せめ)” の例文
見るに忍びずせめてもの事に斯樣なる時節にこそ御恩ごおんはうぜんと存じて持參致したれ因て此金子何卒なにとぞ御受取下さるべしと二十兩の金子を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
馴々なれなれしくことばをかけるぐらいせめてもの心遣こころやりに、二月ふたつき三月みつきすごうちに、飛騨の涼しい秋は早くも別れを告げて、寒い冬の山風が吹いて来た。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
せめては此の室の中で窓の隙から日の光の差す辺へでも坐らせて置き度いと思い、手を取って引くと、オヤ其の手に麺麭ぱんかけらを持って居る。
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
し彼のまなこにらまれんとも、互のおもてを合せて、ことばかはさずともせめては相見て相知らばやと、四年よとせを恋にゑたる彼の心はいらるる如く動きぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そうしてあんたと二人で夫婦になって、深山みやまの奥なりとんで暮したいが、それに就いてもせめ金子かねの五六十両も持ってお出でやというと、おゝ左様さよ
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
小児こどもせめて仏のそですがろうと思ったでしょう。小立野こだつのと言うは場末ばすえです。先ず小さな山くらいはある高台、草の茂った空地沢山あきちだくさんな、人通りのないところを、その薬師堂やくしどうへ参ったですが。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
プシキンはさきだつて非常ひじやう苦痛くつうかんじ、不幸ふかうなるハイネは數年間すうねんかん中風ちゆうぶかゝつてしてゐた。してれば原始蟲げんしちゆうごと我々われ/\に、せめ苦難くなんてふものがかつたならば、まつた含蓄がんちく生活せいくわつとなつてしまふ。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
あづけ置て立出たちいでしが其後一向に歸り來らず然に昨年祖母ばば病死びやうしし殘るは私し一人と成りせめては今一度對面たいめんし度と存ず夫故に伊勢參宮より故郷こきやう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
はかないのが世の中と覚悟した上で、その儚い、つまらない中でせめてはたのしみを求めやうとして、究竟つまり我々が働いてゐるのだ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
せめ盗坊どろぼう所為しわざにでも見せ掛け何か品物を盗んで置くとか此室を取散とりちらして置くとかそれくらいの事はそうなもの
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
せめてもの心床こころゆかしに、市郎は父の名を呼んだが、魂魄たましいの空しい人は何とも答えなかった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
めぐらしける此時藤井左京は大膳に向ひ某し近頃此地へ參り貴殿の門弟とは相成たれどいま寸功すんこうも立てざればせめ今宵こよひ舞込まひこみし仕事は何卒拙者せつしや料理方れうりかた
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
貴方もお諦め下さいまし、全く因果なのでございますから、せめてさうと諦めてでもゐて下されば、それだけでも私幾分か思がとほつたやうな気が致すのでございます。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
せめて今一日早かったなら、秀子を権田時介に救わせずして自分で救う事の出来た者を、縦しや救い得ぬ迄も権田時介に彼様迄は譲歩せずに済んだ者を、今と為っては如何とも仕方がない。
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
夫を言われなんだはせめてもだ。
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)