)” の例文
予在外中しばしば屠場近く住み、多くの牛が一列に歩んで殺されに往くとて交互哀鳴するを窓下に見聞して、うた惨傷さんしょうえなんだ。
自ら信ずるにもかかわらず、幽寂ゆうじゃくきょうに於て突然婦人に会えば、一種うべからざる陰惨の鬼気を感じて、えざるものあるは何ぞや。
黒壁 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
予がこれに費した時間も、前後通算して一週間にだに足るまい。予がもし小説家ならば、天下は小説家の多きにえぬであろう。
鴎外漁史とは誰ぞ (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そも粋と呼ばるゝ者、いかなる性質より成れるか、そも売色女の境遇より、如何なる自然の心を読み得るか。われ多言するにへざるなり。
そも/\将門少年の日、名簿を太政大殿に奉じ、数十年にして今に至りぬ。相国摂政しやうこくせつしようの世におもはざりき此事を挙げんとは。歎念の至り、言ふにからず。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
聖恩の隆盛なる、実に感激にえず。我もまた信義を以てこの変替無き恩義に答えたてまつり、貴国の封内をして静謐せいひつに、庶民をして安全ならしめんと欲す。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
就中なかんづく編輯長ミハイル・イワノヰツチユ君はそんな大人物かと、うたた景慕の念にへなかつた。
板ばさみ (新字旧仮名) / オイゲン・チリコフ(著)
されどひさしきにへずやありけん、にはかに起たんとして、かの文殻のきたるを取上げ、庭の日陰に歩出あゆみいでて、一歩にひとたび裂き、二歩に二たび裂き、木間に入りては裂き、花壇をめぐりては裂き
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「春風が柳を吹いて、緑は糸の如く、晴れた日は、紅を蒸して小桃を出すと云ふが、小桃が紅萼を発いたので、却て春にへられない風情がある。そして綾錦羅綺の中に、解語の第一人がある」
そのおそろしい古女房、是がみな昔は羅綺らきにもえざりし美少女の、なれのはてであったのである。しかし中華民国には限らず、いずれの国の伝統においても、主婦には或る権力が認められていた。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
(兵卒らこの時ようや饑餓きがを回復し良心の苛責かしゃくえず。)
饑餓陣営:一幕 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
青楓浦上愁ひにへず
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
渠は茫々ぼうぼうたる天を仰ぎて、しばらく悵然ちょうぜんたりき。その面上おもてにはいうべからざる悲憤の色を見たり。白糸は情にえざる声音こわねにて
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
緑雨は果して渾身こんしんこれ諷刺なるや否やを知らず。譬喩ひゆに乏しく、構想のゆかしからぬ所より言へば、未だ以て諷刺家と称するにはへざるべし。
同時の茶山の応酬は、交遊の範囲が頗る広くて、一一挙ぐるにへぬが、此に其人の境遇に変易を見たもののみを記して置く。其一は井上四明である。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
いう、彼れ短躯たんく癯骨くこつ、枯皮瘠肉、衣にえざるが如く、かつて宮部鼎蔵と相伴い、東北行を為すや、しばしば茶店の老婆のために、誤って賈客視せらる。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
しばしば人に咬み付く故十分愛翫するにえずとは争われぬが、パーキンスが述べたごとく、飼い主の糊口ここうのために舞い踊りその留守中に煮焚きの世話をし
帰りて掘りて見るに必ずあり。かかる例は指を屈するにえず。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
たきもしめざる蘭麝らんじやおのづからかをりて、くや蛺蝶けふてふ相飛あひとべり。蒲柳ほりう纖弱せんじやく羅綺らきにだもがたし。麗娟りけんつね何處いづくにも瓔珞やうらくくるをこのまず。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その話は算うるにえぬほどあるが、馬を題に作った初唄うたう芸妓や、春駒を舞わせて来る物貰ものもらい同然、全国新聞雑誌の新年号が馬の話で読者を飽かすはず故
痛惻にへざるなり、彼等は高妙なる趣致ある道徳を其門にこばみ、韻調の整厳なる管絃を謝して容れず、卑野なる楽詞をて飲宴の興を補ひ、放縦なる諧謔かいぎやくを以て人生を醜殺す。
徳川氏時代の平民的理想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
かつて海舟勝翁に聞く、翁の壮なるや、佐久間象山の家において、一個の書生を見る。鬢髪びんぱつよもぎの如く、癯骨くこつ衣にえざるが如く、しこうして小倉織の短袴たんこを着く。曰く、これ吉田寅次郎なりと。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
されば一べいの菓子、一さん珈琲コオヒイに、一円、二円となげうちて、なおも冥加に余るとなし、我も我もと、入交いりかわり、立替る、随喜のともがら数うるにうべからず。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
〈妾ひととなり交接の道を欲せず、今皇命の威にえずして、暫く帷幕おおとのの中に納む、しかるに意に快からざるところ、云々〉と辞してその姉をすすめ参らせた、それが成務帝の御母だとある。
大方は雨漏に朽ち腐れて、柱ばかり参差しんしと立ち、畳は破れ天井裂け、戸障子も無き部屋どもの、昔はさこそとしのばるるがいと数うるにえず。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それすら本性不実で悪戯いたずらを好み、しばしば人にみ付く故十分愛玩するにえず。