小諸こもろ)” の例文
駅へついてみて、私は長野か小諸こもろか、どこかあの辺を通過してゐる夜中よなかに、姉は彼女の七十年の生涯しやうがいに終りを告げたことを知つた。
町の踊り場 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
小諸こもろ辺の地理にも委敷くはしい様子から押して考へると、何時いつ何処で瀬川の家の話を聞かまいものでもなし、広いやうで狭い世間の悲しさ
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
そんななかで、五郎は、もと小諸こもろで藝者に出てゐて、二年ほど前からすこし體をこはして東京に歸つてゐたおしげといふ女を家内にした。
ふるさとびと (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
こうして、六月にはいると、住居の手入れもあらまし目鼻がつき、簡単な家具食器類を運びこんで、そこで小諸こもろの療養所から小萩を迎えた。
光は影を (新字新仮名) / 岸田国士(著)
騎馬、徒士かち、あわせて四十人ほどの主従は、この日、小諸こもろ附近から小県の国府(上田近傍)あたりまで、道を急いでいた。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
藤村はそれからやがて小諸こもろへ行くことにきまり、その仕度したくをしていた時分かとおもう。鶴見は俳人の谷活東たにかっとうと一しょに新花町を訪ねたことがある。
同行なほ七八人、小諸こもろ町では驛を出ると直ぐ島崎さんの「小諸なる古城のほとり」の長詩で名高い懷古園に入つた。
みなかみ紀行 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
信州小諸こもろ「古城のほとり」なる小諸の塾の若い教師として藤村が赴任した内的な理由は、そこにあったと思える。
藤村の文学にうつる自然 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
この日の降灰は風向の北がかっていたために御代田みよた小諸こもろ方面に降ったそうで、これは全く珍しいことであった。
小爆発二件 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そして、眼下にいきなりひらけたのは松原湖から小諸こもろの方へのつらなる平原であった。二千数百メートルの高さから、脚下に信州の東西両側の風景がみられた。
げん明治四十一年頃めいじしじゆういちねんごろからはじまつた活動かつどうおいては鎔岩ようがん西方せいほう數十町すうじつちよう距離きよりにまでばし、小諸こもろからの登山口とざんぐち七合目しちごうめにある火山觀測所かざんかんそくじよにまでたつしたこともある。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
シャンシャンと手綱たづなの鈴が鳴ってです。小諸こもろ………出て見いりゃ、となります。小諸節ともいいます。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
九月十日 九月四日、信州小諸こもろに移住。「奥の細道」第二回演能の由申来りたる桜間金太郎に寄す。
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
そこで善光寺道を小諸こもろへ続く原っぱで、米友がドッカと路傍の草の上に坐り込んでしまいました。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この年安政四年丁巳の秋、大沼枕山は信州の小布施おぶせ松代まつしろ小諸こもろの各地を遊歴し善光寺に中秋の月を賞した。枕山は小布施の儒者高井鴻山たかいこうざんと以前より交遊があったらしい。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
道中師の伊豆屋初蔵(菊五郎)が出入りの信濃屋の娘お夏(岩井松乃助)を信州小諸こもろへ送ってゆく途中、浅間の噴火に出逢うという筋で、二幕目に噴火の現場をみせていたが
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
やまやという感心もせぬ旅宿に昼餐ちゅうさんしたため、白馬山におくられ、犀川よぎり、小諸こもろのあたり浅間あさま山をかず眺め、八ヶ岳、立科たてしな山をそれよと指し、落葉松からまつの赤きに興じ、碓氷うすいもこゆれば
雪の武石峠 (新字新仮名) / 別所梅之助(著)
甲州には武田家が威をふるっていた。その頃金兵衛という商人があった。いわゆる今日のブローカーであった。永禄えいろく四年の夏のことであったが、小諸こもろの町へ出ようとして、四阿あずま山の峠へ差しかかった。
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
小諸こもろ出てみよ浅間——。
沓掛時次郎 三幕十場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
小諸こもろなる古城のほとり
山を想ふ (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
木曾福島きそふくしまの姉の家から東京のほうへ帰って行く時のことでした。わたしはその途中で信州小諸こもろに木村先生の住むことを思い出しました。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「ええ、それが実は、小諸こもろのほうの取引先に、ちと藍草あいぐさけがたまりましたので、信心やら商用やら」
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
