けん)” の例文
また、内裏から御供してきた女房たちも、一の車、二の車、三の車と、それぞれの簾から匂いこぼれて、末の廂の間にけんを競うた。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
丁度同時に硯友社けんゆうしゃの『我楽多文庫がらくたぶんこ』が創刊された。紅葉こうようさざなみ思案しあんけんを競う中にも美妙の「情詩人」が一頭いっとうぬきんでて評判となった。
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
さへぎるはつきしたがひてゑんいよ/\ゑんならんとする雨後春山うごしゆんざんはなかほばせけんます/\けんならんとする三五ちうつきまゆいと容姿ようしばかりなり
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
百花けんを競ふ、之も亦偶然にあらず、自然は意味なきに似て大なる意味を有せり、一国民の消長窮通を言ふ時に於て、吾人は深く此理を感ぜずんばあらず。
国民と思想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
左手は見るも恐ろしいガレが続いて、其処には高山植物が干からびたような岩間にけんを競うて咲き乱れていた。
大井川奥山の話 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
洗練に洗練を重ね、一點のしみも留めない女の清々しさ、恐らく、そのあらゆる分泌物が馥郁ふくいくとして匂ひ、踏む足の下から、百花けんを競つて咲き亂れることでせう。
それと同時にこれも売出しの若手に越子こしこは藤の花、やはり男髷の小土佐ことさは桃の花と呼ばれ、互にけんを競い人気を争った。学生の仲間にも贔屓ひいきがつくる各党派があった。
竹本綾之助 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
一肌一容いつきいちよう、態ヲ尽シけんヲ極メ、ゆるク立チ遠ク視テ幸ヒヲ望ム。まみユルコトヲ得ザルモノ三十六年……
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
虎もひょうもごろりと横になって寝ている。孔雀くじゃくけんを競う宮女きゅうじょのように羽根をひろげて風の重みを受けておどおどしている。象は退屈そうに大きな鼻をぶらぶら振っている。
動物園の一夜 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
三人五人と目の前へつぼみの花がけんを競ってむらがりたかってまいりましたら、よほど肝のすわっている者であっても、ぽうッといくらか気が遠くなるだろうと思われるのに
駕籠かごはいま、秋元但馬守あきもとたじまのかみ練塀ねりべい沿って、はすはなけんきそった不忍池畔しのばずちはんへと差掛さしかかっていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
季節は六月ではあったけれども、山深い国の習いとして、春の花から夏の花から、一時に咲いてけんを競っていた。木芙蓉の花が咲いているかと思うと、九輪草の花が咲いていた。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
背後の女神彫像とけんを競わんばかり、神々しいまでの美しさに見えました。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
パンダヌス(小笠原島へん章魚たこ)その他椰子類やしるい等はその主なるものにて、これを点綴てんせつせる各種の珍花名木は常にけんを競い美を闘わし、一度凋落ちょうらくすれば他花に換え、四時しじの美観断ゆる事なし。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
遮莫さもあらばあれ這個しゃこの風流も梅の清楚なるを愛すればのこと、桜の麗にしてけんなるに至ては人これに酔狂すれどもまた即興の句にも及ばず、上野の彼岸桜に始まって、やがて心も向島に幾日の賑いを見せ
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)
蛍爝けいしゃく けんを争はんと欲するなり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
いずれにせよ、彫梁ちょうりょうの美、華棟かとうけん碧瓦へきがさん金磚きんせんの麗、目もあやなすばかりである。豪奢雄大、この世にたとえるものもない。
三国志:12 篇外余録 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
洗練に洗練を重ね、一点のしみもとどめない女の清々すがすがしさ、恐らく、そのあらゆる分泌物が馥郁ふくいくとして匂い、踏む足の下から、百花けんを競って咲き乱れることでしょう。
此処は白馬浅葱、白馬扇しろうまおうぎ白山小桜はくさんこざくら信濃金梅しなのきんばい高根薔薇たかねばら黄花石楠きばなしゃくなげ、黒百合、色丹草しこたんそうなど、素人目にも美しい花がそれこそけんを競い麗を闘わし、立派なお花畑である。
白馬岳 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
春の花がけんを競っている。随分たくさん花木がある。いかにも風流児の住みそうな境地だ。だがそれにしてもこの屋敷は、何と荒れているのだろう。廃屋あばらやと云っても云い過ぎではない。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ついて行くと、正続院の一庵の裏庭で、艶なる牡丹十数株が、薄暮の中に、見る人もなくけんきそっているのだった。
随筆 私本太平記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それにせよ、花卉かきの高い香いと花樹のけんを主としたあんな広大な花園を、ぼくは日本の中では他に見たことがない。
けんきそわんとしているが——その好色なる彼をしていわせても、ほんとの、心の底を、男性の本音ほんねとしていわせたら、きっと、こう自白するにちがいない。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
無言のうちに、けんきそっているようなお菊とお喜代と、なにかと、斧四郎の身のまわりを、整えていた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
前に申した女たちは、そのけんなる美なる楚々そそなること、各〻おのおのおもむきはちがっても、すべてみな一様いちように肉愛の花々だ。この秀吉は、浮気な蝶々。蝶と花との関係にすぎぬ。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
前栽せんざいの牡丹畑には、見事な花の王がけんを競って咲いている——五月にちかいまばゆい陽ざしは、書院のあたらしい吉野杉の天井へ、いっぱいな明るさをね返していた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「もういうまい。……じゃあかねて話してある通り、また近いうちに、董卓とうたくを邸へ招くから、おまえはけんをこらして、その日には歌舞吹弾もし、董卓の機嫌もとってくれよ」
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
肉眼に見えぬ夜の空も、絶えず動いているものとみえまして、麓あたりでは漆壺うるしつぼのようだったのが、いつか、月こそないが冴え渡って、一粒一粒に星の光がけんを競っているようです。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
で、蘭丸はなお、他の少年とけんを競い、まげ、小袖、すべて童形どうぎょうのままにしていた。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)