懸想けそう)” の例文
色若衆といっても、これほどのみずみずしい美少年はまたとあるまじと思われるほどのヤマサンに懸想けそうされて、私は困却しきっていた。
死と影 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
妹分のお駒に懸想けそうして、蚯蚓みみずののたくったような手紙を書いて、人の悪いお駒に翻弄されていたことが判ったくらいのものでした。
師直はこの人妻に懸想けそうして、さまざま言い寄ってみたが、いつも柳に風とうけ流され、煩悩悶々ぼんのうもんもんと、やるかたもない想いでいた。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
妻のノブ子に懸想けそうしましたのは確かにこの時に相違ありませんので、この時以来、今日に至るまで引き続いて参りました小生一家の不幸は
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「これだけで無事らしいから御互に豚なんだろう。ハハハハ。——しかし何とも云われない。君があの女に懸想けそうして……」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大夫たゆうげんの恐ろしい懸想けそうとはいっしょにならぬにもせよ、だれも想像することのない苦しみが加えられているのであったから、源氏に持つ反感は大きかった。
源氏物語:25 蛍 (新字新仮名) / 紫式部(著)
秀吉はそれには耳をかさなかったが、切支丹の一婦人に懸想けそうしてその婦人をめかけにすることができなかった時、始めてほんとうに切支丹の強情を憎いと思った。
かねがね亭主の富五郎がひそかに懸想けそうしていることを自分も感づいているお艶の母のおさよなので、ハテ
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それはとにかく、ひでよし公が小谷のおくがたに懸想けそうなされましたのはいつごろからでござりましたか。
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「まずそんなことです。……実は僕、或少女むすめ懸想けそうしたことがあります」と岡本は真面目で語りいだした。
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
その倅は三輪大明神の社家しゃけ、植田丹後守の屋敷に預けられていたお豊に命がけで懸想けそうした男であります。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しながらお嬢様に懸想けそうして、うるさく縁組を申し入れ、お嬢様は、あのような鷲鼻わしばなのお嫁になるくらいなら死んだほうがいいとおっしゃるし、それで、旦那だんな様も、——
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
千之丞はかねて千倉屋の娘に懸想けそうしていて、町人とはいえ相当の家柄の娘であるから、仮親かりおやを作って自分の嫁に貰いたいというようなことを人伝ひとづてに申し込んで来たが
半七捕物帳:33 旅絵師 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
丁度この話の出来事のあった時、いつも女に追い掛けられているポルジイが、珍らしく自分の方から女に懸想けそうしていた。女色じょしょくの趣味は生来かいしている。これは遺伝である。
さればよ殿との聞き給へ。わらわが名は阿駒おこまと呼びて、この天井に棲む鼠にてはべり。またこの猫は烏円うばたまとて、このあたりに棲む無頼猫どらねこなるが。かねてより妾に懸想けそうし、道ならぬたわぶれなせど。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
彼の鍾愛しょうあいする美少年に懸想けそうした上野介が、ひそかにこれをゆずりうけたいといって所望したのをあっさりはねつけたことにふかい意趣がこもっていたということになっているが
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
それもわしとおばばとは、まだわしが、左兵衛府さひょうえふ下人げにんをしておったころからの昔なじみじゃ。おばばが、わしをどう思うたか、それは知らぬ。が、わしはおばばを懸想けそうしていた。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
びっくりして、新吉が、段々怖々こわ/″\ながら細かに読下すと、今夢に見た通り、谷中七面前、下總屋の中働お園に懸想けそうして、無理無体に殺害せつがいして、百両を盗んで逃げ、のち捕方とりかたに手向いして
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
わか世捨人よすてびとな、これ、坊さまも沢山たんとあるではないかいの、まだ/\、死んだ者に信女しんにょや、大姉だいし居士こじなぞいうて、名をつけるならいでござらうが、何で又、其の旅商人たびあきうど婦人おんな懸想けそうしたことを
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ある異人が以前に日本へ来た時、この国の女を見て懸想けそうした。異人はその女をほしいと言ったが、許されなかった。そんなら女の髪の毛を三本だけくれろと言うので、しかたなしに三本与えた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ところが、その家の娘に、清姫という女があって、安珍に懸想けそうした。
京鹿子娘道成寺 (新字新仮名) / 酒井嘉七(著)
「ははあ読めた、懸想けそうしたな!」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
