たまた)” の例文
かかれば何事にも楽むを知らざりし心の今日たまたま人の相悦あひよろこぶを見て、又みづからよろこびつつ、たのしの影を追ふらんやうなりしは何の故ならん。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
よし恋の場合に男はたまたま命掛であるとしても、産という命掛の事件には男は何の関係かかわりもなく、また何の役にも立ちません。
産屋物語 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
曰く「強烈なる心霊の苦痛は、たまたま些細なる肉体の苦痛を以て滅却する事を得。」そうだ、………それに違いない。………
The Affair of Two Watches (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼の十二、三歳の頃、かつて萩城下、林某の宅にぐうし、藩学明倫館に通学す。彼の寓室は階上にり、家たまたま火を失す。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
これより小厠こづかいを一にん使用するの必要は無論感ずる所なりしといえども、しいてこれをともなわんとすれば、非常に高き賃金を要し、またたまたま自ら進んで
旧幕府の末年に神田孝平たかひら氏が府下本郷通を散歩の折節おりふしたまたま聖堂裏の露店に最と古びたる写本のあるを認め、手に取りて見ればまぎれもなき蘭学事始にして
蘭学事始再版之序 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
妙子の家とはひと夏葉山でたまたま近処に家を借り、学校が同じところから近づきになって一緒に遊んだそうだ。
結婚 (新字新仮名) / 中勘助(著)
それがたまたま訪ねて來たいたづらな酒飮みの友達が、彼等の知らぬ間に龜の子を庭の草なかに放してなくなしてしまつた。彼は云ひやうのない憂欝な溜息を感じた。
哀しき父 (旧字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
犯人がたまたま盗品を所持している際に発見逮捕せられた場合には、これまた現行盗であるとしておった。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
たまたま真の文学的凜気爽かなるこの如き書に接しられたならば Pitt Diamon とも申すべく得難き読書の快はやはりこの如き純粋なる文学書のなかにこそ
保雄が毎げつ生活くらしに困る様な事も無からうが、新体詩はう買つて呉れる所も無いから保雄の方でも自分から進んで売らうとは仕無しない、たまたま雑誌社からでも頼まれゝば書くが
執達吏 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
峻山深谿しゅんざんしんけい跋渉ばっしょうしたるもの幾人かある、今や中央鉄道開通して、その益をくるもの、塩商米穀商以外に多からずとせば、邦人が鉄道を利用するの道もまた狭いかな、たまたま地質家、山林家
山を讃する文 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
そしてその峠のところで尾籠びろうな話だがたまたま大便を催したので、路傍の林中へはいって用を足しつつそこらを睨め回していたら、ツイ直ぐ眼前の木の枝に異形な物が着いているのを見つけた。
植物一日一題 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
黎庶れいしょソノ所ニ安ンゼヨト。諸僚佐次ヲ以テ進ミテ拝ス。廟ノ門ヲ出デ別路ヲ取ツテ南ニ下リ小橋ヲ過ギテ浦口ニいたリ船ヲ買ツテ松島ニ赴ク。微雨たまたマ至ル。とまノ避クベキモノナシ。各傘ヲ張ル。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
投げた物がたまたま刃物であったために大それた刃傷沙汰になったが、ヒステリイの不可抗力に襲われたその時の気分は
姑と嫁について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
たまたま外国修業の書生などがかえって来て、僕は畢生ひっせい独立の覚悟で政府仕官は思いも寄らぬ、なんかんと鹿爪しかつめらしく私方へ来て満腹の気焔きえんを吐く者は幾らもある。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それがたまたたづねて来たいたづらな酒飲みの友達が、彼等の知らぬ間に亀の子を庭の草なかに放してなくなしてしまつた。彼は云ひやうのない憂鬱いううつな溜息を感じた。
哀しき父 (新字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
たまたま人中を迷ひたりし子の母の親にもひけんやうに、少時しばしはそのかたはらを離れ得ざるなりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
またヘロドーツスの歴史によれば、古代のペルシアにおいては、真正の親を殺す者のあるはずがないとし、たまたま親を殺す者があっても、その者は私生児であるとしたということである。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
何処からか来ていたものが、たまたまそこに生えていたのに過ぎないのである。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
たまたまに川下りをしようとして、河畔に立つ旅人があつても、船が出ないために、空しく失望して引き返さねばならなかつた、私も二度ばかりさうした憂き目を見て、心ならずも傍路へ外らされた。
天竜川 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
たまたま若い婦人で思想論などをする知名な人があっても、それが多くは婦人の発言である所から世の注意をくだけで、大抵の男子には出来る議論であり
婦人改造と高等教育 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
英帝ヘンリー第五世がまだ太子であった頃、或るとき親王の寵臣某がたまたま罪あって捕えられ、遂に「王座裁判所」(King's Bench)において公判を開かれることとなった。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
旧幕府の末年に神田孝平氏が府下本郷通を散歩の折節おりふしたまたま聖堂裏の露店にと古びたる写本のあるを認め、手に取りて見ればまぎれもなき蘭学事始にして、かも鷧斎いさい先生の親筆に係り
蘭学事始再版序 (新字旧仮名) / 福沢諭吉(著)
やや有りて彼はしづかに立ち上りけるが、こたびは更にちかきを眺めんとて双眼鏡を取り直してけり。彼方此方あなたこなたに差向くる筒の当所あてども無かりければ、たまた唐楪葉からゆづりはのいと近きが鏡面レンズて一面にはびこりぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
二勺より路は黒鉄くろがねを鍛へたる如く、天の一方より急斜して、爛沙らんさ焦石せうせき截々せつ/\、風のさわぐ音して人と伴ひ落下す、たまたま雲を破りて額上かすかに見るところの宝永山の赭土あかつちより、冷乳のかめを傾けたる如く
霧の不二、月の不二 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
たまたま豊臣氏のように微賤から出た政治家があっても新しい官僚政治家が一人殖えただけで、政治に対する国民の権利を官僚から取返してこれを国民に分配したというのではありません。
選挙に対する婦人の希望 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
たまたもって一旧臣のめに富貴を得せしむるの方便ほうべんとなりたる姿すがたにては、たといその富貴ふうきみずから求めずして天外よりさずけられたるにもせよ、三河武士みかわぶしの末流たる徳川一類の身として考うれば
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それがウィルソンの偉大な理想とたまたま似ている所があるというに過ぎません。
激動の中を行く (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
逆上すると同時にたまたま手近にあった刃物を取って姑に投げ附けた。積極的にろうとするのでなく、勿論殺意があるのでなく、手当り次第に投げ附けた。それは猛烈なヒステリイの発作であった。
姑と嫁について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
たまたう同じ街の友人にも非結婚主義を熱心に勧めたりなんかした。
私の貞操観 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
一概にこれを我儘わがままだといって、たまたま嫁にもらってくれる口があれば、その配偶者たる男子の人格も研究せず、わが娘をば厄介者を追払うようなつもりでその男子に押附けようとする風がありますけれど
女子の独立自営 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
たまたいち大通おほどほりき会ひし時
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)