ちまた)” の例文
これはちまたの神たる猿田彦大神を青面金剛すなわち三猿の親方と同体と心得、道家のいわゆる三尸が天に登って人の罪悪を告ぐるを防がんため
歴史があり、物語があり、繁華がある。それらはしばらくの間若い心を躍らせて常に憧憬のちまたであった東都の空を想う念も暫くの間は薄らいでいた。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
私などは衆群にはいる前にもっと独居しなくてはならないのではありますまいか。ちまたに出ずるまでにもっと荒野に試みられねばならないのでは?
青春の息の痕 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
疑がえばおのれにさえあざむかれる。まして己以外の人間の、利害のちまたに、損失の塵除ちりよけかぶる、つらの厚さは、容易にははかられぬ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
我は羅馬ロオマの塵多きちまた、焦げたるカムパニアの野、汗流るゝ午景を背にせしを喜びて、人々の我を伴ひ給ひしを謝したり。
それらの者はこの六月の末という暑気に重い甲冑を着て、矢叫やさけび太刀音たちおと陣鐘じんがね、太鼓の修羅しゅらちまたに汗を流し血を流して、追いつ返しつしているのであった。
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
渠等かれらやしろの抜裏の、くらがり坂とて、穴のような中を抜けてふとここへあらわれたが、坂下に大川一つ、橋を向うへ越すと、山を屏風びょうぶめぐらした、翠帳紅閨すいちょうこうけいちまたがある。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
よぶ たらちねの 母のみことか ももらず 八十やそちまたに 夕占ゆふげにも うらにもぞ問ふ 死ぬべき我がゆゑ
伊勢物語など (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
六四畿内河内の国に六五はたけ山が同根どうこんの争ひ果さざれば、みやこぢかくも騒がしきに、春の頃より六六瘟疫えやみさかんにおこなはれて、かばねちまたみ、人の心も今や六七ごふくるならんと
あたかも刀戟とうげき相摩し、砲銃相接するの修羅のちまたに悠然として平服を着し、脱刀して横行濶歩する者のごとく、実にその傍若無人の挙動に至りては、何人といえども驚かざるを得ず。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
悲しいかな仏日はやく没して、生死流転しょうじるてんちまた冥々みょうみょうたり。人ただ色に耽り酒に耽る。誰か狂象きょうぞう跳猿ちょうえんの迷を取り除くを得ん。徒らに人をぼうし法を謗す。これあに閻魔えんま獄卒の責めを免れんや。
われひとり物おもふへやにきこえくるにぶくおもおもしきちまたのおとは
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
堕落させ、果し合い、あちこちへ流離さすらわせ、まよいちまた
ただ茫然ばうぜんと、まどはしき「愛」のちまたにひとり立つ。
つひに見果てぬ内心の夢のちまたに迷ふらむ。
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
舊きはすたまちちまた、また新しく榮ゆべき
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
道のちまたにいきほへど
ソネット (旧字旧仮名) / ステファヌ・マラルメ(著)
ひねもす空のちまた
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
ちまたや、旅行や、盗難を司る庚申のほかに、田畑、作物を司る猴神ある事前述のごとく、そのほかまた猴を山の神とせるあり。
われは蹣跚まんさんとしてきざはしを下り、舟をびて水のちまたを逍遙せり。二人の柁手こぎては相和して歌ふ。
海陸飛脚の往来櫛歯くしのはくよりもいそがわしく、江戸の大都繁華のちまたにわか修羅しゅらちまたに変じ、万の武器、調度を持運び、市中古着あきなう家には陣羽織じんばおり小袴こばかま裁付たっつけ簑笠みのかさ等をかけならべ
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
私はキリストが昔「われちまたに立ちて笛ふけども人躍らず、歌えども和せず」
青春の息の痕 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
皆具かいぐ取鎧とりよろうて草摺長くさずりながにザックと着なした大鎧おおよろいで茶室へも通れまいし、又如何に茶に招かれたにしてもただちに其場より修羅のちまたに踏込もうというのにはかま肩衣かたぎぬで、其肩衣の鯨も抜いたようななりも変である。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
卜部うらべをも八十のちまた占問うらとへど君をあひ見むたどきしらずも
伊勢物語など (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
心しづめて部屋にし居ればちまたより神の祭りのふえきこゆ
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
つひに見果てぬ内心の夢のちまたに迷ふらむ。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
京洛けいらくちまたに満つる初笑
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
しぐるしちまた日中ひなか
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
われは或ときは蔭多きちまたをそゞろありきし、或ときは一室に枯坐して新に戲曲の稿を起しつ。曲の主人公はレオナルドオ・ダ・ヰンチなりき。レオナルドオの住みしは此地なり。