つく)” の例文
人は偉大な作品をつくりたいという気をきわめて起こしやすい。しかし偉大な表現はただ偉大な内生あって初めて可能になるのである。
創作の心理について (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
ホイットマンに詩人がいなかったならば、百のエマソンがあったとしても、一人のホイットマンをつくり上げることはできなかったのだ。
想片 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
それ以後の百星に至っては、おのおの独自の美をつくり出していて歴代の壮観ではあるが、それぞれ少しずつ末梢まっしょう的なものを持っている。
書について (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
僕はどうかといえば、人間が神をつくったのか、それとも神が人間を創ったのかということはもう考えまいと、とうから決めているんだ。
とにかくそのはじめは切じつな人間生くわつ慰樂いらくとしてあそびとしてつくり成された將棋せうきちがひないとおもふが、それを慰樂いらくあそびのいきを遙にえて
理性の力をも感激の力をも犠牲にしない自由な人類の宗教をつくり出さんと、すべての人々が雄々しい競争をなして努力していた。
彼はただ御悲願の完璧に盛られることを念じつつつくったのであって、あらゆる点で絶対服従のみが彼の最大美徳だったのである。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
運命をつくり出すと言ってもいい。法蔵比丘ほうぞうびくの超世の祈りは地獄に審判されていた人間の運命を、極楽に決定せられた運命にかえたではないか。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
「お甲のためだというが——又八、そういう考え方は男の卑劣だぞ。自分の生涯をつくってゆくものは自分以外の誰でもない」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手はただ動くのではなく、いつも奥に心が控えていて、これがものをつくらせたり、働きに悦びを与えたり、また道徳を守らせたりするのであります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
でも、私の考へでは、若し私が愛の人間でないなら、結局結婚するやうにつくられた人間でもないと思ひますの。變ぢやありませんこと、ねえ、ディイ。
どこでまただれからつくられたともわからず、原語もなく、類語もなく、転化語もなく、直接の言葉で孤立した野蛮なまた時には嫌悪けんおすべき言葉であって
新川なる酒蔵に丈余を超ゆる雪達磨つくられ、その達磨、翌る花咲くころ迄溶けやらずして、見物群衆ぐんじゅせり——といふ話などおもひあはされ、なつかしかりき。
滝野川貧寒 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
もし、作家というものが、芥川の場合のように突き放される生活を知らなければ、「赤頭巾」だの、さっきの狂言のようなものをつくりだすことはないでしょう。
文学のふるさと (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
しかもその躯はいま、内部から新しい彼女をつくり出しつつある。私の眼に映った美しい部分には、成長するいのちというものが脈搏みゃくうっているように感じられた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
直接有力な刺戟を与へて国学復古の気運をつくつたのは、前章に説いた如く水戸光圀の修史事業であつた。
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
富岡のすべてにかされる愛情が、自分の血液をつくるための女の最後のあがきのやうな気もして来て、富岡にだけは、その愛情が安らかに求められる思ひがした。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
たたうべきかな神よ。神はまことにして変り給わない、神はすべてをつくり給うた。美しき自然よ。風は不断のオルガンを弾じ雲はトマトのごとく又馬鈴薯ばれいしょの如くである。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
生きることを、つくることを心得ている。自己を虐待しない。自己に対して充分思いやりがある。——
大体、人間が集って、何となく相談の上芸妓を生み出し、人間が相談の上、浄るりをつくり、子供を生み、南画を描き、女給を生み、油絵を発明させたように思われる。
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
誰ですか? みんなが君を、大事にしているじゃありませんか。君は慾張りです。一本の筆と一帖の紙を与えられたら、作家はそこに王国をつくる事が出来るではないか。
風の便り (新字新仮名) / 太宰治(著)
永遠に生みつゞけるんだ。みんな幸福を自分でつくつてゐるのだ。僕は——出来合ひの幸福で窒息しさうになつて、またこゝへ戻つたよ。マリイをノルマンディに残してね。
亜剌比亜人エルアフイ (新字旧仮名) / 犬養健(著)
だがね、それは君がつくり出したお話に過ぎないと云われても、何の反証も上げられないじゃないか。男の友達があったということは、証人もある事だから、本当に違いない。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
人間は何ひとつつくり出そうとせずに、天から与えられたものをこわしてばっかりいる、って。
これは伝統的の詩である俳句に対する不遜ふそんな無謀な処置であった。そういう考えがあるのならば何も俳句にたよらなくっていいわけである。新しい詩をつくればいいわけである。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
