かがみ)” の例文
十七歳の乙女で、詩や物語をよく読んでいるものだったら、どうして、このような武勇と完璧とのかがみをしりぞけることができようか。
まことにもののふのかがみと申すべきではござりませぬか。恐れながら、わが御先代の小早川隆景公は日本第一の明将でございました。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
これは相撲の番附、こちらが名人かがみ、向うが凌雲閣りょううんかく、あれが観音様、瓢箪池ひょうたんいけだって。喜蔵がいつか浅草へ供をして来た時のようだ。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「この盃は、三河守の一念にたいし、供養くようのため、そちの家へくれるものじゃ。父をかがみに、父に劣らぬ、よいさむらいになれよ」
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
世事かくのごとくなるもの多し、書して後人のかがみとなすとあり。『竜図公案りょうとこうあん』四にも似た話を出し居るが、鼠の代りに人が盗み取ったとし居る。
陶器を焼いて生活の資にて、他にもたらすところ厚く、自らは乏しくつつましく暮し、謙虚さは失わなかった姿こそ、まことに日本女性のかがみであり
大田垣蓮月尼のこと (新字新仮名) / 上村松園(著)
これを明らかにするかがみなく、これをさとらするさとしなく、英雄一個の心智を以て、四海万姓をもてあそぶ事、そも/\天の意なるや
山崎合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
その代りに嫁の手本だつた。今の世の貞女のかがみだつた。「沢向うのお民さんを見ろ。」——さう云ふ言葉は小言と一しよに誰の口からも出る位だつた。
一塊の土 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「井上君の説によると、秀才だから、選ばれて女婿養子になる。女婿養子は世の光なり地のかがみなりというんです」
秀才養子鑑 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
しかるに、中根なかね危急ききふわすれてじうはなさず、くまでじうまもらうとした。あの行爲かうゐ、あの精神せいしんまさ軍人精神ぐんじんせいしん立派りつぱ發揚はつやうしたもので、まこと軍人ぐんじんかがみである。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
そなたらもこれを今後のかがみにせよ、秀吉は見廻し眺めて大音に喚いたが、尚亢奮はをさまらず誓紙をぶら下げて部屋々々を歩き、行き会ふ者に、女中にまで誓紙を示して
我鬼 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
曇るかがみの霧を含みて、芙蓉ふようしたたる音をくとき、むかえる人の身の上に危うき事あり。砉然けきぜんゆえなきに響を起して、白き筋の横縦に鏡に浮くとき、その人末期まつごの覚悟せよ。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
豈これを人間家内の道と言うべけんや。余かつて言えることあり。「姑のかがみ遠からず嫁の時にあり」と。姑もし嫁をくるしめんと欲せば、己がかつて嫁たりし時を想うべきなり。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
歴史をかがみといふのは是處のことで温故知新は、此の如くして活用せなければならぬ。
口もとは小さからねど締りたれば醜くからず、一つ一つに取たてては美人のかがみに遠けれど、物いふ声の細くすずしき、人を見る目の愛敬あふれて、身のこなしの活々いきいきしたるは快き物なり
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
永久に神の国とそのただしきとを求めるすべての熱烈な生命のかがみとなるでしょう。
恐くは我が至誠のかがみは父が未然を宛然さながら映しいだしてあやまらざるにあらざるかと、事の目前まのあたりの真にあらざるを知りつつも、余りの浅ましさに我を忘れてつとほとばし哭声なきごゑは、咬緊くひしむる歯をさへ漏れて出づるを
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
江戸を以てかがみとすなり花に樽 宗因
古池の句の弁 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
万端の注意があの女の心一つで行届いていたということになって、女のたしなみのかがみでもあるかのように取巻が並べたので
しかし、典膳にとっては、その善鬼があったため、よいかがみにもなり、励みにもなって、遂に、下総しもうさの小金ヶ原で、彼と試合して、彼を斬った。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(西村の奥様は感心だ。今時の人のようでない。まるで嫁にきたてのように、旦那様を大事にする。婦人おんなはああかなければ嘘だ。貞女のかがみだ。しかし西村にはおしいものだ。)
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
義民のかがみじゃ。
義民甚兵衛 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「では、異国の学をかがみとして、時弊を打ち破り、ひいては執権北条の幕府をもくつがえして、政治まつりごとを遠きいにしえにかえさんとの思し召でもあるか」
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
故に、補佐の任たる方々が心を傾けて、君の徳を高うし、社稷しゃしょくを守り固め、以て先帝のご遺徳を常にかがみとして政治せられておれば間違いないと思う。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さだめし其女そなたは嫁ぐ日までの教養として、貞婦ていふかがみとなるよう、おしゅうとどのからも、やかましい庭訓ていきんを数々おしえこまれておろうが、この良人は、そう気難しゅうはない。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし彼は、関羽の忠節をかがみとしても、自分の主君に偽りはいえなかった。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「つとめて、おやじには似たくないものと、亡父ちちかがみにしております」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……それと、今日のわれらの身をよいおしえとして、ひとたび誓うた節義をえるな。時勢じせいのゆくてを見誤るなよ。わしの滅亡は若年のためその先見がなかったに依るのだ。小三郎がよいかがみであるぞ
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いまもよく人々が語り草にいう北畠顕家をちとかがみともしたがいい。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
法治賞罰のかがみとする——戦下行政をおのずからくのであった。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
聞く人の かがみにせむを
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)