“鮹(たこ)” の例文
夕涼(ゆふすゞ)みには脚(あし)の赤(あか)き蟹(かに)も出(い)で、目(め)の光(ひか)る鮹(たこ)も顯(あらは)る。撫子(なでしこ)はまだ早(はや)し。山百合(やまゆり)は香(か)を留(と)めつ。月見草(つきみさう)は露(つゆ)ながら多(おほ)くは別莊(べつさう)に圍(かこ)はれたり。
松翠深く蒼浪遥けき逗子より (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
二つの鮹(たこ)が帆となり船となつて海上を走つて行く話や、鮑(あはび)取りの漁女(あま)が盥に乳含児をのせて置いて、水底から潜り出て来ては、太い息を吹きながら
伊良湖の旅 (新字旧仮名) / 吉江喬松(著)
このほか二流どこで朝枝の鮹(たこ)踊り、年枝の即席茶番など柳派の珍物もあったが、さまではとお預かり。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
お平(ひら)には新芋(しんいも)に黄な柚子(ゆず)を添え、椀(わん)はしめじ茸(たけ)と豆腐の露(つゆ)にすることから、いくら山家でも花玉子に鮹(たこ)ぐらいは皿(さら)に盛り、それに木曾名物の鶫(つぐみ)の二羽も焼いて出すことまで
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それによると、達次郎は、十時からいままで、新橋の「鮹(たこ)八」というおでん屋で、なにも知らずに飲み続けていたということだった。直ぐに警官の一人が「鮹八」へ急行した。
銀座幽霊 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
鮹(たこ)の料理が出された時、主人は「これは堅い、鮹は真水を飲ませなくては柔らかくなりません」と自ら立って台所に行く。ほど経(へ)て出された鮹の料理のほどよき柔らかさと旨(うま)さ。
全羅紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「それにしても、人は見かけによらぬものッてネ——お坊さんなぞは、鮹(たこ)ざかなかなんかで、かどわかしの娘っ子でもさいなんでいそうに見えて、ほんとうに親切なところがあるわねえ」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
海は凪(な)いでゐて、静かな海面に鮹(たこ)をとる舟が三、四艘(さう)うかんでゐた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
「どうぞ。いいタネって何……? アナゴ……? 鮹(たこ)かな」
世相 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
半「何も鮹(たこ)もあるものか、さア一緒に往(い)け」
金石(かないわ)の湊(みなと)、宮の腰の浜へ上って、北海の鮹(たこ)と烏賊(いか)と蛤(はまぐり)が、開帳まいりに、ここへ出て来たという、滑稽(おかし)な昔話がある——
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その高弟の円喬が医者の代脈然たる風采から「代診」と呼ばれたのも久しいもの、柳派の朝枝が赤手拭で頬冠り、得意の鮹(たこ)踊りを見せたので「タコ」、もっとも目つき口つき鮹入道にそのまま。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
……その弁慶が、もう一つ変ると、赤い顱巻(はちまき)をしめた鮹(たこ)になって、踊(おどり)を踊るのですが、これには別に、そうした仕掛(しかけ)も、からくりもないようです。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
若布(わかめ)のその幅六丈、長さ十五尋(ひろ)のもの、百枚一巻(ひとまき)九千連。鮟鱇(あんこう)五十袋。虎河豚(とらふぐ)一頭。大の鮹(たこ)一番(ひとつがい)。さて、別にまた、月の灘(なだ)の桃色の枝珊瑚一株、丈八尺。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
渾名を鮹(たこ)と云って、ちょんぼりと目の丸い、額に見上げ皺(じわ)の夥多(おびただ)しい婦(おんな)で、主税が玄関に居た頃勤めた女中(おさん)どん。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おんじゃらこっちりこ、ぱあぱあと、鳴物入で鮹(たこ)とおかめの小人形を踊らせた、おん爺(じい)があったとか。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
女紅場(ぢよこうば)で、お師匠(ししやう)さんをなさります、其(そ)のお心(こゝろ)の中(うち)を存(ぞん)じながら、勿體(もつたい)ない、引張(ひつぱ)りの地獄宿(ぢごくやど)で、鮹(たこ)の脚(あし)を噛(かじ)りながら、袖崎(そでさき)の御新姐(ごしんぞ)が直傳(ぢきでん)だ、と紀伊國(きいのくに)は音無瀬川(おとなせがは)の狐(きつね)が憑(つ)いた人畜(にんちく)が
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
路に灘(なだ)はござりませぬが、樽の香が芬々(ぷんぷん)して、鮹(たこ)も浮きそうな凪の好(よ)さ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この絵馬は、俎(まないた)の上へ——裸体(はだか)の恋絹を縛ったのではない。白鷺を一羽仰向けにしてあるんだよ。しかもだね、料理をするのは、もの凄(すご)い鬼婆々(おにばばあ)じゃなくって、鮹(たこ)の口を尖(とが)らした、とぼけた爺さん。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
吃驚(びっくり)して按摩が手を引く、その嘴(くちばし)や鮹(たこ)に似たり。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「鮹(たこ)の燐火(ひとだま)、退散(たいさん)だ」
海の使者 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)