小暗をぐら)” の例文
夫婦ふうふはこれに刎起はねおきたが、左右さいうから民子たみこかこつて、三人さんにんむつそゝぐと、小暗をぐらかたうづくまつたのは、なにものかこれたゞかりなのである。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
が、小暗をぐらい村の小径こみちを離れて、広々とした耕野の道へ出た時、たうとう我慢がしきれなくなつたといつたやうに、誰かが、前の方で叫んだ。
野の哄笑 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
さる程にわれ、今朝の昧爽まだきより心地何となく清々すが/\しきを覚えつ。小暗をぐらきまゝに何心なく方丈の窓を押し開き見るに、思はずあつと声を立てぬ。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
土手どてあがつた時には葉桜はざくらのかげは小暗をぐらく水をへだてた人家じんかにはが見えた。吹きはらふ河風かはかぜさくら病葉わくらばがはら/\散る。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
沸くが如きその心のさわがしさには似で、小暗をぐらき空に満てる雨声うせいを破りて、三面の盤の鳴る石は断続してはなはだ幽なり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
路は昼間小僮せうどうに案内して貰つて知つて居るから別段甚しく迷ひもせずに、やがて緑樹の欝蒼こんもりと生ひ茂つた、月の光の満足にさしとほらぬ、少しく小暗をぐらい阪道へとかゝつて来た。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
一道の白き水烟は、小暗をぐらき林木を穿ちて逆立し、その末は青き空氣の中に散じ、日光はこれに觸れて彩虹を現じ出せり。側なる小瀑カスカテルラの上なる岩窟には、一群の鴿はとありて巣を營みたり。
小暗をぐらさに慰め人と添へかしな
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
燈火あかり小暗をぐらき夜の汽車の窓にもてあそ
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
灯かげとどかぬ小暗をぐらさに
やがて小暗をぐらよる
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
小暗をぐらもり巖角いはかど
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
ふぢ山吹やまぶきの花早くも散りて、新樹のかげ忽ち小暗をぐらく、さかり久しき躑躅つゝじの花の色も稍うつろひ行く時、松のみどりの長くのびて、金色こんじきの花粉風きたれば烟の如く飛びまがふ。
来青花 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
片側町かたかはまちなる坂町さかまち軒並のきなみとざして、何処いづこ隙洩すきも火影ひかげも見えず、旧砲兵営の外柵がいさく生茂おひしげ群松むらまつ颯々さつさつの響をして、その下道したみち小暗をぐらき空に五位鷺ごいさぎ魂切たまきる声消えて、夜色愁ふるが如く
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
しげれるなかよりめて、小暗をぐらきわたり蚊柱かばしらいへなきところてり。たもとすゞしきふかみどりの樹蔭こかげには、あはれちひさきものどもうちれてものひかはすわと、それも風情ふぜいかな。
森の紫陽花 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
小暗をぐらきかなしみの中に
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
小暗をぐらかげかさなれば
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)