れい)” の例文
驚くうちは楽がある! 女は仕合せなものだ! うちへ帰って寝床へ這入はいるまで藤尾の耳にこの二句があざけりれいのごとく鳴った。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その他、なお、舎利塔、位牌、如意、持蓮じれん柄香炉えこうろ常花とこはなれい五鈷ごこ、三鈷、独鈷とっこ金剛盤こんごうばん、輪棒、羯麿かつま馨架けいか雲板うんばん魚板ぎょばん木魚もくぎょなど、余は略します。
だが、男は、はばからない大声で、自分のシャがれ声に熱し切ると、われを忘れたように、右手のれいを、ちゅうにあげて
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雅楽頭は歩いていって、元の席に坐り、文台ぶんだいの上のれいを取って鳴らした。そして、懐紙を出してぐいぐいと顔を拭き、それを繰り返したあと、もういちど鈴を鳴らした。
法衣ころも袈裟けさの青や赤がいかにも美々しく入り交って、経を読む声、れいを振る音、あるいは栴檀沈水せんだんちんすいかおりなどが、その中から絶え間なく晴れ渡った秋の空へ、うらうらと昇って参ります。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
もっとも私に、臨済りんざいと、普化ふけとの、消息を教えて下すって、臨済録の『勘弁』というところにある『ただ空中にれいの響、隠々いんいんとして去るを聞く』あれが鈴慕の極意ごくいだよ、と教えて下すった方はありました。
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
秋かぜはれいの音かな山裾の花野見る家の軒おとづれぬ
舞姫 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
そうして宗助のそばを通って、黙って外の暗がりへ抜けて行った。すると遠くの奥の方でれいを振る音がした。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
れいを、ふところに入れて、その懐中ふところから、文覚もんがくは、何やら、紙屋紙かみやがみに書いた一連の反故ほごを取り出した。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すぐに懐剣をふところへ差入れながら立った、奥の間で自分を呼ぶれいの音がしたからである。
晩秋 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
さうして宗助そうすけそばとほつて、だまつてそとくらがりへけてつた。するととほくのおくはうれいおとがした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
粟田あわた山の春は、その部屋いっぱいににおって、微風が、がんか、瓔珞ようらくか、どこかのれいをかすかに鳴らした。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのの夢に藤尾は、驚くうちはたのしみがある! 女は仕合しあわせなものだ! と云うあざけりれいを聴かなかった。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
滝つぼの辺へ行ってみたところ——荒繩あらなわの腹帯を巻き、れいを振り鳴らし、しぶきの中に、声も出ぬまで、経文きょうもんとなえている姿は、身の毛もよだつばかりであったとか、語っておりました。
宗助そうすけならんでゐるものも、一人ひとりとしてかほ筋肉きんにくうごかすものはなかつた。たゞ宗助そうすけこゝろなかで、おくからの何物なにものかをけた。すると忽然こつぜんとしてれいひゞきかれみゝこたへた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
その五日目の昨夕ゆうべ! 驚くうちはたのしみがある! 女は仕合せなものだ! あざけりれいはいまだに耳の底に鳴っている。小机にひじを持たしたまま、燃ゆる黒髪を照る日に打たして身動もせぬ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
宗助は喪家そうかの犬のごとく室中を退いた。後にれいを振る音がはげしく響いた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
宗助そうすけ喪家さうかいぬごと室中しつちゆう退しりぞいた。のちれいおとはげしくひゞいた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そこへ御参おまいりをするには、どんなにあしの達者なものでも途中で一晩明かさなければならないので、森本も仕方なしに五合目あたりで焚火たきびをして夜の寒さをしのいでいると、下かられいの響が聞えて来たから
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)