周旋しゅうせん)” の例文
そこで稲村は大村氏にある土地を周旋しゅうせんすることになり、大正十二年九月一日の朝、登記を済ますのだといって大村氏を誘いだしました。
墓地の殺人 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
「当り前だ。居てくれと手を合せたって、居るものか。一体そんな云いがかりを云うような所へ周旋しゅうせんする君からしてが不埒ふらちだ」
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ヴィールの友達は彼を周旋しゅうせんしてドーバーの税関に勤めるようにしたので、ヴィール夫人とバーグレーヴ夫人との交通は自然だんだんに疎遠になった。
彼ら颺言ようげんして曰く、「むなくんば同志三十余人を糾合きゅうごうし、毛利家参府の駕を伏見に要し、三条、大原の諸公卿と周旋しゅうせんし、京師に入りて事をはからん」
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
小説の某大家は柱によって、悲しそうな顔をしている。生前最も親しかった某画家は羽織を雨にめちゃめちゃにして、あっちこっちと周旋しゅうせんして歩いている。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
同窓の友グロスマンの周旋しゅうせんで特許局の技師となって、そこに一九〇二年から一九〇九年まで勤めていた。
アインシュタイン (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
仙石左京之亮も、一藩の君主がそれまでに執心なら、むざと彼を旅立たすのでなかったにと後悔したが、後日に周旋しゅうせんを約して、ひとまず溝口伊予を帰したのである。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
旧藩地に私立の学校をもうくるは余輩よはいの多年企望きぼうするところにして、すでに中津にも旧知事の分禄ぶんろくと旧官員の周旋しゅうせんとによりて一校を立て、その仕組、もとより貧小なれども
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
『俺に周旋しゅうせんしろというのか』、『まあそうだ』、『家は貧乏か』、『信州の土百姓だ』、『俺たちといっしょに働く気か』、『それはまだ分らない』、『その答はよし』
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
わが娘の嫁入りの周旋しゅうせん役、そして自分への遺族手当の継続の鍵を握っているお店の大番頭、その嘉六が今度のわたくしの事件からび/\わたくしの家へ出入りするからは
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
私はあくまでもそれを叱りつけ、看護婦会で周旋しゅうせんをしてくれる筈の乳母の来るのを待った。
童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
僕はその頃本省へ転じていたから、何かにつけて周旋しゅうせんすることが出来た。僕の親分というのは官僚の親玉だ。これにも紹介してやった。野口君はその後上京毎に僕の家を宿にした。
首切り問答 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
幾面もとりよせて色々いろいろのと検定して中から一番気に入った品を周旋しゅうせんしてやった、ところが不思議にもその品はかつて見た事がある様な気がする、もしやと、箏樋ことひの裏を見ると吃驚びっくりした
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
しばらく故郷を離れたが正作は家政の都合つごうでそういうわけにゆかず、周旋しゅうせんする人があってなにがし銀行に出ることになり給料四円か五円かで某町なにがしまちまで二里の道程みちのり朝夕ちょうせき往復することになった。
非凡なる凡人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
警官に依頼し轎夫きょうふ雇入やといいれを命令的に誘導ゆうどう的に周旋しゅうせんしてもらったが、しばしは一人の応ずるものもなく、雨曝あまざらしになって進退きわまった。この時、村の青年が三、四人、みずから進み出て
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
英気勃々ぼつぼつとして我こそ姫君の選に預からんと心ひそかに期する所あるは独身者の若紳士なり。中川兄妹は主人方の手伝い役、小山夫婦は来客の間を周旋しゅうせんし、大原満は快然かいぜんとして得意の色あり。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
上野に一軒、モデルを周旋しゅうせんしてくれる家があるようであるが、杉野君はいつも、その家の前まで行ってはむなしく引返して来るらしいのである。なんとも恥ずかしくて、仕様が無いらしいのである。
リイズ (新字新仮名) / 太宰治(著)
時勢じせいしからしむるところとは申しながら、そもそも勝氏が一身を以て東西の間に奔走ほんそう周旋しゅうせんし、内外の困難こんなんあた円滑えんかつに事をまとめたるがためにして、その苦心くしん尋常じんじょうならざると、その功徳こうとくだいなるとは
意地の悪そうな奴で妾の周旋しゅうせんをしたりなにかしていけない奴です、其奴そいつがお筆さんに己の巾着を取ったって、板の間からすぐあがって来てお筆さんの袂へ手を突ッ込んでお筆さんの袂から巾着を引出すと
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
また本所亀沢町に山口三輶という医者あり、義を好む人と見えて、堀鮎二子の事など外間にりて大いに周旋しゅうせんせり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
私は高等学校へ周旋しゅうせんしてくれた先輩に半分承諾しょうだくを与えながら、高等師範の方へもい加減な挨拶あいさつをしてしまったので、事が変な具合にもつれてしまいました。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
或は言を大にしてかきせめぐの禍は外交の策にあらずなど、百方周旋しゅうせんするのみならず、時としては身をあやううすることあるもこれをはばからずして和議わぎき、ついに江戸解城と
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
養父も大よろこびで早速其友なる井上博士の法律事務所に周旋しゅうせんしてれました。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
会食の時間となれば賓客ひんかくは三々伍々幾多いくたの卓にって祝杯を挙げ二十余名の給仕人燕尾服えんびふくにて食卓の間を周旋しゅうせんす。名にし負う一年一度の夜会主客しゅかく陶然とうぜんとして歓声場裏に和気の洋々たる事春のごとし。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
しかればその犠牲者は、おおむね水戸と朝廷との間を周旋しゅうせんしたる、在京都の諸藩士、諸浪人にして、松陰の如きは、もとよりこれに対して何らの関係ある筈なかりしなり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
すると岡田は高商を卒業して一人で大阪のある保険会社へ行ってしまった。地位は自分の父が周旋しゅうせんしたのだそうである。それから一年ほどして彼はまた飄然ひょうぜんとして上京した。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
酔客の座辺にれて歌舞周旋しゅうせんする其中に、漫語放言、憚る所なきは、活溌なるが如く無邪気なるが如く、又事実に於て無邪気無辜むこなる者もあらんなれども、之を目して座中の婬婦と言わざるを得ず。
新女大学 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
授業上の打ち合せが済んだら、君はいつまでこんな宿屋に居るつもりでもあるまい、ぼくがいい下宿を周旋しゅうせんしてやるから移りたまえ。外のものでは承知しないが僕が話せばすぐ出来る。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この裏町に萩野はぎのと云って老人夫婦ぎりでらしているものがある、いつぞや座敷ざしきを明けておいても無駄むだだから、たしかな人があるなら貸してもいいから周旋しゅうせんしてくれとたのんだ事がある。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
著わしディスレリーの周旋しゅうせんにかかる年給をしりぞけて四角四面に暮したのである。
カーライル博物館 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)