取止とりと)” の例文
取止とりとめもない思いを辿っているうちに、空気が人いきれで重くなって、人々のさざめきや、皿の音や、酒杯さかずき肉叉にくさしの触れる音や
孤独 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
お母様のお部屋では取止とりとめもないことを語合かたりあって、つい笑い声も立てました。暇乞いとまごいをすると、用がないからと、いつも送って下さいます。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
此方このはうからくといへ恥辱ちじよくにもなるじつにくむべきやつではあるが、情實じやうじつんでな、これほどまでみさをといふものを取止とりとめていただけあはれんでつて
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
人が決してすままわないとの事だった、その怪物ばけものの出る理由については、人々のいうところが皆ちがっているので取止とりとめもなく、解らなかったが、そののちにも
怪物屋敷 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
これは多分取止とりとめのない昂奮であって、会話というよりはむしろ運動の方に近いものと思われる。
また汽車で十里二十里歩く日もある、取止とりとめのない漫遊の旅を続けた。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「大丈夫、命は取止とりとめます」
廃灯台の怪鳥 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その年った事務員は、一日の単調な仕事に疲れて役所を出ると、不意におっかぶさってしだいに深くなってゆく、あの取止とりとめもない哀愁に囚われた。
孤独 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
すこしやそつとの紛雜いざがあろうとも縁切ゑんきれになつてたまものか、おまへかた一つでうでもなるに、ちつとはせいして取止とりとめるやうにこゝろがけたらかろ
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
いや、取止とりとめて何も考えてなんかいなかったようです。唯、悠々と躊躇ためらわずに、玄関の呼鈴ベルを鳴らすと、やがて門が開きました。瓦斯ガスは消えていました。
無駄骨 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
おもへばぶるひがます、よく旦那樣だんなさまおもつた離縁沙汰りえんざたあそばさずに、うもわたし取止とりとめていてくださつた
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
れはいづれも取止とりとめのとりこし苦勞くろう御座ござりませうけれど、うでも此樣このやうのするをなにとしたら御座ござりますか、唯々たゞ/\こゝろぼそう御座ござりますとてうちなくに
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
たてかけしかさのころころところががりいづるを、いま/\しいやつめと腹立はらたたしげにいひて、取止とりとめんとばすに、ひざせてきし小包こづゝ意久地いくぢもなくちて、風呂敷ふろしきどろ
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
とりにがしては殘念ざんねんであらうとひとうれひを串談じようだんおもふものもあり、諸説しよせつみだれて取止とりとめたることなけれど、うらみなが人魂ひとだまなにかしらずすぢひかもののおてらやまといふ小高こだかところより
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)