引越ひっこ)” の例文
どこへ引越ひっこされる、と聞きましたら、(引越すんじゃない、夜遁よにげだい。)と怒鳴ります仕誼しぎで、一向その行先も分りませんが。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「また引越ひっこしをされたようですが、今度は、さびしいところらしいですね」このように、誰かが私達に聞いてくれるとすると
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
「気楽も、気楽でないも、世の中は気の持ちよう一つでどうでもなります。のみの国がいやになったって、の国へ引越ひっこしちゃ、なんにもなりません」
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さま/″\の評判が立ってちり/″\人がほか引起ひっこしてしまうから、白翁堂も薄気味悪くや思いけん、此処こゝ引払ひきはらって、神田旅籠町かんだはたごちょう辺へ引越ひっこしました。
ソレどころではない、荷物をからげて田舎に引越ひっこすとうような者ばかり、手まわしのい家ではかまど銅壺どうこまではずして仕舞しまって、自分は土竈どべっついこしらえて飯をたいて居る者もある。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
そんな風評うわさみみにするわたくしとしては、これまでの修行場しゅぎょうば引越ひっこしとはちがって、なんとなくがかり……幾分いくぶん輿入こしいまえ花嫁はなよめさんの気持きもち、とったようなところがあるのでした。
別館の方への私の引越ひっこし、(今まで私の一人ひとりで暮らしていた、古いはなれが修繕しゅうぜんされ始めるので——)その次ぎの日の、その少女の父の出発、それからほかにはまだ一人も滞在客たいざいきゃくのないそんな別館での
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
さあ、引越ひっこしだと主人が命令をすると、家中の道具が、自分で動きだして、移転先いてんさきの家まで歩いていくのだ。運搬用うんぱんようのトラックなんか不用だ。しかしそのかわり、気味がわるいといったらないのだ。
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
万年町の縁の下へ引越ひっこすにも、尨犬むくいぬわたりをつけんことにゃあなりませぬ。それが早や出来ませぬ仕誼しぎ、一刻も猶予ならぬ立退たちのけでござりましょう。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私はこうした不安をいだいて大学を卒業し、同じ不安を連れて松山から熊本へ引越ひっこし、また同様の不安を胸の底にたたんでついに外国までわたったのであります。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あちらの方はあの団子坂の方から染井そめい王子おうじへ行く人で人通りも有りますし……それに店賃たなちんも安いと申すことでございますから、只今では白山へ引越ひっこしまして
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ついでながらいっ奇談を語りましょう。新銭座しんせんざ入塾から三田みた引越ひっこし、屋敷地の広さは三十倍にもなり、建物の広大な事も新旧くらべものにならぬ。新塾の教場すなわち御殿の廊下などは九尺巾きゅうしゃくはばもある。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それがよくわからないばかりに、兎角とかく人間にんげんはわがままたり、慢心まんしんたりして、んだ過失あやまちをしでかすことにもなりますので……。これはこちらの世界せかい引越ひっこしてると、だんだんわかってまいります。
それから己が色々と法螺ほらを吹いて近所の者を怖がらせ、皆あちこちへ引越ひっこしたをいしおにして、己もまたおみねを連れ、百両の金をつかんで此の土地へ引込ひっこんで今の身の上
その時に私はしば新銭座しんせんざに屋敷が買ってあったから引越ひっこさなければならぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
が、それは地上ちじょう人間界にんげんかいのことで、こちらの世界せかいいたって静謐しずかなものじゃ。わし一人ひとりでそなたをあのおみや案内あんないすればそれでことむので……。まァこれまでの修行場しゅぎょうば引越ひっこしと格別かくべつ相違そういもない……。
貴方なら貰いたいと云って、江戸屋の半治さんという人を掛合におんなすったら、もう此方こなたへ御縁組になってお引越ひっこしになったと聞き、仕方がないと云ってそれりになって
うやって同じ長屋にいれば、節句銭せっくせんでもなんでも同じにして居ります、お前さんの所が浪人様でも、引越ひっこして来た時は蕎麦そばは七つは配りゃアしない、矢張やっぱり二つしか配りはしないじゃないか
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
女房おみねと栗橋へ引越ひっこし、幽霊から貰った百両あればずしめたと、懇意の馬方久藏きゅうぞうを頼み、此の頃は諸式が安いから二十両で立派なうちを買取り、五十両を資本もとでおろ荒物見世あらものみせを開きまして
駒形へ世帯を持たせてったに、なんじ友之助に意地をつけ、文治郎に無沙汰で銀座三丁目へ引越ひっこし、あまつさえ蟠龍軒の襟元に付き心中までしようと思った友之助を袖にして、斯様かような非道なことをしたな
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)