攪乱かくらん)” の例文
旧字:攪亂
こうした夢、こうした病的な夢は、いつも長く記憶に残って、攪乱かくらんされ興奮した人間の組織オルガニズムに、強烈な印象を与えるものである。
個人生活をしいたげ、世界生活の平和を攪乱かくらんして置いて、ひとり国民生活が幸福に成長し得るものでないことも明白になりました。
三面一体の生活へ (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
あわよくば、その領を蚕食さんしょくすべく、つねに積極的な他の土豪の乱波らっぱ(第五列)が、純朴な農民をそそのかして、すぐ攪乱かくらんを計るものらしい。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また屍様図を描き魔法典焚書ふんしょを行ったりして、犯罪方法を暗示したり捜査の攪乱かくらんをあらかじめ企てたという事が、はたして
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
それがためにかえって画面の明暗の調子を攪乱かくらんし減殺し、そうして過度の刺激によって目を疲らせるばかりであるから
映画芸術 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
彼らは、この三月に行われる総選挙を攪乱かくらんして、それを機会に、ベニイ一派に痛手を負わそうと勇み立っているのです。
踊る地平線:10 長靴の春 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
一方東軍では、和泉の工匠を雇入れて砲に類するものを作らせ、盛んに石木を発射せしめて敵陣を攪乱かくらんさせたと云う。
応仁の乱 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
またあの女が臼杵家に入り込んで、まことしやかな虚構を吐いて、臼杵家を攪乱かくらんしようと思っているに違いない。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
徐州をはさみうちにするだろうと考えて、淪陥区ルエンクワンチュイ(日本では占領区域と呼んでいた)の後方攪乱かくらんに力を入れていた。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
その凶報きょうほうはおだやかなりし老人の胸を攪乱かくらんしたばかりでなく、宵祭よいまつりをいわうべき平和な家庭をもかきにごした。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
この、人間をはえのように殺し、人間のこしらえた文明を玩具のように破壊した大地震は、言わば私の心の中までもゆすぶって、すっかり平衡を攪乱かくらんしてしまった。
秘密 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
ただ長い間のどうすることも出来ない窮乏や孤独や絶望が、彼の頭を攪乱かくらんしてしまった。それに今は朝鮮という特殊な社会が彼を益々混迷にぶち込んだのである。
天馬 (新字新仮名) / 金史良(著)
この理由わけわからぬ煩悶はんもんあやしくもえずかれこころ攪乱かくらんして、書物しょもつむにも、かんがうるにも、邪魔じゃまをする。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ユダヤ国を攪乱かくらんするおそれによってその愛国者を怒らせた。では彼は何をしたか。彼はその無上愛によって三世にわたっての人類を自己の内に摂取してしまった。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
敵の前線を馬で突破し、一挙に内陣を攪乱かくらんする奇襲隊の役である、したがって家中では槍術がさかんにおこなわれた、それも騎乗とかちとを兼ねる秋田家独特の技法があり
足軽奉公 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その時代の一つの魂が烈しく動揺せられ攪乱かくらんせられたものであること、主観を脱落しなければならないまでに悶えたり冷笑したりしたものであることを発見することが出来る。
西鶴小論 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
かくの如き者がなんと口の先に礼を説こうとも、秩序を説こうとも、道徳を説こうとも、その野卑な言葉、その言葉の暗示の力というものは国民の思想を攪乱かくらんしないでは済まぬ。
政治趣味の涵養 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
それでいて蔬菜が底の方からむらなく攪乱かくらんされるさまはやはり手馴てなれの技倆ぎりょうらしかった。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
しかるに一度ひとたびこの器械的の労力が金に変形するや否や、急に大自在だいじざい神通力じんずうりきを得て、道徳的の労力とどんどん引き換えになる。そうして、勝手次第に精神界が攪乱かくらんされてしまう。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
攪乱かくらんして、本艇が平衡点に吸込まれるのを懸命に阻止することにある。分るかね
宇宙尖兵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
空にはキラキラ白く光る雲の片が漂って、風はガラス戸を鳴らしトタンを鳴らし、ましてや椿つばき、青木などの闊葉を眩ゆく攪乱かくらんするので、まったく動乱的荒っぽさです。春の空気の擾乱です。
静謐な姿勢をとっているが、どこかに兇暴な面影を秘めて、何かを懸命に耐えているような趣がある。正面から間近に御顔をみると悟達の静寂さは少く、攪乱かくらんするような魔術者の面影が濃い。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
……警察に手紙のことを告げようか?——それは陰口を明るみにさらすこととなるだろう。……知らないふうをしていようか? もはやそれもできなかった。彼らの友誼ゆうぎはもう攪乱かくらんされていた。
何物かを触感しようとする肉感的な唇——男性の夜半に眼覚めて攪乱かくらんされて眠れず突然現れた思想を追求しようとするいたましい人間の姿、この激情的な、感激的な、空想的な、偉大な彫刻の中に
バルザックの寝巻姿 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
いつの間にか十本から上の酒を矢継早やつぎばやに腹に入れていた。しきりと思い出される照葉の想念を追いやるごとくにしながら、くくれた顎の似ていることが、彼をけしかけるように彼の心意を攪乱かくらんした。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