元来、J・I・Cの首領W・ゴンクール氏はずっと前から貴女あなた懸想けそうしていて、無理にも志村氏を殺そうとしているのだ。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
オカミサンに懸想けそうしたとか、酔ってイタズラしたとか、そんな噂でございます。それは無実の罪でございますよ。
『そうだ』と、重くるしげに『——武者所の名に、大きな汚点がつけられた。こともあろうに、人妻に懸想けそうして』
何時いつの頃とも知らぬ。只アーサー大王たいおうの御代とのみ言い伝えたる世に、ブレトンの一士人がブレトンの一女子に懸想けそうした事がある。その頃の恋はあだには出来ぬ。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「吉三郎は相模者だと言ったが、実は下田の者さ。お浜に懸想けそうして江戸へ追っかけて来たが、お浜も満更まんざらでなかったんだろう、何べんも助けようとしたくらいだから」
当人の久次郎どのが汚れた心を持っていたからである。久次郎どのは毎夜かかさず通って来るのは、まことの心からの信心ではない。実はお姫様に懸想けそうしていたのである。
半七捕物帳:26 女行者 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
し、しかるに、黙って聞いておれば、かの鈴川が懸想けそういたしおることを良人おっとの拙者のまえを
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
恋愛至上主義者も私のうちではきまじめな方面しか見せないのも妙齢の娘などがないからなのだ。たいそうにかしずいてみせよう、まだ成っていない貴公子たちの懸想けそうぶりをたんと拝見しよう
源氏物語:22 玉鬘 (新字新仮名) / 紫式部(著)
それだけののぞみに応ずべしとこういう風に談ずるが第一手段いちのてに候なり、昔語むかしがたりにさることはべりき、ここに一条ひとすじくちなわありて、とある武士もののふの妻に懸想けそうなし、かたくなにしょうじ着きて離るべくもなかりしを
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その吉助が十八九の時、三郎治さぶろうじの一人娘のかねと云う女に懸想けそうをした。兼は勿論この下男の恋慕の心などは顧みなかった。のみならず人の悪い朋輩は、早くもそれに気がつくと、いよいよ彼を嘲弄ちょうろうした。
じゅりあの・吉助 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
幸三は尊いミコに懸想けそうしたので、奥の院でヤミヨセに召されて狼にかみ殺され、それでもヨコシマな心が直らないので、現実にああいう悲惨な運命になったと云われている。
公卿殿上人の息女や女房をほしいままに掠めって、おのが妄婦として戯れ狂うのみか、果ては塩冶の妻に懸想けそうして、その夫をほろぼしても、おのれの慾を遂げようと企つる。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それで両家は向う同志だから、朝夕あさゆう往来をする。往来をするうちにその娘が才三に懸想けそう
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
義仲に懸想けそうされて、強奪されて来た妻である。ここへ来てからは泣いてばかり暮していた。——泣くもよしと、雨中の花を見るように眺めていた義仲も、やや、あぐねて来た眼いろである。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「人もあらうに私の男に懸想けそうした。さあ、うするか、よく御覧。」
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
昔、ある男が女に懸想けそうしてしきりに口説いてみるのですが、女がうんと言いません。
文学のふるさと (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
もし余があの銀杏返いちょうがえしに懸想けそうして、身をくだいても逢わんと思う矢先に、今のような一瞥いちべつの別れを、魂消たまぎるまでに、嬉しとも、口惜くちおしとも感じたら、余は必ずこんな意味をこんな詩に作るだろう。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それが当然の成行なりゆきだわえ! だが兆二郎が加賀の廻し者だとはおのれだけの悪推量わるずいりょう、娘の棗に懸想けそうして、それが成らぬところから卑怯ひきょうな作りごとをして、あだをしよう腹だろうが! ば! ばか者奴ッ
増長天王 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
久次郎は行者に懸想けそうしてかれをけがそうとしたというのである。
半七捕物帳:26 女行者 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
とさも懸想けそうしたらしく胸を抱いたが、鼻筋白く打背いて
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
栃尾は三枝子さんにかねて懸想けそうしていたのかも知れないようだ。
「ところがその娘に二人の男が一度に懸想けそうして、あなた」
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
『店へよく買物に来る吉良家の小間づかいで、お粂という愛くるしいのがいる。——それが右衛門七に懸想けそうしているので、罪とはおもったが、大義のため、ゆく末は夫婦にしてやるとあざむいて、り出させたのだ』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『組頭のお娘に、懸想けそういたして居ろうが』
御鷹 (新字新仮名) / 吉川英治(著)