩までにはおいらが大物を一つりょうって、石部の宿のお前のところまで駈けつけよう」
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「ようし、きさまたちがそんなりょうけんなら考えがあるぞ。おれがどんな人間にんげんか、おまえらにわかるはずはないんだ。が、知りたければ知らせてやろう。見ておくがいい!」
おむらという娘も同じようにりょうってしまえば、また次の娘にかかるだろう、いつまでもそんな罪を重ねていればろくなことはありゃあしねえ、そういう女たちの怨みだけでも
あすなろう (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「うむ、上手にりょうってくれ。だがちょっと手強てごわいぞよ。もっとも一人だ、恐れるには及ばぬ。後には俺が控えている。いよいよとなったら手を下す。用心しながら掛かるがいい」
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
花見のりょうに用意した鯛が、雨のためにむだになったのを、夕方になってから塩をふるという風に解すると、誰にもわかりやすいかも知れぬが、それでは一句が索然たるものになってしまう。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
「あなたがたのお芝居しばいのさじきりょうがいかほどですね」と、貴婦人きふじんはたずねた。
彼が千歳村に引越したあくる月、M君は雑誌に書くりょうに彼の新生活を見に来た。丁度ちょうど樫苗かしなえを植えて居たので、ろく/\火の気の無い室に二時間も君を待たせた。君はいかる容子もなくしずかに待って居た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「おお、師匠か。どうするものか、りょうって食うのよ。」
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
どのような不審のかどある奴か、奉行所の役人共に聞き訊ねた上で、事と次第によらばこの主水之介がりょうってつかわすのじゃ
わが庭広からず然れども屋後おくごなほ数歩の菜圃さいほあまさしむ。款冬ふきせりたでねぎいちご薑荷しょうが独活うど、芋、百合、紫蘇しそ山椒さんしょ枸杞くこたぐい時に従つて皆厨房ちゅうぼうりょうとなすに足る。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
当人の出雲守頼門を目の前に置いて、熊の皮の胴服と半纏の男は、山刀と長脇差を、夕陽の中にギラギラさせ乍ら、獲物をりょうる猟師のように、遠慮もなく張上はりあげるのです。
ぼくはりょうをかせがなければならないのに今日は食っていないから、ひとつ釣りをしようと思いたったのだ。それは詩人のほんとのかせぎだ。ぼくがまなんだ唯一の商売だ。
たとえば年越や節供の前夜には、特に清い火をこしらえて翌朝の神供じんくを調えるりょうにいけて置き、または正月中は同じ火を続けるために、節榾せちほだなどという太いまきを使うところもある。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「やい、紫錦、ざまあ見ろ! よくも仲間を裏切ったな、りょうってやるから観念しろ!」
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「いまはじめて相分あいわかった。——些少ちとじゃがりょうを取らせよう。」
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
餌のない鳩を憐んで豆を投げ与え、これを馴付けて自分の友にしようという、閑居徒然の人らしい趣が窺われる。菓子の乏しい昔にあっては、炒豆なども座辺に置いてぽつぽつ食べるりょうの一であろう。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
「すると、かくまりょうか」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは麝香めいたにおいにかかわらず、一時的味覚をたのしませたが、常用するのは善い習慣ではないと判った。村の肉屋にそのヤマネズミをちゃんとりょうらせたらどんなものだか知らぬが。
「どけっ。おまえなんぞ雑兵ぞうひょうでは手も出まい。おれがりょうる!」
流行暗殺節 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)