足許あしもとから飛行機が飛び出したように、屑屋が、この情にからんだ気流を攪乱かくらんして行って、兵馬が射空砲のように、そのあとを追いかけた時分になって、そろそろと柳の木蔭から歩み出して来たのは
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そう勝手に台所の権利を攪乱かくらんするわけには行きませんから、何んとかうまい案を考えて、その目当てのものを占領せしめてやろうと、店で仕事をしながら考えましたが、ここに一つ名案が浮かんで来たので
そして寄手を攪乱かくらんせしめ、使いを派して、こちらは劉玄徳りゅうげんとくと結託します。玄徳は温良高潔の士、必ず今でも、あなたの苦境は見捨てますまい
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分が、生れて始めて会ったと思うほどの美しい女性から、ただ一人の理解者として、馴々しい信頼を受けたことが、彼の心を攪乱かくらんし、彼の心を有頂天にした。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
紐育ニューヨークウオール街の金権者団体を背景とする新タマニー・ホール一派の手先でありまして、内密にハウス大佐の指揮に属し、国際的の平和攪乱かくらんを請負業と致しております
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
候補者としてこの際立った党人はあらゆる苦肉の計を用いて選挙人の良心と理性とを攪乱かくらんし誘惑しようと試みるであろう。明治の選挙人と大正の選挙人とは大抵同一の人である。
鏡心灯語 抄 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
けれども、戦慄とか恐怖とか雀躍こおどりとかいうような程度の高度の神経細胞の攪乱かくらんを与えられたことはなかった。そこに、この作者のみならず、恐らく一般探偵小説の一歩前進を期待してやまない。
『心理試験』を読む (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
太平の夢はこれらのエンジンの騒音に攪乱かくらんされてしまったのである。
からすうりの花と蛾 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
これよりして東方の平和を攪乱かくらんするにも至るであろう。その結果、支那は非常に困難なる運命に陥る。ここに於てか日本は退守的なるを得ない。あくまで積極的に支那をたすけて立たなければならぬ。
三たび東方の平和を論ず (新字新仮名) / 大隈重信(著)
それらを操って、内部の時務を怠らせ、外部からは、流言や放火やさまざまな不安を起して、攪乱かくらんを計った。武芝のこの逆戦法も成功した。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
太平の夢はこれらのエンジンの騒音に攪乱かくらんされてしまったのである。
烏瓜の花と蛾 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
非凡人主義の役に立たない理由はこれである。一体実行せずに高尚な理屈をいったところでそれが何になる。いうて社会を攪乱かくらんするよりはむしろいわずに実行し易き事を実行した方がいいではないか。
なお、仔細しさいをきいてみると、張横は得意の水戦を用いて、敵の攪乱かくらんに出かけ、かえって敵のはかりにおちて捕われたもの。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この主義に背くということは、支那をしてせっかく日本に頼るところの意を失わしむることになる。これを失えばどうなるかというと、支那の不利益、日本の不本意、平和の攪乱かくらんという結果を生ずる。
東亜の平和を論ず (新字新仮名) / 大隈重信(著)
曹操は、前夜、自己の中軍を攪乱かくらんされた不愉快な思いを、きょうは万倍にもして取り返した。孫権がわずかな将士に守られて、濡須の下流へ落ちて行くと見るや
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今、濮陽城ぼくようじょうは留守の兵しかいません。呂布は黎陽れいようへ行っているからです。即刻、閣下の軍をお進め下さい。わたくしどもは機を計って内応し、城中から攪乱かくらんします。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのごも謀将北畠親房が、さかんに第五列を都へ送って、後方攪乱かくらんじつを上げていた折でもあった。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あるときは、山上の大講堂文珠楼もんじゅろうのあたりまで攪乱かくらんして、山門の皇居をさえおびやかしたことすらある。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところへ、昨夜、内部から裏切って、前線の味方を攪乱かくらんした韓暹かんせん楊奉ようほうの二部隊が、突然、間道を縫って、谷あいの一方にあらわれ、袁術の中軍を側面から衝いた。そのため
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「武蔵とやら、気の毒ながらそちらの計策は破れたぞ。——察するに、何者かに頼まれ、この小柳生城を探りに来たか、或は御城内の攪乱かくらん目論もくろんで来たものに違いあるまい」
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いくら俺たちが暴れ廻ろうたって、俺たちの背後うしろから、軍費や兵器をどしどし廻してくれる黒幕がなくっちゃ、こんな短い年月に、後漢の天下を攪乱かくらんすることはできまいじゃねえか」
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さすが袁紹の帷幕いばく、よほど鬼謀の軍師がいるとみえ、地の底を掘って、日夜、坑道を掘りすすめ、とうとう城中に達して、放火、攪乱かくらん殺戮さつりくの不意討ちをかけると共に、外からも攻めて
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
攪乱かくらんせんとたくらんできたにちがいあるまい。そんな甘手にのる劉岱ではないぞ
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さきに遠州灘の遭難から常陸ひたちへただよいついた北畠親房は、そのご筑波の小田城や関城に拠って、大いに東国を攪乱かくらんしていたが、ことしついに関城も破られたため、またひそかに吉野へ帰って来て
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)