野心やしん)” の例文
裸身の僕は、單に——人類の罪を覆うてゐる、キリスト教の血に染んだ上衣うはぎいで了へば——冷酷な野心やしんに富んだ男に過ぎないのです。
もしそれをいだしたなら、いま自分じぶんいだいているような、すべての野心やしんげられるだろうというようながしたのでした。
三つのかぎ (新字新仮名) / 小川未明(著)
つむぐことゝることサ、無論むろんはじめから』と海龜うみがめこたへて、『それから算術さんじゆつの四そく、——野心やしん亂心らんしん醜飾しうしよく、それに嘲弄てうろう
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
何しろうでぱいのところを見せて、すくなくとも日本の洋畫界やうぐわかいに一生面せいめんひらかうといふ野心やしんであツたから、其の用意、其の苦心くしん、實にさん憺たるものであツた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
この魚族ぎよぞくは、きわめて性質せいしつ猛惡まうあくなもので、一時いちじ押寄おしよせてたのは、うたがひもなく、吾等われら餌物えものみとめたのであらう。わたくしそのぐんたちま野心やしんおこつた。
それで、その秘密を自分のものにして世界をびっくりさせたいという野心やしんをいだいたのです。
電人M (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
イワン、デミトリチははじめのうち院長ゐんちやう野心やしんでもるのではいかとうたがつて、かれ左右とかくとほざかつて、不愛想ぶあいさうにしてゐたが、段々だん/\れて、つひにはまつた素振そぶりへたのでつた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
いまこそは何人なんぴとでもあれ、自我じが名利みょうりをすて、のため、あわれな民衆みんしゅうのために、野心やしんの群雄とならず、領土慾りょうどよくに割拠しない、まことの武士もののふがあらわれなければならないときだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
四十七士の討ち入り、桜田門外さくらだもんがいの変、……しかし、今度の事件ほど暗い運命的な感じのする事件はないね。何だか、国民全体が浅はかな野心やしんのためにくずれて行くような気がするよ。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
渠等かれら兩人野心やしん差挾さしはさみ候事と相見え候と邪辯じやべんふるつて申しければ内記殿は是を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
わたしも一しよかんれよとてきわけもなくりし姿すがたのあくまであどけなきが不愍ふびんにて、もとよりれたのまねば義務ぎむといふすぢもなく、おんをきせての野心やしんもなけれどれより以來いらい百事萬端ひやくじばんたん
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
彼の限りない野心やしんこゝろよ微笑ほゝゑみクリスチヤンを俗人から區別し、前者を深く崇め、後者を意のまゝに許すだらう。
イワン、デミトリチははじめのうち院長いんちょう野心やしんでもあるのではいかとうたがって、かれにとかくとおざかって、不愛想ぶあいそうにしていたが、段々だんだんれて、ついにはまった素振そぶりえたのであった。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
權力を得よう、このみじめな自分自身の爲めに力と名聲を得ようといふ野心やしんから、吾主わがしゆ、神の王國をひろめようと云ふ野心を形造かたちづくりました。十字架の旗印はたじるしの勝利を得る爲めに。