掻廻かきまわ)” の例文
別にフライ鍋へ大匙一杯の上等なバターを溶かして右のお米一合ほどを入れてよく掻廻かきまわしながらお米の狐色になるまでいためます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ト日があたってあたたたかそうな、あかる腰障子こししょうじの内に、前刻さっきから静かに水を掻廻かきまわ気勢けはいがして居たが、ばったりといって、下駄げたの音。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
れから大阪湾にいっ掻廻かきまわせば官軍が狼狽するとうような事になって、屹度きっと勝算はありますといって、中々私の云うことを聞かないから
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
土足のまま、どやどやと上がってきた、寝込みをいて来たのである。納戸なんど、押入、床下と、手分けをして掻廻かきまわしにかかる。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
誰にも、手をつけさせなかつた草稿を入れて置く机のわきの藤簍つづらかごを掻廻かきまわしたり、人のところから勝手に詠草えいそうを取り寄せたりして版に彫つた。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
美妙斎が冷淡であった、紅葉が一人で掻廻かきまわしていた乎、どっちか知らぬがどの道『我楽多文庫』には美妙斎の気分が少しも現れていなかったから
「あら、いやだ」とお延はコップの中を掻廻かきまわして、「それじゃ、お俊姉さまのことを、これから涅槃と……」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
二三度両手で邪慳じゃけんに砂を掻廻かきまわしていた、——とすると、それは砂いたずらではなくて、既に胸に匕首を受けた苦しみから、夢中でもがいていたのかも知れない……。
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
あの飲んだくれのために、どのくらい自分の頭脳が掻廻かきまわされ、働きが鈍らされたか知れないと思った。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
暫時しばし、三人は黙した。ケンチャンが白いものを着て、髪の毛にもくしの歯を見せて、すましかえって熱い珈琲コーヒーをはこんで来た。三人はだまって角砂糖を入れて掻廻かきまわした。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
けれども自分達は石屑いしくず小砂利こじゃりの混ってある麦焦むぎこがしの粉を少しばかりわんの中に入れて、それを茶で掻廻かきまわして喫べる位のもので、それも腹一ぱい喰べればいいけれども腹八分目とまではいかない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
葛木は、これさえあれば、何事もない、と自覚したのに、実際無いのを口惜くちおしそうに、も一度名刺入を出して、中を苛立いらだって掻廻かきまわしたが
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
槍を上げて、ぶすぶすっと天井を突いて廻ったり、或者は、床板をがしたり、戸棚という戸棚は蹴破り、そして、槍や太刀で掻廻かきまわしてみる。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お薬味にねぎの細かく切ったのと陳皮ちんぴと海苔の焼いて揉んだのと紅生姜べにしょうがの刻んだのと紫蘇しその実なんぞを添えて食べる時に味噌汁へ入れて掻廻かきまわしてもよし
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
帰るとたらいを出して水をあびる。どぶに糸みみずのウヨウヨ動いているのを見つけて、家の金魚のおみやげだと掻廻かきまわす。邸町やしきまちの昼は静かで、座敷を大きな揚羽蝶あげはちょうが舞いぬけてゆく。
知らないでいる間は格別、一度こういう物が眼に触れた以上は、事の真相を突留めずにいられなかったのである。つと箪笥の引出を開けてみた。針箱も探してみた。櫛箱くしばこかもじまで掻廻かきまわしてみた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
棕櫚箒しゅろぼうきの朽ちたのに、溝泥どぶどろ掻廻かきまわして……また下水の悪い町内でしたからな……そいつを振廻ふりまわわすのが、お流儀でしたな。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その漉した汁を弱い火に掛けて掻廻かきまわしながらのり位の固さになるまで煮詰につめてそこへ少しの酢と塩と砂糖を加減かげんと思うほどに入れてまたしばらく煮詰めます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
味噌を掻廻かきまわしておいて知らん顔をして、それからおわびをして蔵から出してもらった。
つい水の中を掻廻かきまわすと、鰍はみんな驚いて石の下へ隠れてしまいました。
二人の兄弟 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
刀を突っ込んで、闇を掻廻かきまわすと
魚紋 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
砂をつかむ、小砂利を投げる、溝泥どぶどろ掻廻かきまわす、喧嘩けんかはするが誰も味方をするものはない。日が暮れなければ母親は帰らぬから、昼の内は孤児みなしご同様。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
珈琲を煎じる時一人前にその殻を二つか三つも交ぜてよく砕いて掻廻かきまわしますと珈琲のアクがすっかりその殻についてしまってさずに茶碗へいでも黒い粉が出ません。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
勝手に台所を掻廻かきまわした挙句が、やれ、刺身が無いわ、飯が食われぬ、醤油が切れたわ、味噌が無いわで、皿小鉢を病人へ投打ち三昧ざんまい摺鉢すりばちの当り放題。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
附合つけあわせ物には馬鈴薯を湯煮ゆで裏漉うらごしに掛けいも一斤にバター大匙半分、牛乳大匙二杯、塩小匙一杯の割合にて混ぜ火に掛け能く掻廻かきまわして煮たる物を用ゆ。この附合物をマッシポテトという。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
が、なおの事だ。今更ながら、一同のあきれたところを、ひさしまたいでさかしまのぞいてねらつた愚僧だ。つむじ風をどっと吹かせ、白洲しらす砂利じゃりをから/\と掻廻かきまわいて、パツと一斉に灯を消した。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
肉がよく湯だりましたら肉を出して、その湯の中へ塩と胡椒こしょうとバターを加えて米利堅粉の溶いたのを入れてドロドロにして火からおろす前に玉子を入れてツブツブの出来ないようによく掻廻かきまわします。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)