別嬪べっぴん)” の例文
なあおすみ、お豊がこう化粧おつくりした所は随分別嬪べっぴんだな。色は白し——姿なりはよし。うちじゃそうもないが、外に出りゃちょいとお世辞もよし。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
「聞きゃあ東京者とうけいもんですとさ。別嬪べっぴんですぜ。いや何よりは、唄、弾奏ひきもの、軽い茶番、何をやっても田舎廻りにしちゃあズバ抜けてるんで」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「知れた事でござんさあ、あの時、降って湧いたように姿をお見せなすった、あの別嬪べっぴんの女の子が目あてだったのでごぜえますよ」
台湾館の中では選抜よりぬ飛切とびきりの台湾生れの別嬪べっぴんが、英語ペラペラで烏龍茶の講釈をしながら一枚八セント芭蕉煎餅ばしょうせんべいを出してお給仕をする。
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「怪我ぐらいはするだろうよ。……知己ちかづきでもない君のような別嬪べっぴんと、こんな処で対向さしむかいで話をするようなまわり合せじゃあ。……」
「なんでも川越の財産家で跡見あとみ女学校にいた女だそうだ。容色望きりょうのぞみという条件でさがしたんだから、きっと別嬪べっぴんさんに違いないよ」
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
九月一日の東京ぜんと大焼けに焼けた妻が拙者をのろうて、別嬪べっぴんでも醜婦でも、一切の物、わが夫に見られたらたちまち破れおわれと詛うた。
その内に縁日の事だから、すぐにまわりへは人だかりが出来る。中には『やあ、別嬪べっぴんの気違いだ』と、大きな声を出すやつさえあるんだ。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
若い時分には気の変りやすいもので、茅町かやちょうへ出て片側町かたかわまちまでかゝると、むこうから提灯をけて来たのは羽生屋の娘お久と云う別嬪べっぴん
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「給仕がみんな女だから面白い。しかもなかなか別嬪べっぴんがいますぜ、白いエプロンを掛けてね。是非中で昼飯をやって御覧なさい」
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しようと思っているのだ、近いところだから、話しにおいでなさい、いつでも風呂が沸いているし、おさかなもあるし、別嬪べっぴんもいる
ところが……ところがこの、身寄りもない貧弱な書生ッぽの被告に、突然救いの神が、それも素晴らしい別嬪べっぴんの救いの神が出て来たんですよ……
あやつり裁判 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
「今評判の別嬪べっぴん嬉し野のおきんさんてなあお前さんのことかえ。いや、知らぬこととはいいながら数々の無礼、このとおりおわびを、はっはっは」
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
けれどとにかくそのときには、彼の眼つきはその醜い顔を輝かして、別人のような顔つきになるのだった。別嬪べっぴんのベルトでさえそれに心を打たれた。
「また何か怒鳴り出したよ」——「でも尼としては別嬪べっぴんだな。象牙のような肌をしている」——「そうだ随分美しい」
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「いゝのう、糸の値が出るまで別嬪べっぴんさんを連れて名所を遊び廻るなんて」「は、は、は、下手な相場張るよりはこの方が結局、損ママが少いだからね」
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その後は別段そのことについては変ったことも起りませんでしたが、阿母おふくろの話ではなんでもよほどの水際立った別嬪べっぴんだったと申すことでございました。
蒲団 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「後から別嬪べっぴんさんが来ると云うから、何人だれかと思ったら、お葉ちゃんじゃないの、野本さん、おおごりなさいよ」
文妖伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
クイン・アレキサンダーは前のクインで別嬪べっぴんさんだったが、厳格な方ではなかったという意味なのだそうです。
お蝶夫人 (新字新仮名) / 三浦環(著)
「ねえお婆さん。千早館を見物に、同じ女がちょくちょくやって来るのを知らんかね。背のすんなりと高い、顔の小さい、弁天さまのような別嬪べっぴんだが……」
千早館の迷路 (新字新仮名) / 海野十三(著)
小学校の同僚もなんぞと言えばどこの別嬪べっぴんだとか、あの娘にはもう色があるとか、そんなうわさをするのは平気で、全くそれが一ツの楽しみなのですから
女難 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
家内はもちろんこの家じゅうでいちばんの別嬪べっぴんというわけですから、まさに私はどう防ぎようもないんです
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
「病院には、看護婦がいるぜ、色の白い、無邪気な、それほど別嬪べっぴんではないが、すてきにかわいい……」
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
上方へ行って島原しまばらなどの別嬪べっぴんさんを泣かせるなんてのは、男と生れて何よりの果報だろうじゃないか。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「こんな別嬪べっぴんになるんだと知っていたら、あんな薄情な女に生命いのちを打ち込んでれるんじゃなかった」
