提燈ちやうちん)” の例文
新字:提灯
をりからかしボート桟橋さんばしにはふなばた数知かずしれず提燈ちやうちんげた凉船すゞみぶねもなくともづないてやうとするところらしく、きやく呼込よびこをんなこゑが一そう甲高かんだか
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
此事は、よしやかゝる望を抱いたことが将門にあつたとしても、謀反といふこととは余りに懸離かけはなれて居て、提燈ちやうちんと釣鐘、釣合が取れ無さ過ぎる。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
合羽かつぱ提燈ちやうちんを借りたにしても、大寺源十郎が鐵に襲はれたのは、車坂の中田屋の前をズツと通り過ぎてからだよ。
銭形平次捕物控:167 毒酒 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
こほ手先てさき提燈ちやうちんあたゝめてホツと一息ひといきちからなく四邊あたり見廻みまはまた一息ひといき此處こゝくるまおろしてより三度目さんどめときかね
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
立派な長屋門とを殘して、財産は何時の間にかタバコの煙のやうにして了つたのに比べると、今では提燈ちやうちんと釣鐘の地位が反對になつたやうにも思はれて來た。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
やがて隣村の森のかげから姉たちの提燈ちやうちんがちらちら現れると、私は、おう、と大聲あげて兩手を振つた。
思ひ出 (旧字旧仮名) / 太宰治(著)
文藝欄で東京の「文藝革新會」の提燈ちやうちんを持つてあつて、別に同會の反對する自然主義家のおもなもの三名ばかり——そのうちに田村義雄もあつた——の名を擧げ
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
しかし小僧さんは四斗たるくらゐの大きい提燈ちやうちんを、門ののきばにつるしに来たのでありました。それには報恩講と書かれてありました。今日から報恩講がはじまつたのです。
百姓の足、坊さんの足 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
しかし新らしい人生の見かたや新らしい道徳は与へなかつた。勿論これは芸術家たるロテイには致命傷でもなんでもないのに違ひない。提燈ちやうちんは火さへともせれば、敬意を表して然るべきである。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
われはただ老爺ヂイヤンの張れる黄色かりし提燈ちやうちんを知る。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
馬丁うまかたうばはれ一向に知れざる由うけたまはり氣のどくに存じ彼是と談話だんわ仕つりし中にひまとりおそく參り日くれにならざるうちかへる心故提燈ちやうちんの用意も仕らず歸りは夜に入亥刻頃ゐのこくごろにも相成りしと言ければ大岡殿其方は細川ほそかはの家來と何れにて心やすくなりしや傳吉私し先年新吉原三浦屋みうらやにて心やすく相成りました右源次郎殿げんじらうどのつま
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
出た所で、提燈ちやうちんが一つ、長崎屋の紋の付いたのを持つて、杉之助が先に立つて來たが、途中で紙入を忘れた事を思ひ出して、中田屋杉之助がもう一度長崎屋へ引返した
銭形平次捕物控:167 毒酒 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
ところ/″\にのぼり提燈ちやうちんを立てたらしい穴が、生々なま/\しく殘つてゐて、繩のはしのやうなものも、ちよい/\散らばつてゐるのは、祭があつてから間のないことを思はせた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
さればといふてかへ一横町ひとよこちやうこゝにもあらずいますこさきへといふ提燈ちやうちんして商家しやうか
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
しまつたりと退きて畜生ちくしやうめとはまことみつけのことばなり、ものなればおもからぬかさしらゆき往來ゆきかひおほくはあらぬ片側町かたかはまちうすぐらきに悄然しよんぼりとせし提燈ちやうちんかげかぜにまたゝくも心細こゝろぼそげなる一輛いちりやうくるまあり
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)