神が人間のために、この世界をつくったという聖書の記事が、もし本当であるとすれば、人間は神に向って大いに不平を言う権利があると、アナトール・フランスが苦情を言ってる。
老年と人生 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
世の中にないものをつくり出して行こうとする静かで足取りの確かな生活は幸福だった。
老妓抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
何時いつ、誰がつくつたのか、村にはずつと古くから次々に伝へられてゐる歌詞うたがありました。村の母親達はそれをねんねこ歌のやうにして小さな子供たちに歌つてきかせてゐるのでした。
女王 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
気に入らない過去を見てはつくり直すことに少しもひるむ者ではない。伝統に打たれることも多々あるが、伝統と乳兄弟になっても双子になりたくない。さりとてケンカ別れもしたくない。
感想 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
まずおたがいの努力によってそれをつくりあげていかなければならないのである。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
つくりいだそうといたしましたところ、さっそく宗家から非難が出まして、そうして邪魔をされまして、その上に破門をされまして、今では私に表だって、舞台へ立つことのできないような
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
病気が行為への希求を絶って以来、人生とは、私にとって、文学でしかなくなった。文学をつくること。それは、歓びでもなく苦しみでもなく、それは、それとより言いようのないものである。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
祖母が想像してつくりあげたものに違いないと君子は思っている。
抱茗荷の説 (新字新仮名) / 山本禾太郎(著)
なんでもかんでもみんなお天道様がつくって下さったものよ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
またつくつてゐたのを。
海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
自然の暴威をせき止めるために人間が苦心してつくり上げたこのみじめな家屋という領土がもろく小さく私の周囲にながめやられた。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そういうころには、ほとんど一人で恋愛をつくり出すに足りるほどの空想力が、魂から流れだす。些細ささいなことで魂は恍惚こうこつの境にはいってゆく。
人の幸福しあわせのためにつくられた者ですからな。それで、本当に仕合わせな人間は、自分はこの世で神の遺訓を果たしたという資格があるのじゃ。
信仰の心においてつくりつつも、ふとそれを離れて、思わず美へ惑溺わくできした人のひそかな愉悦を、また戦慄せんりつを、私は思わないわけにゆかなかった。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
その間に、都にあっては、叛逆者の一夜将軍、惟任日向守これとうひゅうがのかみが、地盤をかため、この世に、あるべからざる世の中をつくり出してしまうかも知れない。
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてその自認からあなたの運命が輝かされて、大きな übermenschlich な Herz がつくり出されるのではないかと思います。
青春の息の痕 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
ブラシュヴェルは、ファヴォリットのテルノー製の片方縁飾りのショールを日曜日ごとに腕にかけて持ち歩くために、特に天よりつくられたかの観があった。
私はこの美しい姿を見て驚き、心から彼女を稱讃した。自然はきつと彼女を偏頗な氣持でつくつたのだ。
大体、人間が集って、何んとなく相談の上芸妓を生み出し、人間が相談の上、浄るりをつくり、子供を生み、南画を描き、女給を生み、油絵を発明させたように思われる。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
いや、家庭に在る時ばかりでなく、私は人に接する時でも、心がどんなにつらくても、からだがどんなに苦しくても、ほとんど必死で、楽しい雰囲気ふんいきつくる事に努力する。
桜桃 (新字新仮名) / 太宰治(著)
その他に独立した新しい或る詩をつくり出そうというのなら、何か或る物をつかんで人をきつけるようにしなければならぬ。ふり返って見て俳句には、季という有力なるものがある。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
あれほど美しいものをストーブで燃しちまったり、われわれの手ではつくり出せないものを滅ぼしてしまうような乱暴は、よっぽど無分別な野蛮人ででもない限り、できるはずはありませんよ。
彼をつくり出したところの私自身はこごえて、空腹で、蒸気河岸がしまで一杯の酒を飲みにゆく金もなく、一片の炭もむだには使えないことを思って、肩をちぢめたまま、茫然ぼうぜんと雨の音を聞いていた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼の胸中にあるモヤモヤと鬱積うっせきしたものを書き現わすことの要求のほうが、在来の史書に対する批判より先に立った。いや、彼の批判は、自ら新しいものをつくるという形でしか現われないのである。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
此所に又別途の新らしい美をつくり出した事は奇観である。
美の日本的源泉 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)