僕たちは朝はやく小諸こもろまで往き、そこから八つが岳の裾野を斜に横切るガソリン・カアに乗り込んだ。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
上田小諸こもろより追々代官郡奉行が出て来て、野郎を貰いに来た。こいつは小諸の牢に二百日ばかりいたが、或る晩牢抜けをして、追分宿へ来て、女郎屋へ金をねだり、一両取って帰る道だと言った。
秋晴の名残の小諸こもろ杖ついて
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
彼は何とも自身の位置を説明ときあかしようが無くて、以前に仙台や小諸こもろへ行ったと同じ心持で巴里パリの方へ出掛けて行くというにとどめて置いた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
村には医者がいなかったので、小諸こもろの町からでもぼうかと云うのを固辞して、明はただ自分に残された力だけで病苦と闘っていた。苦しそうな熱にもよく耐えた。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
小諸こもろに近い山里の郷士の子である。だから城下へ出て来る時など、殊に身を質素にしていた。粗末な木綿の着物に木綿のはかま——どこと云って派手気はでけのない田舎いなかびた青年だった。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小諸こもろ、山城館。
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
小諸こもろ仙台せんだいのような土地がらともちがい、教育の機関というものがそうそろっていませんし、語るに友もすくないようなところですから
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「イヤ大丈夫。実は小諸こもろ立場たてばで念入りに聞いておいたことがある。ちょうど、きのうの朝立ちで、それらしい二人づれが、間違いなくこの街道へ折れたという問屋場といやばの話であった」
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夏には學生たちを誘つて小諸こもろへ酒をのみにいつたり、冬は冬で、獵に夢中になり、ジャックといふ犬をつれて出たまま、何處へ獵にいくのか、二日も三日も歸つて來ないことがあつた。
ふるさとびと (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
上田の停車場ステーションで別れてから以来このかた小諸こもろ、岩村田、志賀、野沢、臼田、其他到るところに蓮太郎がくはしい社会研究を発表したこと
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
また、信州小諸こもろの、大久保七郎右衛門忠世を召還しょうかんして
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その時がたしか君に取っての初旅であったと覚えている。私は信州の小諸こもろで家を持つように成ってから、二夏ほどあの山の上で妻と共に君を迎えた。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
聞くところによると、小諸こもろ牧野遠江守まきのとおとうみのかみの御人数が追分おいわけの方であの仲間を召しりの節に、馬士まごが三百両からの包みがねを拾ったと申すことであるぞ。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
わずかに野尻のじり泊まり、落合泊まりで上京する信州小諸こもろ城主牧野遠江守とおとうみのかみの一行をこの馬籠峠の上に迎えたに過ぎない。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
長い冬のために野菜をたくわえるころが来ますと、その大根を洗ってたくあんにつけるしたくをするのが、小諸こもろへんでの年中行事の一つになっています。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
実際私が小諸こもろに行って、かわいた旅人のように山を望んだ朝から、あの白雪の残った遠い山々——浅間、牙歯ぎっぱのような山続き、陰影の多い谷々、古い崩壊の跡
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
たゞ小諸こもろの穢多町の『おかしら』であつたといふことは、誰一人として知るものが無かつたのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
八つが岳のすそから甲州へ下り、甲府へ出、それから諏訪すわへ廻って、そこで私達を待受けていた理学士、水彩画家B君、その他の同僚とも一緒に成って、和田の方から小諸こもろへ戻って来た。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
今でこそ私もこんなに肥ってはおりますものの、その時分はやせぎすな小作りな女でした。ですから、隣の大工さんの御世話で小諸こもろへ奉公に出ました時は、人様が十七に見て下さいました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あいつが諏訪すわにも、小諸こもろにも、木曾福島にも響いて来てると思うんです。そこへ東山道軍の執事からあの通知でしょう、こりゃ江戸のかたきを、飛んだところで打つようなことが起こって来た。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
七年の間、私は田舎いなか教師として小諸こもろに留まって、山の生活をながめ暮した。
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)