御出おい)” の例文
こがらしの吹く町のかどには、青銅からかねのお前にまたがつた、やはり青銅からかねの宮殿下が、寒むさうな往来わうらい老若男女らうにやくなんによを、揚々と見おろして御出おいでになる。
動物園 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
安政五年という年は如何いかなる年であるか、この年は「タウンセント・ハリス」、即ち此処ここにも亜米利加アメリカ合衆国の代表者が御出おいでになるが
その声の主は「こんな時に、こんな所に先生が御出おいでになろうとは夢にも思いませんでした。私は先生の随分熱心な愛読者なんで御座います」
I駅の一夜 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
その時母は嫂に向って、「もう好い加減に一郎を起して、いっしょにあっちへ御出おいで。妾達わたしたちむこうへ行って待っているから」
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
時々日曜学校へでも御出おいでなさいと言うから、此次の日曜に行く約束をした。今度はピストルなんか持って行くまい。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
また金冠塚きんかんづかのすぐ西にしつかを、いまから二三年前にさんねんぜん、スヱーデンの皇太子殿下こうたいしでんか御出おいでになつたときつてみました。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
朝飯の時勘定をこしらえるようにと竹さんに云い付ける。こんどはいつ御出おいでかと例の幡多訛はたなまりで問う。
高知がえり (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ある日小山田静子から私の宿へ電話がかかって、大変心配なことが出来たから、一度御出おいでが願い度い。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「それが、どうしても先生に、所外まで御出おいで願いたいということなんで、実は、いろいろ入組いりくんだ事情もございまして、所内へ入るのはいやだと仰有おっしゃいますのですが……」
国際殺人団の崩壊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
御前おまへのやうなつまつたのはとてに御出おいあそばしました、なんといふこと御座ござりませう一ねん三百六十五にちものいふことく、稀々たま/\はれるは此樣このやうなさけないことばをかけられて
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
同時に先生が御郷里の松山へ帰って御出おいでだとは思いもそめなかった事であります。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
南の国の多留美たるみという湖の底に沈んでおりますが、その中で宝蛇は、貴方方四人が一人の藍丸国王となって、初めてこの国に御出おいで遊ばしたその最初の御慰おんなぐさみに、世にも美しい怜悧りこう
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
『ようこそ御出おいでくだされた。』と老妖精ろうようせい笑顔えがおわたくしむかえてくれました。
すると枕山先生は早速車で寺へ御出おいでになりまして、とんでもない事だ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
又重ねて手紙を寄越して、老母と姉が東京に出たいと云うが上京してもよろしかろうかといって来たから、颯々さっさつ御出おいでなさい、私方に嫌疑けんぎもなんにもない、公然と出て御出おいでなさいと返辞へんじをすると
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「葦を取って御出おいでなすったね。それをどうするのですか」
以手紙申上てがみをもってもうしあげしかれば先刻大津銚子屋に於て御面会の折柄おりから何等の遺恨候てか満座の中にて存外の御過言ごかごん其の儘には捨置難く依之これによって明晩いぬ中刻ちゅうこく小原山に於て再応さいおう承わりたく候間く/\御覚悟候て右時刻無遅滞ちたいなく御出おい有之度これありたく此段申進もうししんじ候御返答可有之これあるべく候也
「手前の店ではまだ一度も、仙人なぞの口入れは引き受けた事はありませんから、どうかほかへ御出おいでなすって下さい。」
仙人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
これは私の理想……ここには哲学者も法律家もなかなかえらい先生方が御出おいでになっている前で理想を御話しするのも恥かしいようなことではあるが
「那古井の嬢様にも二人の男がたたりました。一人は嬢様が京都へ修行に出て御出おいでの頃御逢おあいなさったので、一人はここの城下で随一の物持ちで御座んす」
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
エエ昨日ですわ。そしてね、『一』と大きく書いた下に、急にお話したいことあり、明日必ず御出おいで下さい。とあなたの手で書いてありましたわ。で、妙子さんの御見舞を
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
とても一月や二月で帰って来る気遣いはなく、今のには勿論もちろん合いませんでしたから、仕方なしに宮中のお抱えの青眼先生の処へ使いを立てて、大急ぎで御出おいで下さるようにと頼みました。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
そこで日本人は敵に取って不足はない、何時いつでも御相手になろうという。好んで敵にはしないが、御出おいでなさるなら決して大敵を見て退くような臆病な者でない。
吾人の文明運動 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
なるほどその時の俊寛様は、髪も延びて御出おいでになれば、色も日に焼けていらっしゃいましたが、そのほかは昔に変らない、——いや、変らないどころではありません。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「その美人の顔は覚えて御出おいでですか」と余に取ってはすこぶる重大な質問をかけて見た。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
恋しい御方の御出おいでをば。御待ち申しておりまする。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
その時に此処ここ御出おいでになっておる鳩山はとやま和夫かずお〕君その他、その時分の矢来倶楽部やらいくらぶその他の御方が
〔憲政本党〕総理退任の辞 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
「今西君。てい君にそう云ってくれ給え。今夜はどうか私の代りに、東京へ御出おいでを願いますと。」
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
先生こういう事を覚えて御出おいでですか、私は下駄を穿いて歩いてこうこうだったと御話したら、杉浦さんは、いやそれはどうも大変な違いだ、私は下駄を穿いて学校を歩くことは大賛成である
模倣と独立 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
年内に江原えばら素六そろく〕先生、寺尾てらおとおる〕先生、その他の諸君が御出おいで下すって、今日の会のこと、同時にこの会に於て会長に推薦するから承諾しろ、ということのご相談にあずかって
平和事業の将来 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
「心配をおしでない。私たちはどうなっても、お前さえ仕合せになれるのなら、それより結構なことはないのだからね。大王が何とおっしゃっても、言いたくないことは黙って御出おいで」
杜子春 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「死んで御出おいで」と那美さんが再び云う。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「心配をおしでない。私たちはどうなつても、お前さへ仕合せになれるのなら、それより結構なことはないのだからね。大王が何とおつしやつても、言ひたくないことは黙つて御出おいで。」
杜子春 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
なかなかひどい目に遭わせる。第一諸君がナタールへ御出おいでになると、立派な学問をして充分なる金を持っている人が、商売のために行くと、まず第一に試験をする。学術の試験をする。
平和事業の将来 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
ところがそれならばなぜ文部省がしないかというに、ここに文部大臣も御出おいでだが、文部省でそう何から何まで出来るものではない。それで時々国家も病気してどうかすると一方に走る。
此処ここにも新聞記者が沢山たくさん御出おいでであるが、新聞記者は早く既に私は総理を辞するだろうという予言をされた。新聞記者は無遠慮に命令をやる。しかし私は人の命令を聞くような男でない。頑固である。
〔憲政本党〕総理退任の辞 (新字新仮名) / 大隈重信(著)