藁束わらたば)” の例文
見ると、マドレーヌ氏は藁束わらたばの上にすわって、眠ってるコゼットをながめていた。フォーシュルヴァンは半身を起こして言った。
晩の八時から明け方の四時まで、灯火は油にひたした藁束わらたばであった。織り上がると美女は立ち去った。比丘尼は画像の深義を説いてきかせた。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
そして一同、はかまを割って、一緒に胡坐あぐらをくんで坐り直すと、銘々がたずさえて来たらしい一藁束わらたばぐして、馬のくつを作り始めたのであった。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
乾燥かんさうした藁束わらたば周圍しうゐねぶつて、さらそのほのほ薄闇うすぐらいへうちからのがれようとして屋根裏やねうらうた。それが迅速じんそくちから瞬間しゆんかん活動くわつどうであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
巌畳がんじょうな支那の中年男が、酸漿ほおずきのしぼんだようなものを何本となく藁束わらたばに刺したのを肩へ担いで、欠伸あくびみたいに大きくゆっくり口を開けるたんびに、円い太い声が
踊る地平線:01 踊る地平線 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
また平生見かける相撲が——髪を藁束わらたばねにしたふんどしかつぎが相撲膏すもうこうっていたためかもしれない。
追憶 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
栄二は繩やむしろにする藁束わらたばを、五人のなかまと船からおろしていたが、灰焼場のほうで人の叫びあう声と、役人たちの走りまわるのを見て、なにげなくそっちへいってみた。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
うちに、あぜかげから、ひよいとつた、藁束わらたばたけあしで、やせさらばへたものがある。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
てお呼び声がどこからか聞えるように思ってフイッと眼をいてみるてえと、コンクリート作りの馬小舎ごやみてえに狭い藁束わらたばだらけの床の上へ投げ出されているのに気が付きました。
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼は太い棒切れを握り身をこごめ気味にしてその家の周囲をすみずみまで探り探り二回ふたまわりすると、藁束わらたばの上に身をひそめに腰をかけた。もう大丈夫だ。ここなら見つかりっこない、と彼は思った。
海底の様にの林はないけれど、その代りに、木切れ藁束わらたばドロドロの布屑ぬのくず、犬とも猫とも知れぬ小動物の白骨などが、濁った水底にブヨブヨと蠢いている様は、海などよりも一層不気味に物凄かった。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
まい晩日本の町々が藁束わらたばのように焼き払われるそのなかで
原爆詩集 (新字新仮名) / 峠三吉(著)
四方の窓から朝の陽が、藁束わらたばのように投げ込まれている。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
据物斬すえものぎりの名人だろう。藁束わらたばの気で人間を切りやがる」
平気で、陽気で、藁束わらたばのやうにしむみりと
山羊の歌 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
それから、その小屋の中にあるただ一つの寝台にはコゼットが寝ていたので、彼らはそれぞれ藁束わらたばの上に横になった。
卯平うへい視力しりよくふたゝ恢復くわいふくしたときにはすで天井てんじやうはりんだ藁束わらたばの、みだれてのぞいて穗先ほさきつたひてのぼつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
自分からさきに藁束わらたばを置きなおして腰をかけ、伊緒にも席を与えた。低い天井からってある燈皿のあかりが、じいじいと音をたてながら、ふたりの上からやわらかい光をなげていた。
日本婦道記:春三たび (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
据物斬すゑものぎりの名人だらう。藁束わらたばの氣で人間を切りやがる」
ねぶつたさられをんでずた/\に崩壞ほうくわいした藁束わらたばたもつたまゝすでいきほひをしづめた落葉おちばうへにばら/\とみだおち其處そこ火勢くわせい恢復くわいふくされた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
パリー街と呼ばれてる長い地下室に藁束わらたばがまき散らされ、その上に囚人らは積み重ねられたが、リヨン生まれのラグランジュという男は、彼らに向かって元気な言葉をしゃべりちらしていた。