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喜多八
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きたはち
諸君聞かずや、むかし
彌次郎と
喜多八が、さもしい
旅に、
今くひし
蕎麥は
富士ほど
山盛にすこし
心も
浮島がはら。
其の
山もりに
大根おろし。
時に——
今渡つた
橋である——
私は
土産に
繪葉がきを
貰つて、
此の
寫眞を
視て、
十綱橋とあるのを、
喜多八以來の
早合點で、
十網橋だと
思つた。
で、たゞ
匁で
連出す
算段。あゝ、
紳士、
客人には、あるまじき
不料簡を、うまれながらにして
喜多八の
性をうけたしがなさに、
忝えと、
安敵のやうな
笑を
漏らした。
戸だなを
落した
喜多八といふ
身ではひだすと、「あの
方、ね、
友禪のふろ
敷包を。……かうやつて、
少し
斜にうつむき
加減に、」とおなじ
容子で、ひぢへ
扇子の、
扇子はなしに
羨しさうに
視めながら、
喜多八は
曠野へ
落ちた
團栗で、とぼんとして
立つて
居た。
と
最う
恁う
成れば
度胸を
据ゑて、
洒落れて
乘る。……
室はいづれも、
舞臺のない、
大入の
劇場ぐらゐに
籠んで
居たが、
幸ひに、
喜多八懷中も
輕ければ、
身も
輕い。
荷物はなし、お
剩に
洋杖が
細い。
喜多八の懐中、これにきたなくもうしろを見せて