小徑こみち)” の例文
新字:小径
「そんぢや、わし蜀黍もろこしかくしてとこ見出めつけあんすから、屹度きつとんにきまつてんだから」といふこゑあとにしてはたけ小徑こみちをうねりつゝつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「私、こんなにおそく、この寂しい小徑こみちにあなたをお殘ししては置けない氣がします、あなたが馬にお乘りになれるのを見るまでは。」
同月どうげつ二十八にちには、幻翁げんおう玄子げんしとの三にん出掛でかけた。今日けふ馬籠方まごめがた街道かいだうひだりまがつた小徑こみち左手ひだりてで、地主ぢぬしことなるのである。
そして、それに深く疲れる時いつも頭を休めに行つたのは、家から寂しい草原くさはら小徑こみちを五六町辿たどる海岸の砂丘さきうの上へであつた。
処女作の思い出 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
あぜを渡り、小徑こみちを拔けて、少しでも近い方を行くのであるが、其の煑賣屋の前だけは、どうしても通らなければならなかつた。
石川五右衛門の生立 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
庭はさして廣いと云ふではないが、歩むだけの小徑こみちを殘して、一面に竹を植ゑ、彼方此方かなたこなたに大きな海岸の巖石を据ゑ立てゝ、其のそばには陶器の腰掛を竝べた。
新帰朝者日記 拾遺 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
洗身場だなと思つて傍を見ると、敷石路から少し下へれる小徑こみちがついてゐる。巨大な芋葉と羊齒とを透かしてチラと裸體の影を見たやうに思つた時、鋭い嬌聲が響いた。
傳染病研究所の病室の裏手で、だら/\と坂に成つてる林の中の小徑こみちを提灯をつけた小使に連れられて降りて行くと、解剖室の隣の死亡室におしづさんの遺骸が安置してありました。
「青白き夢」序 (旧字旧仮名) / 森田草平(著)
すめらぎの道ただ一つこをおきてあだ小徑こみちによらめやも人 (平田篤胤)
愛国歌小観 (旧字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
那樣そんなでもりません、にはにはもう小徑こみち出來できてゐます。』
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
小徑こみちを、(さなり薔薇のこの通ひ路、)
独絃哀歌 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
花の小徑こみち
歌時計:童謡集 (旧字旧仮名) / 水谷まさる(著)
さういふ伴侶なかまことをんな人目ひとめすくな黄昏たそがれ小徑こみちにつやゝかな青物あをものるとつひした料簡れうけんからそれを拗切ちぎつて前垂まへだれかくしてることがある。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
とう/\陽ののぼる迄私は耕地や、生籬いけがき小徑こみちの縁を進んで行つた。爽やかな夏の朝だつたと思ふ。家を出るときに穿いた靴は直ぐに露に濡れた。
同月どうげつ二十三にちにはげんぼうほか玄川子げんせんしくはへて四にんつた。今度こんどは、小徑こみち左方さはう緩斜面くわんしやめん芋畑いもばたけである。
文吾(五右衞門の幼名)は、唯一人畦の小徑こみちを急いでゐた。山國の秋の風は、冬のやうに冷たくて、崖の下の水車に通ふ筧には、槍の身のやうな氷柱つらゝが出來さうであつた。
石川五右衛門の生立 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
季子は汁粉屋にゐた時の大膽不敵な覺悟に似ず、俄に歩調を早め、やがて道端のポストを目當に、逃るやうにとある小徑こみちへ曲らうとした。男はぐつと身近に寄り添つて來て
或夜 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
そして、小徑こみちの草の葉蔭には名も知らぬ秋のむしがかぼそいこゑいてゐた。
処女作の思い出 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
「えゝから、よきげめさせろ」勘次かんじはおつぎをせいした。三にん他人ひといてない闇夜やみよ小徑こみちうして自分じぶんにはもどつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
それは根方地ねがたぢで、街道かいだうから南面なんめんし、右手みぎて小徑こみちがある、それをまがつてから、また右手みぎてはた目的地もくてきちだ。
昨夜花咲き亂れて赤らんでゐた小徑こみちは、今日は足跡もない雪で埋もれ、十二時間前には熱帶の樹立のやうに繁つてかぐはしかつた森は、今は冬寒い諾威ノールエーの松の森のやうに散り敷き、衰へて