趣味しゅみ)” の例文
だがおぼうさんでもないかぎり、なかなかそうさとれぬものじゃ。だから、そのかなしみをわすれるため、趣味しゅみあそぶということがある。
世の中のために (新字新仮名) / 小川未明(著)
いやしくもその詩興をそこない、趣味しゅみを害するようなものは——人でも、家具でも、物音でも——絶対にその家庭に入れなかった。
道徳、趣味しゅみ、人生観、——何と名づけても差支さしつかえない。とにかく教科書や黒板よりも教師自身の心臓しんぞうに近い何ものかを教えたがるものである。
保吉の手帳から (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ソログーブはおさなときからはは奉公先ほうこうさきやしきで、音楽おんがく演劇えんげきなどにしたしむ機会きかいち、読書どくしょたいするふか趣味しゅみやしなわれた。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
かれは、人柄ひとがらとしては、まことに温和おんわ風貌ふうぼう分別盛ふんべつざかりの紳士しんしである。趣味しゅみがゴルフと読書どくしょだという。そして、井口警部いぐちけいぶとのあいだに、つぎのような会話かいわがあつた。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
「低級趣味しゅみを発揮するなよ」と手塚はいった。そうしてトラビヤタをかけてひとりでなにもかも知っているような顔をして首をふったり感心した表情をしたりした。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
我々の入った部屋は、家具も幾分はましで、その並べ方も、前の部屋より趣味しゅみがあった。もっともその瞬間しゅんかん、わたしはほとんど何ひとつ目に留める余裕よゆうがなかった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
アルキシーとバンジャメンはお父さんの学問の趣味しゅみを受けついでいなかったから、せっかく本を開けても三、四ページもめくるとすぐいねむりを始めるのであった。
そしてそれからは注射がもう趣味しゅみ同然になって、注射液を買いあさる金だけは不思議に惜しいと思わず、寺田のかばんの中には素人しろうとにはめずらしい位さまざまなアンプルがはいっていたのだ。
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
先刻申した個性はおもに学問とか文芸とか趣味しゅみとかについて自己の落ちつくべき所まで行って始めて発展するようにお話し致したのですが、実をいうとその応用ははなはだ広いもので
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
現時げんじ見解けんかいおよ趣味しゅみるに、六号室ごうしつごときは、まことるにしのびざる、厭悪えんおえざるものである。かかる病室びょうしつは、鉄道てつどうること、二百露里ヴェルスタのこの小都会しょうとかいにおいてのみるのである。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
立てていて済んだら呼ばれないうちただちに立って行くようにしたされば春琴の習っている音曲が自然と耳につくようになるのも道理である佐助の音楽趣味しゅみはかくして養われたのであった。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それで男も女も恋愛れんあいかんする趣味しゅみにはなんらの自覚じかくもなかった。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
じつ横山健堂よこやまけんどう氏より伊藤公に関する趣味しゅみ多きはなしを聞いた。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
勾玉まがたま? さかずきのかけたようなもの? きみは、またどうしてそんなものに趣味しゅみっているのです。」と、紳士しんしは、おどろいたようです。
銀河の下の町 (新字新仮名) / 小川未明(著)
舟板塀ふないたべい趣味しゅみ御神灯ごじんとう趣味しゅみとは違うさ。夢窓国師むそうこくしが建てたんだもの」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
東京の学生生活にも、いちじるしく趣味しゅみを感じてきた。
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
きみは、なかなかいいものにがつく。感心かんしんだ。いまから、研究心けんきゅうしんをもって、ふる美術びじゅつ趣味しゅみをもてば、いまにがあかるくなる。まことにいいことだ。
ひすいの玉 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そういうひと教育きょういくするには、物質ぶっしつではいけない。やはり音楽おんがく自然しぜんでなければならない。感情かんじょう趣味しゅみ、そういう方面ほうめん教育きょういくでなければならないとおもわれる。
笑わない娘 (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかし、さんは、音楽おんがくにも趣味しゅみをもっていて、ラジオで、うた放送ほうそうするときなど、将棋しょうぎをさしながら、自分じぶんこまがとられるのもらず、うたのほうにをとられていました。
クラリネットを吹く男 (新字新仮名) / 小川未明(著)
自分じぶんは、そのお祖父じいさんのかおらなかったけれど、たいへんにさけきなひとで、いつもあかかおをしていたということをいていました。また趣味しゅみふかかったひとでもありました。
さかずきの輪廻 (新字新仮名) / 小川未明(著)
かれは、また、「自分じぶん祖父そふは、よほど、趣味しゅみふかい、ききであった。」とおもいました。そして、かれは、そうおもうと、いままでかんじなかった、なつかしさを、祖父そふたいしてかんずるようになったのです。
さかずきの輪廻 (新字新仮名) / 小川未明(著)