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
そして、一番別嬪べっぴんのおいらんを、通りすがりの客の眼をひくように立たせていたが、これを目当てにして登楼しても、ほかのオタフクを当てがわれてしまうのである。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
帰国のとき、ぼくは、この少女に、持って行った浴衣カルナモクを、一枚上げたところ、早速、その別嬪べっぴんのお母さんが着て、見送りに出ていたのには、苦笑させられたものです。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
「これはおもしろくなってきた。どんな女にあの花を持ってってやるのかな。あんなきれいな花を持ってゆくくらいだから、よほどの別嬪べっぴんに違いない。ひとつ見てやろう。」
暗い戸外を、「別嬪べっぴんさん」と男がどこかの女を呼んでいる声がしている。今日は主人夫婦は子供を連れて成田さんにお参り。おかみさんのおふくろさんが留守番に来ている。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
でも頭脳あたまが大変よくて、翻訳なんか上手なんですって。この人が突然行方不明になったんですわ。おかみさんが心配して、このおかみさんの写真も出ていましたがそりゃ別嬪べっぴんよ。
ニッケルの文鎮 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
別嬪べっぴんさんの誘惑にかかると、男って、もろいのね。金五郎さんも、そうとちがうの?」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
「飲み込んでますよ。どんな立派な花婿姿になって来るか見てて下さい。あっしゃこんな別嬪べっぴんと結婚式を上げようとは、夢にも思いませんでしたぜ。一目、花嫁御はなよめごの顔が見たいな」
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
別段別嬪べっぴんとは思わないが、『源氏物語』の中の花散る里——柳亭種彦りゅうていたねひこの『田舎源氏』では中空なかぞらのような、腰がふといようで柔らげで、すんなりしていて、すそさばきのきれいなのが
聞いて、私もその追懐に同感できた。母は丸髷まるまげなどのよく映る別嬪べっぴんだったから。
生い立ちの記 (新字新仮名) / 小山清(著)
「おう、三年子、どうしたい、きょうはべらぼうに美しい女と一緒だなあ、おめえも、えらく大きくなって別嬪べっぴんになったもんだ、もうおめえも来年は四年子だ、四年子は化けるというぜ。」
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「もう四、五年立つと別嬪べっぴんになるのだな。」と言っていた言葉を思い出した。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
(せめて、大作の評判、足跡だけでも聞いて江戸へ戻ったなら——いいや、討取るといって出てきたのに——第一、何か、一手柄立てて戻らんと、女がもらえぬ。あいつは、別嬪べっぴんだから——)
三人の相馬大作 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
それで無くてもふるいつく程の美しさ。江戸にも珍らしい別嬪べっぴんで有った。
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
若い別嬪べっぴんと小さなテーブルでさし向いにされたんで、みんな羨しそうな顔をして、こっちばかり気にしているから気がひけて、何を食わされたんだか、今もって、覚がないくらいのぼせてしまった
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
「これで一かどの別嬪べっぴんさんが出来上つたつていふところだね。」
散歩 (新字旧仮名) / 水野仙子(著)
「この娘さん、カタリナさんによく似ています。別嬪べっぴんですね」
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「妻君の妹です……内で見たよりか余程よっぽど別嬪べっぴんに見える」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「私なんかには解りませんけど、後妻というものは特別に可愛いもんだといいますね。……後妻はどうしても若くもあるし、……あなたも私とあのようになっていたら、今ごろは若い別嬪べっぴんの後妻が貰えてよかったんでしょうに」
贋物 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
内儀おかみさんはどんな人だい。別嬪べっぴんか。」
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
別嬪べっぴんかね、君んとこの御新造さんは」
「どうも別嬪べっぴんらしいのですね。」
阿英 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
「ヘッヘ。別嬪べっぴんだと思やがって」
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
別嬪べっぴんなら取って喰うか」
鉄の処女 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
「ソラあんた今から三年前だッしゃろ、そうだッしゃろ。ほたら圓太郎はん上機嫌、当たり前や。ホレあの女義太夫に竹本美蝶いう別嬪べっぴんおまッすやろ、その美蝶とそも馴れそめのホヤホヤで、あのやかまし屋が毎晩大機嫌の時やったンやもの」
寄席行灯 (新字新仮名) / 正岡容(著)
町に別嬪べっぴんが多くて、山遊びがすきな土地柄だろう。果して寝転んでいて、振袖を生捉いけどった。……場所をかえて、もう二三人つかまえよう。