かほり)” の例文
やゝしばらくすると大きな無花果の少年こどもほゝの上にちた。るからしてすみれいろつやゝかにみつのやうなかほりがして如何いかにも甘味うまさうである。
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
ヴアイオレツトのかほり嬌紅けうこう艶紫えんしの衣の色、指環ゆびわ腕環うでわの金玉の光、美人(と云はむはいつはりなるべし、余は不幸にして唯一人も美人をば夜会の席に見る能はざりければ)
燕尾服着初めの記 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
女中が、水を汲んで来ると、美奈子は、その花筒の古い汚れた水を、浚乾かへほしてから、新しい水を、なみなみと注ぎ入れて、剪り取つたまゝに、まだかほりの高い白百合の花を、挿入れた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
あき野分のわけしば/\して、ねむられぬながの、あささむく——インキのかほりの、じつと新聞しんぶんに——名門めいもんのおぢやうさん、洋画家やうぐわか夫人ふじんなれば——衣絵きぬゑさんの(もうとき帰京ききやうしてた)重態ぢうたい
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
手帛ハンケチが三四郎のかほまへた。するどいかほりがぷんとする。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
はる野路のぢをガタ馬車ばしやはしる、はなみだれてる、フワリ/\と生温なまぬるかぜゐてはなかほりせままどからひとおもてかすめる、此時このとき御者ぎよしや陽氣やうき調子てうし喇叭らつぱきたてる。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
身動みうごきもせずじつとして兩足をくんすわつてると、その吹渡ふきわた生温なまぬくいかぜと、半分こげた芭蕉の實や眞黄色まつきいろじゆくした柑橙だい/\かほりにあてられて、とけゆくばかりになつてたのである。
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
亞弗利加洲アフリカしうにアルゼリヤといふくにがある、凡そ世界中せかいぢゆう此國このくにひとほど怠惰者なまけものはないので、それといふのも畢竟ひつきやう熱帶地方ねつたいちはうのことゆえ檸檬れもんや、だい/\はなき亂れてそのならぬかほり四方よもちこめ
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)