出来栄できばえ)” の例文
「冬の旅」二十四曲は「美しき水車小屋の乙女」以上に歌もすぐれているが、これを歌っているヒュッシュの出来栄できばえはさらにすばらしい。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
出来栄できばえはもとより大いに不満であるが、この仕事を、昭和聖代の日本の作家に与えられた義務と信じ、むきになって書いた、とは言える。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
また大田南岳おおたなんがく山高帽やまたかぼうに木綿の五ツ紋、小倉こくらはかまをはきて、胸に赤十字社の徽章きしょうをさげたる。この二人は最上の出来栄できばえなりけり。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
吾々われ/\が十六七のとき文天祥ぶんてんしやう正気せいきの歌などにかぶれて、ひそかに慷慨かうがい家列伝に編入してもらひたい希望で作つたものと同程度の出来栄できばえである。
艇長の遺書と中佐の詩 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ごく手堅い職人気質かたぎの残る仕事で、その出来栄できばえには見事なものがあります。ここに手仕事の道徳とでもいうものを、まともに感じさされます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
高尚な方へかたまっている人たちと、牙彫商人の売り物にはめて、貿易向き一方をやり、出来栄できばえは第二にして、まず手間にさえなればよろしいという側の人たちと
しゃさけ出来栄できばえに、たちまち一部の册子そうしとなりぬ。そもこの話説はなしの初集二集は土竈どがまのパットせし事もなく。起炭おこりずみにぎやかなる場とてもあらねど後編は。駱駝炭らくだずみ立消たちぎえなく。
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
取引の日には早速花野氏が来て出来栄できばえを見て大変喜び、早速残金を支払い自動車で帰ったのである。
真珠塔の秘密 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
僕は大いにこれを光栄とし、適宜にラテン語の引用をはさんで、長々と演説の準備をしました。正直なところ、満足な出来栄できばえです。僕は、そいつを大型の罫紙けいしに清書しました。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
むね出来栄できばえへまず眼をつけ、それからずっと柱づたいに、土台の仕組みまで見下ろすものであり、それが万事に習慣づけられ、人を見る時には頭から眺め、足に及ぼすものなのであった。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
木魚もくぎょの顔の老爺おじいさんが、あの額の上に丁字髷ちょんまげをのせて、短い体に黒ちりめんの羽織を着て、大小をさしていた姿も滑稽こっけいであったろうが、そういうまた老妻おばあさんも美事な出来栄できばえ人物ひとだった。
作家と絵の出来栄できばえについて何の好悪すききらひも持たない今の成金のなかには、眼を閉ぢて番組プログラムを押へるとか、又は従来これまで自分と縁起のよかつた、25とか73とかの番号に当つてゐるのを捜すとかして
さく出来栄できばえ予想よさうして、はなかほりひらめくひかりごと眼前がんぜんあらはれた彫像てうざう幻影げんえいは、悪魔あくまに、おびうばはうとして、らず、きぬかうとして、ず、いましめられてもなやまず、むちうつてもいたまず
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
適度の情熱と、そして行届いた注意と、盛り上げていく感興と、——まことに心憎き出来栄できばえである(四三六〇一—三)。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
不安な未来を眼先にひかえて、その日その日の出来栄できばえを案じながら病む身には、けっしてうれしい便りではなかった。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
狭い地域の中にもおのずから特長があって、「東こぎん」「西こぎん」「三縞みしまこぎん」などと名を附けて区別します。いずれも美を競うほどの出来栄できばえであります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
その出来栄できばえがよかったとして、後藤氏の立場はどうなるか……こう思うと、もう私はたてもたまらなくなって、この事は是非とも解決しなければならないと心を決し、その晩
初日の舞台で、この度も千代子の役が第一の出来栄できばえを見せた。千代子はその晩興行主から大入袋の外に特別の賞与を貰って、人から羨しがられたが、自分ながら怪しむほど嬉しい気がしなかった。
心づくし (新字新仮名) / 永井荷風(著)
席画の出来栄できばえにすっかり上機嫌になった容堂は
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
吾輩の眼前に悠然ゆうぜんとあらわれた陰士の顔を見るとその顔が——平常ふだん神の製作についてその出来栄できばえをあるいは無能の結果ではあるまいかと疑っていたのに
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一つは刺子着さしこぎで一つはみのであります。いずれもその出来栄できばえは日本一の折紙をつけてよいでありましょう。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
歌手に小言こごとをいうことはおろか、その出来栄できばえを批評することさえ出来ないほど臆病おくびょうで、「早く上演が済んでくれればよい——」とそればかり念ずる有様ありさまであった。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
種々いろいろ工夫を凝らすため、したがって大作と称するものが出来、七、八寸から一尺位象牙の木地一杯に作ってその出来栄できばえを競ったもの、されば、その頃は、彫刻といえば象牙彫りのことのように思われ
もっとも今度せる「土」の出来栄できばえは、今から先を見越した様な予言が出来る程進行していない。最初余から交渉した時、節氏は自分の責任の重いのを気遣きづかって長い間返事を寄こさなかった。
長塚節氏の小説「土」 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
したがって、出来栄できばえ如何いかんはまずいて、できたものを太平の記念と見る当人にはそれがどのくらいとうといか分らない。病中に得た句と詩は、退屈をまぎらすため、かんいられた仕事ではない。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)